ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

45話ー慢心ー

 本土部隊である二人は仲間に裏切られたという。
 本土もこの海上都市と同じように一枚岩の組織とはいかないようだが……。

 ゆらゆらと部屋の中央へ歩いてきた蘇芳の様子を、息を潜めて確認しながら奏太は三本指を立てた。

 その三本指を確認した澪は狙撃銃を構えた。
 蘇芳の視界からこちらが消える時を見計らい、一本ずつ指を閉じてゆく。

(今だ……!!)

 自身が装備していたアサルトライフルを構えながら蘇芳の側面から躍り出たのは奏太だった。

「蘇芳! こっちだ!!」

「!!」

 不意をついた大声での呼びかけ。
 人は意図せぬ方向から呼びかけられるとその体の動きを止めてしまうことがある。
 例に漏れず蘇芳も一瞬ながら硬直してしまった。

 その隙に奏太は照準を蘇芳の胴体に合わせアサルトライフルの引き金を引き、発泡。
 ただ、この真正面からの銃撃は防がれるであろうことはわかっていた。
 完全にこちらに意識を集中させている。狙うぞ撃つぞで行った攻撃が簡単に通るとも思えない。
 蘇芳の背後、斜め方向からの攻撃ならばどうか。

 澪は蘇芳の硬直時間を逃さず、狙撃銃の引き金を引いていた。

「やっぱダメか……!」

 結果は瞬間開示された。蘇芳の前後に展開された青く光る物質化光の刃により弾丸は防がれた。
 正面からのものだけでなく、背後からの狙撃すらも止められた。
 初めから場所が割れていたのか……それとも瞬時に対応したのか。
 どちらにせよ厄介な武装だ。
 しかも2本……だけではない。
 今展開されたものだけで6本。蘇芳の周囲を囲むように展開されたその刃はかの有名なウィンバックアブソリューターの主兵装であるムラクモを思い起こさせる。

「おいでやすドブネズミはん。こんな幼稚な作戦でうちを仕留められると本気で思いはったんやろか。悲しいわぁ」

「思わないよ。いい案が浮かばなくてすいませんね」

 苦笑いを浮かべ、精一杯の強がりを言っては見るものの……銃を構える気にもなれない。
 なんだあの武装は。至近距離からの銃撃をいとも簡単に止められるほどの反応速度とは恐れ入る。

 おそらく一歩踏み出す、引き金を引く前に宙に展開された刃はこちらを刻みに来るだろう。
 
「伏せて……ッ!!」

「んー?」

 蘇芳の背後から床を叩く金属の音が聞こえた。
 円筒形のそれは蘇芳の足元まで転がり……。

「ほいな」

 蹴り返された。
 蹴られ、それを投げた澪の元まで滑っていき、強烈な音と光を放ち破裂する。

「きゃあ!!」
 
 スタングレネード。非殺傷投擲武器ではあるが、生身の人間がまともにその爆発を受けてしまうと視覚聴覚が麻痺し意識が刈り取られてしまう。

「く……!!」

「青いなぁあんさんら。なんや弱いもんいじめしてるみたいで気分よぉありまへんね」

 蘇芳は目的の敵を前にして物質加光で作られたフォトンノイドブレードを仕舞い込み、ユニットを背のアタッチメントへ格納した。

「間違うて殺してもうてもあれやし、素手でやりましょか。ほら、遊びましょや」

「……バカにしやがって……!!」

 銃を持った相手に対して素手でなどと……これ以上の侮辱はない。
 ただしかし……ここが唯一のチャンスだ。澪はしばらく立ち上がれない。
 どちらにしても蘇芳を退けてここから出る必要があるのだ。

 相手の慢心を利用できれば勝機はある。
 一度落ち着け、訓練を思い出せ。まだまだケツの青いガキだということは自分が一番よくわかっている。
 
 だが慢心した相手ほど仕留めやすいということもまた知っていた。

 アサルトライフルからハンドガンとナイフに持ち替え腰を落とし、臨戦態勢に入った。

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