ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節11部ー侵食体ー

「来栖川准尉、荒木一等。報告したいことがあるんですが」
「……ん、どうした祠堂君」

 ゆっくりと進むコンテナ車の最前、側面についていた隊長、副長の所へ小走りした雛樹は簡潔に警戒レベルの底上げを提案した。

「集落の生命反応に疑問を感じるから警戒しろと? 君は随分物騒なことを言うんだね」

 その報告を聞いた来栖川准尉は顔をしかめてしまった。それはそうだろう。集落に生存者がいると判明した頭から、その生存者の可能性を仮ではあるが否定し、警戒対象にしろと言われれば。

「生存している割には動きがなさすぎます。4、5人ひとかたまりになって屋内で震えているなんてもってのほかです。どこぞの童話でもあるまいし、こんな島に住んでいる人間がそこまで行動を起こさないのは不自然です」
「そうは言われてもね。不自然だからどうなのかな? レーダーには確かに住民の反応が出ている。それ以外の何かという可能性は……」
「あるんです。侵食体化が進んだ人間の可能性が」
「侵食体? 稀に確認されるグレアノイド耐性を持った人間の変異のことか」
「侵食体はグレアノイドに侵され、人である細胞が変異し、異形化することで生まれ、生命活動は継続されます。レーダーに捉えられるのも、人としての反応のみで、レーダー上では人間と侵食体の区別はつきません。ただし、一人当たりの生命反応は時間が経つにつれ“増殖”します」
「増殖? どういうこと?」
「グレアノイド侵食によって変異した人体細胞が増殖と死滅を繰り返し異形化します。その際、重要な生命維持器官が複数生まれ、人体の変異化による負担を補おうとするんです。一箇所にいくつも生命反応が見られたという時点で、警戒するべきでした」


 それでも難色を示そうとする来栖川准尉に対し、荒木一等兵が口を挟んできた。

「来栖川准尉、彼の言うことは真摯に受け止めるべきじゃないかと。ブリーフィングでわかりましたが、外での任務において我々以上の経験を積んでいます。それに、予定では集落に到着するのは我々が一番早い。集落へのレーダー探査レベルを上げましょう」
「ふむ……そうか。そうだな。可能な限り警戒網を広げよう。これでいいか? 祠堂君」
「……よろしくお願いします」

 雛樹は助け舟を出してくれた荒木一等兵に軽く会釈した。すると、荒木一等兵は薄く笑顔を浮かべて、頷いた。荒木一等兵はどうやら話のわかる人物らしい。彼は副長らしく、任務における上司の決断をサポートする役を担っているらしい。優しげな顔から想像できるような人物だったようだ。

「どうだったのぉ?」
「荒木一等の判断がなかったら危なかった。もし集落に入るのが侵食体だった場合、慣れてない彼らだと銃を向けることさえままならないからな……。もし、部隊に反応して動き出すようなことがあれば、“侵食体を撃てる”兵士で対処するしかない」

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