ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

22話ー下された処分ー


……——。

「呼び出された理由はわかるな?」

「はい」

「状況が状況のため、処分を下さざるを得なかった。すまない」

「いえ、軽すぎる処分内容だと思っています。むしろこれで企業連のお偉方がよく納得したと」

 センチュリオンテクノロジー本部、アルビナ大佐の書斎に呼ばれた結月静流少尉はその身を軍服に包んではいたが、仕事中の張り詰めた雰囲気は纏っていなかった。

 ガスマスクの男をみすみす逃した処分として与えられたのは、一ヶ月間の本部待機。
 任務を受けることもできず、できることといえば己の鍛錬のみであった。

「人型ドミネーターを逃したことについては企業連側も公にしたくないためか、思いの外こちらが提示した処分内容が通ってな」

 降格などの重すぎる処分を下してしまえば、結月少尉のミスがただ不審者を逃しただけなのか? そのほかになにか重大なミスを犯したのではないかと勘ぐる輩が出てくるためだろう。

 その上、企業連側の対応が異様に遅れていたことも理由としてはあるのかもしれないが。

「ブルーグラディウスに残った記録だが……。火器管制システムに重大なエラーが発生したのだったな」

「はい。ムラクモの制御が、一時的にですがドミネーターに奪われました。制御すらできていたところを見ると例のドミネーターには高度な知性が備わっていると思われますが……」

「遠隔操作兵器を扱うブルーグラディウスには荷が思い相手ではありそうか」

「いえ。ムラクモが使用できないとあれば、別の手段を取るまでのことです。問題ありません」

 ムラクモの制御を奪ったドミネーターに関しては、エンジニアやオペレーターを交えて対策は練ってある。
 どうしても主兵装に頼りがちになってしまっていたところだったが、ブルーグラディウスの戦術はなにもムラクモだけではない。

「都市内に現れたドミネーターには“ブラック”というコードが付けられた。ドミネーター侵入を知るものにしかわからないコードであるがゆえ、口外するなよ」

「アルビナ大佐、ガスマスクの男の捜索はどうなっているのですか?」

「進展は無しだ。肝心の証拠がこれではな……」

 と、書斎の立体モニターに表示したのはある一点にひどいノイズが入った画像だった。
 おそらくその一点にはガスマスクの男が映っているはずなのだろうが……。

「認識阻害のジャマーシステムだ。あらゆる電子機器による撮影は無効化されるだろうな」

「……厄介なものを。ガスマスクの男は私が必ず探し出し捕えます」

「企業連も動いてはいるが、おそらく本土絡みだ。こちらも慎重に動かねばならない。パレード襲撃の際の本土軍人が何名か潜り込んだままになっているという情報は確実だろうが……残った鼠はおそらく腕の立つ奴らばかりの筈だ。ええい……忌々しい」

 パレード襲撃からかなりの日数が経ったのだが、それでも本土からの侵入者の尻尾すら掴めていない状況なのだ。
 都市に存在する軍部それぞれが秘密裏に捜索しているはずなのだがそれでも発見できていない。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品