ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節12部ー切り札出撃ー

 だが、遅かった。収束したグレアノイド粒子が放たれ、幅の広い、赤い光が視界の端から端をなぎ払うように過ぎていった。

 その赤い光の帯が通った海水は大量に蒸発し、島は抉れ、余波で何隻か軍艦が転覆する。

 凄まじい衝撃と揺れはブルーグラディウスのコクピット内にも襲った。発艦直前だったため、機体の固定具が外されており、狭い格納庫内で大きく姿勢を崩して壁面へ叩きつけられた。

「……いったァ……! 東雲准尉! 無事ですか!?」
《問題ないけど、輸送部隊の護衛艦が2隻転覆したんだ! この艦は救出に向かうから結月ちゃん! あのグレアノイド体をお願い!》
「わかりました……。護衛艦はお願いします!」

 ブルーグラディウスは、姿勢制御システムをもって発艦体勢を整え、背面のスラスターから青い粒子を噴出させ格納庫を抜け、飛翔し山頂のグレアノイド体へ真っ直ぐ向かう。

「なんてこと……!」

 島へ降り注いだ赤い粒子の帯。それは行動を開始していた二脚機甲部隊を半壊させていた。
 海ごと島を抉った攻撃により、直撃した二脚機甲は跡形もなく消し飛び、当たらずとも衝撃と熱波を受けた機体の装甲が剥げたり、溶解し、中破、もしくは大破し機能を停止していた。

 光の帯、あれはまるでファトンノイド粒子を使用した、方舟の大型兵器、粒子砲の攻撃と酷似している。だが、威力はそれを大きく凌ぐものだった。

 コクピット内に、アラート音が鳴り響く。前方、山頂のグレアノイド体から再び高密度のグレアノイド粒子の収束を確認したのだ。

「次弾が早すぎる……! なんて粒子蓄積量ですか……!! ムラクモ全機展開! 敵グレアノイド粒子射角予測、反射可能位置にシールド展開!!」

 飛行しながら、ブルーグラディウス各部に格納された自立式ブレードが12基前方へ射出された。
 三基一組、全四つのブレードユニットがそれぞれフォトンノイド粒子を放出し、広範囲にわたるシールドを形作っていく。

 そのシールドの展開がギリギリ間に合った。

 再び放たれたグレアノイド粒子の帯を、地上に到達する前にシールドで弾く。 あえて真正面で受け止めることをせず、反射させる形で受けたのは急場凌ぎのこのシールドでは受けられないと判断したためだ。

 軌道を変えられた粒子の帯は、水平線の彼方へ消えていった。

「ムラクモ9基大破、残った4基も粒子量40%。これじゃ次は防げませんね……ですが!」

 ムラクモの射程内に到達。残った4基のムラクモに物質化光を纏わせ火力を持たせ、山頂のグレアノイド体へ射出した。
 4基がまとまり、刃先を向けて高速回転しつつ、そのグレアノイド体を貫いた。

 想定より柔らかく、容易く貫く。体の内側でムラクモは分離し、それぞれのブレードが切り刻みグレアノイド体を破壊した。しかし……。

《ウアアアアアアア……ッ!!》

 外部スピーカーから入ってきた音声に、静流は驚いた。複数の人間のものと思わしき叫び声だ。その叫び声は前方、破壊したグレアノイド体から聞こえてきている。あの化け物からなぜ人の声が……。

「……グレアノイド体の異常増殖……!! 嘘でしょう、再生する!?」

 モニターに表示された敵情報にデンジャーアラートがかかる。破壊されたそばから、グレアノイド体が増殖し、再び巨大な粒子射出砲台を形成しようとしていた。

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