ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

49話ー爆破地点ー


 ドミネーター因子を含んだ薬を服用済みである……と蘇芳が判断してくれて助かった。
 確かにドミネーター因子を持つ雛樹の能力は薬によるもの……と考えたほうが自然である。
 グレアノイドを精製する人間など、この世には存在し得ないと当然のごとく考えるからだ。
  この都市の最高戦力であるステイシスを除いては、だが。

 兎にも角にもあの二人を逃がすことだけはできた。
 雛樹はあの二人が何故切り捨てられたのかを聞かされていた。

 あの二人の若い兵士は飛燕直属の部下であり、飛燕の意志を継ぐ者たちである。
 セントラルストリートパレード襲撃の際、雛樹は飛燕からとある一言を聞いていた。
 《ステイシス(こいつ)があれば本土の人間は救われる》

 あの時結果としてステイシスの血液を回収し本土に持ち帰ったのは研究者の女、真月(まがつ)であり、結果として人に怪物の因子を打ち凶暴化させる薬物を開発した。

 だが飛燕が言ったその言葉が、本土の救いを本来の形で求めたものだったとしたら。
 
 そう、本来ステイシスを奪取し研究されようとしていたのは、グレアノイド汚染の中でも人間が生きられるよう、グレアノイド耐性を身につけるための薬品の研究だったという。

 だが飛燕が聞かされていたものとは違い、真月が行った研究はドミネーター因子により、より強力な兵隊を作り上げる研究であった。

 本土で暮らす様々な住民が安心して暮らせるよう行われた研究ではなく、本土がより強力な武力を獲得し強国となるための研究であった。

 そう、本土はステイシスを模倣しそれを量産しようとしている。

 本土に住む善良な人間がどれだけ犠牲になろうとも。

 わざわざ捕まりやすいように採掘シャフトの一画に閉じ込められていたところを鑑みると、捕まって尋問されてもいいよう彼ら二人は偽の情報のみを初めから与えられていたのだろう。

「あっははは! なんやのんこの惨状。えろう積まれとったんやねぇ、爆薬。で、この惨状まともにくろうた本人はどこやろね」

 非常時に使用される通路の堅牢な扉はもちろん、そこにつながる足場の大部分が吹き飛んでいる。
 そしてここまでの爆発を受けたはずの男はどうなっているかというと……。

「あそこにいますぜ姐(あね)さん」

 この爆発地点から真逆の足場にかろうじて乗り、膝を立てて座り込んでいた。
 

「さすがのRBはんでも無傷ゆうわけにいかんかったみたいやねぇ」

「RB! 大丈夫か!?」

 新田大尉に声をかけられ、RBは右手をひらひらと力無く上げた。
 一応は心配いらないとのことだろうが……。

「これでよく生きてたな……」

「お、ご到着やねルーキーはん。下層にはなんにもいはらんかったやろ?」

 下層からワイヤーガンで上がってきた雛樹に対し、蘇芳は問う。
 それに対し雛樹は顔色ひとつ変えず当たりじゃなかったようですと答えた。


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