ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第6話ー的中ー


「べぇ」

 あまりに気安い態度に苛立ち、ガーネットは舌を出して威嚇した。
 それに対して飛燕はカラカラと笑っている。
 蒸気で焼けただれた顔はそれはもう悲惨なものではあったが、それでも彼は悲観している様子はなく、どこか開き直った様子であった。

 ぱっと右手を上げて、まるでここが自分の部屋であるかのように言う。

「まあなんもないとこだが座れよ。」

 そんな態度にも動じることなく、雛樹は独房前の椅子に座り……。

「なんの用で? 俺も暇じゃないんだ。さっさと済ませてくれると助かる」

「おいおいつれねーじゃんか。どうせ忙しくねーんだろ? しってるんだぜ、お前底辺軍事会社で働いてるそうじゃんか」

「だったら?」

「CTF201でやってける実力がありながら、随分ドタマ低く生きてんなって話だよ、なあおチビちゃんよ」

 ガーネットはチビという単語に反応し、思いっきり食ってかかろうとしたが雛樹に止められてしまい……。

「しどぉに感謝することねぇ……」

「随分手懐けてるみてぇじゃん。ま、その辺の事情はよく知らねぇが」

 随分と警戒心のない話し方だ。
 いま、この面会中の会話は一言一句逃すことなく記録されているはずなのだが……。

「随分と元気だな。ここの連中に手酷い尋問を受けたって聞いてたが?」

「手酷い? 脳みその中スキャンするだけの連中の尋問が手酷いってんならその通り。脳みその方がよっぽどおしゃべりなんだとよぉ。まあ、ろくな情報抜き出せてない時点で……へへ、俺がどんだけ優秀かってこたぁわかってくれるよな」

「興味ないな。あんたをここにぶち込んだのは俺だ。優秀さなんて底が知れて……」

「どうかな?」

 爛れた顔で不敵に笑みを浮かべた飛燕の言葉に対し、雛樹は身構えた。
 明らかに何かがある。何かはわからないが、すでになにか仕掛けられている。

「さあ、話をしようじゃん。俺と、お前たちだけでだ。これから25分間、邪魔者はいない。今からする話を聞く輩はいねーの、わかったか?」

「……なに?」

「ここでの出来事は記録もされねーし、映像も残らねぇってことじゃん。いいか、ここの囚人と外部の人間との面会時間は10分が限度なんだぜ、外の看守に何て言われた」

 30分だ。面会時間は30分と伝えてあると言われていた。

 どういうことだ? ここの看守が気を利かせて長くとったなどというわけではあるまい。

「俺ら本土組が、この方舟になんの備えもなく攻め入ったとでも思ってんのか? 色々と周到な準備をしてあんだよ、こりゃその一環だ」

「……!!」

 尋問を受けてなお何も話さなかったはずのこの男が、こうも軽々しく言ってはいけないような情報をさらけ出した。
 内通者がおり、情報が流出する心配がないためと考えるほかない。

「まだ信じられんって顔だ、そんな顔してるぜ生き残り。よし、んじゃこいつを見せてやろう、見てまだ信じられねぇってなら……」

 独房の前に立体モニターが展開された。そしてその画面に映っていたのは、夜刀神PMCの事務所にまだ残っている社長の姿だった。

 どこかの高台から映され事務所の窓から書斎机についている葉月の後ろ姿。
 それを見た瞬間に、ある程度察しはついた。

「お前さんは明日からおまんま食い上げだ」

「しどぉ、こいつ殺そ。今すぐ殺そ。あたしご飯食べられなくなるのやだぁ」

「落ち着け、ガーネット。……狙ってるのは例の狙撃手だな」

 剣呑な目つきで背中を曲げ、前のめり気味になりつつ独房にいる飛燕を殺害しようとしたガーネットの襟首を掴んで止めた。
 飛燕はあくまでも飄々としていて全く動じない。

 例の狙撃手、というのはパレード襲撃の際に現れた凄腕の狙撃手のことだ。
 姿を確認できておらず、憶測でのことだったがそれは当たっていた。

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