ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節9部ー暗殺者の気配ー

「ここか……侵食体も見えない。本当に生存者がいるのかもしれないな」

 来栖川はすぐさま生存者が確認された区画へ入り、捜索を開始した。随分と入り組んだ部屋だ。暗いことも相まって、しばらくかかってしまったが……。

「……まぶし……い?」

 タクティカルライトの光を直接浴びて、うめき声をあげたのは、小さな子供。その周りには数人の若い男性や女性が痩せこけた状態で言葉なくうなだれていた。

「もう大丈夫だ。私は海上都市センチュリオンノア、救援部隊の来栖川。外へ出るぞ、歩けるか?」
「かい……じょう、都市……?」
「化け物が、化け物が外にいるんだ……。助けてくれ……」
「安心してくれ。その化け物の制圧部隊も控えている。落ち着いて、皆外に出るんだ」

 化け物とは侵食体のことだろう。外に出現したその侵食体の脅威から逃れるために、このシェルターへ逃げ込み生き延びていた者たち。
 中にはすでに餓死して事切れている者もいる。それでも、残った者たちを導いて、救出しなければならない。

 来栖川は、数名の生存者とともにこの施設から脱出するため、先ほどここまできた道を辿ることになった。
 第三輸送部隊艦へ連絡を入れ、本格的に救出活動を開始したが増援は望めない。
 ただ一人、異様な頼もしさを持っていた雛樹の存在が気がかりではある。しかし、島の住人、その救出が最優先と判断した来栖川は生存者を率いて出口へ向かった。

「……気のせいだったか? いや、そんなはずは……」

銃を構えつつ気配の主を追ってきていた雛樹は、施設の最深部付近まで来ていた。この辺りはグレアノイド侵食が進んではいるが、人体に影響が出るほどの粒子は舞っていない。

 あたりはシンと静まり返り、人の気配はない。仕方なく来栖川のところへ戻ろうとした雛樹だったが……。

「ッ……!!!」

 パスンと、サプレッサーを装着しているであろう銃声が後方から聞こえ、同時に左ひざを地面に突く。
 先ほど感じた気配を後方に感じた。雛樹はすぐさま転がり、後方で跳弾し火花を発す弾頭を回避しつつ遮蔽物となりそうなコンテナの後ろへ身を隠した。

「っつゥ…………!!」

ここには明かりとなるものはない。いくら自分がタクティカルライトで辺りを照らしていたとはいえ一発で、的確に足を撃ち抜いてきたところを見ると暗視スコープを装備した人間だ。
 だが、暗所で動けるのは相手だけではない。雛樹の人ならざる赤い瞳は夜目が利く。だが、それだけに頼ると優位に立てるわけではない。

 そこで、持っていた発煙筒フレアを気配のする方へ投げ込んだ。
 一時的に強烈な光と煙を発するそのフレアと、暗視スコープの相性は悪い。暗視スコープ通して見ている景色は白く染まって何も視認できないでいるだろう。

「ッチィ、クソッ!! なんて古典的なもんもってやがんだ……ッ」

 その気配はたまらず暗視スコープを外したが、視界は未だ戻らない。雛樹はそれを見越してすでに遮蔽物から飛び出し、一気に距離を詰めて押さえ込みにかかっていた。

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