ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
第10話ー未だ知らぬ行動の意味ー
わざわざここまで出向いた自分たちを出迎えた二人は雛樹とそう変わらない年齢の男女だった。
古ぼけた照明器による明かりがついたことによって、お互いが顔を合わせることになり……。
「飛燕さんから話は聞いているよ、CTF201の生き残りさん。随分とおかしな力を使うんだね」
「あんたらが飛燕と共に都市へ侵入したっていう本土軍人か。さっさと要件を言ってくれ。俺とこいつが空いた腹を抱えてここに来たのは分かってる筈だ」
「まあそう慌てないで欲しい……と、言いたいところだけど。あまり時間がなくてね。早速ブリーフィングを行おう」
「話が早くて助かる。あまり遅くなるとこいつが痺れを切らせるからな」
今にも噛みつきそうな様子で待機しているガーネットを宥めながら話をするのは至難を極めるところだ。
ただでさえ、生き残りだの何だとの雛樹のことを呼ぶ連中が目の前でいるせいで気が立っている。
この空洞を進んだ先にある鉄扉。
そこを開けるとボロボロのコンクリートに囲まれた区画がある。
生活感の欠片もないそこで自分たちを迎えた二人以外の軍人が数人、殺伐とした雰囲気を纏いつつただそこに存在していた。
若い二人と違ってひどい有様だ。
おそらく、飛燕直属の部下ではない。
死線を潜り、生と死の境を嫌という程往復した人間が持つ異様な雰囲気は雛樹もよく知っていた。
ドミネーターではなく、人を相手に戦争をしてきた兵士たちだ。
「……」
「なぁに? 気味悪ぅい」
口を開くことなく、ただただ雛樹を睨めつける彼らであったが……雛樹にとってそれは当然のことであった。
パレードの際、オフィスビルに潜んでいた彼らの仲間を制圧したのだから。
仲間の仇がそこにいるのだ、心中穏やかでないのは仕方のないことだろう。
雛樹の右手が無意識のうちに腰後ろに添えられる。
「大丈夫ですよ、そんなに警戒しないでも……こちらとしてはものを頼む側なのだから危害を加えることはしません。あなたにはね」
「そりゃどうも」
自分ではなく、自分と関わりのある人間にはどうか。
下手に迎え撃つことができない分、そちらの方が厄介だ。
ヘドが出る思いだったが、そんな様子を一切見せずに席に着く。
そして、席に着くや否や差し出されたのは黒く物々しいガスマスクと、とある小型の機械だった。
……——。
依頼の内容は単純そうで難解なものだった。
現在、都市中で話題になっており知らぬものはいないであろう企業連合が開発している時間跳躍システム。
いわゆる人類の夢であったタイムマシンであるのだが、今回その試作段階のものを狙った作戦を雛樹に任せるとのこと。
狙うといっても破壊するのではなく、“起動”させに行く。
指定された年月を入力し、その時間跳躍システムを起動させるだけだという。
そんなもの、内通者とやらにやらせろと言ってはみたのだが、祠堂雛樹がその場にいなければ成立しない事象があると聞かなかった。
「……」
企業連研究施設内部に侵入した雛樹は今回のことのあまりのきな臭さに違和感を感じずにはいられなかった。
あまりにも軽く、そして驚くほど容易。
黒いジャケットにフード、それにガスマスクを被って正体を隠しながら来たものの、仮にも企業連本部というこの海上都市主要区画に侵入することがここまで簡単でいいものか。
何者かの掌の上で踊っている気がしてならない。
何かを引き起こさせようとしている……そんなことを別の場所に待たせてあるガーネットが言っていた。
「失敗すれば晴れて本格的にスパイ確定だな……」
古ぼけた照明器による明かりがついたことによって、お互いが顔を合わせることになり……。
「飛燕さんから話は聞いているよ、CTF201の生き残りさん。随分とおかしな力を使うんだね」
「あんたらが飛燕と共に都市へ侵入したっていう本土軍人か。さっさと要件を言ってくれ。俺とこいつが空いた腹を抱えてここに来たのは分かってる筈だ」
「まあそう慌てないで欲しい……と、言いたいところだけど。あまり時間がなくてね。早速ブリーフィングを行おう」
「話が早くて助かる。あまり遅くなるとこいつが痺れを切らせるからな」
今にも噛みつきそうな様子で待機しているガーネットを宥めながら話をするのは至難を極めるところだ。
ただでさえ、生き残りだの何だとの雛樹のことを呼ぶ連中が目の前でいるせいで気が立っている。
この空洞を進んだ先にある鉄扉。
そこを開けるとボロボロのコンクリートに囲まれた区画がある。
生活感の欠片もないそこで自分たちを迎えた二人以外の軍人が数人、殺伐とした雰囲気を纏いつつただそこに存在していた。
若い二人と違ってひどい有様だ。
おそらく、飛燕直属の部下ではない。
死線を潜り、生と死の境を嫌という程往復した人間が持つ異様な雰囲気は雛樹もよく知っていた。
ドミネーターではなく、人を相手に戦争をしてきた兵士たちだ。
「……」
「なぁに? 気味悪ぅい」
口を開くことなく、ただただ雛樹を睨めつける彼らであったが……雛樹にとってそれは当然のことであった。
パレードの際、オフィスビルに潜んでいた彼らの仲間を制圧したのだから。
仲間の仇がそこにいるのだ、心中穏やかでないのは仕方のないことだろう。
雛樹の右手が無意識のうちに腰後ろに添えられる。
「大丈夫ですよ、そんなに警戒しないでも……こちらとしてはものを頼む側なのだから危害を加えることはしません。あなたにはね」
「そりゃどうも」
自分ではなく、自分と関わりのある人間にはどうか。
下手に迎え撃つことができない分、そちらの方が厄介だ。
ヘドが出る思いだったが、そんな様子を一切見せずに席に着く。
そして、席に着くや否や差し出されたのは黒く物々しいガスマスクと、とある小型の機械だった。
……——。
依頼の内容は単純そうで難解なものだった。
現在、都市中で話題になっており知らぬものはいないであろう企業連合が開発している時間跳躍システム。
いわゆる人類の夢であったタイムマシンであるのだが、今回その試作段階のものを狙った作戦を雛樹に任せるとのこと。
狙うといっても破壊するのではなく、“起動”させに行く。
指定された年月を入力し、その時間跳躍システムを起動させるだけだという。
そんなもの、内通者とやらにやらせろと言ってはみたのだが、祠堂雛樹がその場にいなければ成立しない事象があると聞かなかった。
「……」
企業連研究施設内部に侵入した雛樹は今回のことのあまりのきな臭さに違和感を感じずにはいられなかった。
あまりにも軽く、そして驚くほど容易。
黒いジャケットにフード、それにガスマスクを被って正体を隠しながら来たものの、仮にも企業連本部というこの海上都市主要区画に侵入することがここまで簡単でいいものか。
何者かの掌の上で踊っている気がしてならない。
何かを引き起こさせようとしている……そんなことを別の場所に待たせてあるガーネットが言っていた。
「失敗すれば晴れて本格的にスパイ確定だな……」
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