ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

62話ー搬送ー

「作戦区域内を散歩していた……などと、随分と余裕を持たせた嘘ですね?」

「軽いジョークさ。張り詰めた空気は嫌いでね」

「その程度のジョークでどうにかなるとでも思っているの? 本当なら問い詰めたいことが山ほどあるのよ」

「本当ならってことは今その余裕はないのかな?」

「優先すべき事項が違うってだけよ」

 葉月は一切臆することなく伊庭に向かって言う。
 伊庭はどこか諦めた風にため息をつくと本土軍の若き二人の兵士に一瞥もくれずに言った。

「わかったわかった。ここは大人しく譲ろう。ま、そこそこ有用な情報は持ってるはずだからきつく尋問するといい」

 そう言って伊庭は顔色一つ変えずその場から去ってしまった。
 葉月は本土軍の二人に電気銃を向けたまま近寄ると、若い男の方が両手を挙げて抵抗の意思がないことを示す。

「随分とひどく負傷してるわね……」

「手筈通り一度父に診てもらいます。そのあと夜刀神PMCに引き渡しますがそれでいいですか?」

「ありがとうしずるん」

「その呼び方は……まあ完全にプライベートで動いてますしいいですが。しか伊庭少尉は随分と怪しい行動を起こしていますね。企業連とGNCの庇護下にあるため深く探れないのがひどくもどかしい」

「祠堂君に対して随分な劣等感を抱いているのはわかっているのだけどね……。それはそうとしずるん、治療が終わってもこの子たちから情報は引き出さないでほしいの」

「なぜです?」

「偽の情報を掴まされてる可能性があるの。下手に流布されるとまずい可能性があるわ」

「嘘かどうかなど、こちらのシステムを使えば……」

「嘘であるならわかるかもしれないけれど……彼らが嘘だと思っていなかった場合、その情報は公に正とされるわ」

 要するに、彼らは初めから偽の情報を蒔くために切り捨てられた可能性がある。
 葉月は彼らの眼前ということもありそこまでは言わなかったが、静流は葉月が何を言わんとしているかを察し、それ以上は何も聞かず大人しく承諾した。

「彼らの存在はできる限り内密にします。彼らの事情であればヒナキの方がよく知っているかもしれませんし。……搬送をお願いできますか? ノックノック」

 静流は背後に向かってそう声をかけた。すると建物の陰からセンチュリオンテクノロジー所属、静流と同じく特殊二脚機甲パイロットのアインス=ノックノックが姿を現し……。

「ちょお……やめてぇやキナ臭いことに首突っ込ませんの……。自分、今までどんだけ真っ当に生きてきた思てんのん」

「すいません、ノックノック。頼れるのが貴方しかいなくて」

「せやったらしゃあないなぁ! 他でもない結月ちゃんの頼みや。ま、どんと自分に任せとき!」

 今回の作戦、最後方でスタンバイしていたのはセンチュリオンテクノロジーが所有する特殊二脚機甲の内の一機、コバルトスケイルだった。
 その搭乗者、ノックノックに頼み彼の部下も含め搬送を秘密裏に行うよう頼んだのだ。

「あんまりその気にさせると後でめんどくさいわよ、しずるん」

「ふふ、なんのことです?」

「この小悪魔め」

 本土軍の二人の搬送を見送った後もまだまだ気は抜けない。
 と、言うより現状一番まずい状況に置かれているのは夜刀神PMCである。

 ゲートが破壊され採掘シャフト内に海水が流れ込んできたために撤退せざるを得なくなった作戦部隊の中で雛樹のみが取り残されてしまっている。

 RB軍曹の助言によりベリオノイズを投入し、ベリオノイズのシステムが起動したのを確認するまでは神にも祈る気分だった……。

「ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く