ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第5話ー嫌な予感ー

「いつ来てもでかいな……ここは」

「でっしょお」

「なんでお前が自慢げなんだよ……」

「あの一番高いとこにお父様がいるのよぅ?」

「用があるのはあの高いとこじゃないからな」

 日は沈み、ライトアップされた企業連本部のビル群の合間を抜け、赴いたのは企業連合が持つ刑務所だった。
 刑務所といえど、有刺鉄線とコンクリートに囲まれた殺伐としたものではなく、一目見て刑務所と分からないようなドーム状の建築物が建ってある、なんとも刑務所らしくない建物ではあったが。

「早く帰ってご飯食べたぁい」

「これが済んだらすぐに帰って飯にしよう。俺も疲れたからな……」

 と、口では言うもののあまりそれを期待はしてはいなかった。
 別段何か嫌な予感がすることはなかったが、それでも一度自分が捕らえた相手だ。
 恨み言を面会時間いっぱいまで言われ続ける可能性だってあるが……。

 だが、そんな理由でわざわざ呼びつけたがる男だとは思えない。
 なにか裏がある可能性が有る。
 本土で対ドミネーター部隊CTF201に所属していた頃から、本土軍南方司令部の飛燕の名は聞いていた。

 腕が立つわけでも頭がキレるわけでもない。ただただしつこく、執念深い男だと。
 いい気がしないと言っていたのも、そういった噂を聞いていたからだ。

(まぁたむずかしぃ顔ー)

 雛樹が悶々と様々なことを危惧して思案している時に、ガーネットはそんなことを半歩後ろで歩きながら思う。
 正直、彼女にとっては飛燕がどうだなどということはどうでもいいのだ。
 一度は自分を拉致しようとした人間だというのに、どうでもいい。

 というより、拉致されたことに関してはなんとも思っていない節がある。

「ねぇ、しどぉ」

「ん? どした」

「最近一緒に連れてってくれて嬉しいわよぅ?」

「はあ……ああ、なんだいきなり」

「べっつにぃ」

 今日だって、本当ならガーネットは事務所で留守番させておくべきだったのだ。
 少し前なら絶対に置いていかれていたはずなのだが、最近はガーネットの要望通りかたわらに置いてもらえている。

 ガーネットにとって喜ばしいことではあるが、だからと言って雛樹の負担になりたくはない。
 甘えたいが故にわがままは言うが、疎ましく思われたくはない。

 だからこそ、半歩後ろでついて歩く。

 できる限り雛樹の思案を邪魔したくないからだ。

「面会中はいい子にしてるんだぞ」

「いい子にしてるぅ」

 場合にもよるけどぉ、と呟くように付け足して。

 こうして半歩後ろを歩くのには、もう一つ理由があった。
 雛樹の後ろ姿を常に視界に収めておくためだ。
 ふとした時に、居なくなってしまわないように。

 数多くのセキュリティを通り、刑務所内部へ進む。
 内部もやはり刑務所とは思えない広さと明るさだ。
 明るさに関しては明るすぎるくらいだ。
 白い壁と床にライトが反射して眩しく、気分が悪い。

「こちらです。面会時間は30分と伝えてありますので、よろしくお願いします」

「はい。わかりました」

 刑務官に言われるがまま、何重にも閉じられた独房の扉を開けて潜った。

 外の明るさとは裏腹に、薄暗いここはなるほど、包帯だらけになり陰気な雰囲気をまとった彼にはぴったりだろう。

「おお……よぉーしよし、来てんじゃん。会いたかったぜぇ201の生き残り……」

「どうも。顔の具合が良さそうで何より、爛れソーフェイス

「おいおいおい、お前ちゃんがそうしたんだろ? ったく、やってくれるぜ。本土1のイケメンが台無しじゃん」

「あたしはしどぉの方が好みぃ」

「お、やるじゃんステイシス嬢も一緒かよ」

 呆れ顔のガーネットに対し、すこぶる明るい様子で手を振ってきたが……。

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