ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

ー対話ー

「ふぎゅ」

 今にも暴れだしそうだったガーネットの頭を押さえて、雛樹はため息をついた。
 自分のために怒ってもらえるのは嬉しいことだが……。

「あにすんのよぅ」

「この人はいつもこうなんだ。いちいち腹を立ててたらキリがないぞ。それに、この人は間違ったこと言ってないしな」

 静流のことに関しては親心からのことだろうが……雛樹自身のことについては反論の余地はないだろう。
 危機的な状況にあっても感情をあまり出さず、ひたすら淡々と状況をのりこえるよう訓練してきたのだ。

 死地にいる自分を俯瞰的に眺めているような感覚を身につけろと父には言われていた。
 戦闘専門でない結月恭弥には、その在り方は必要だと思いつつ腑には落ちていないのだろう。

「なんですか、ヒナキをまたいじめているのではないでしょうね」

 酒の入ったグラス片手に割って入ってきた静流が、父に詰め寄り剣呑な目つきでそう問いかけたが……。

「いじめなんてとんでもないよ。ただ僕は静流のことを思ってだね」

「父さんはいい加減子離れしてください。あとヒナキ、言われるがままはどうかと思うのです」

「ごっ……ごめんなさい」

 雛樹はまさかこちらに説教の矛先が向くとは思っておらず、謝ってしまった。
 静流の顔は少しばかり赤く、多少なり酔っているようだった。
 静流のことだ、この歳になるまで酒というものを飲んだことがなかったのだろう。
 どれだけ飲めばどうなるのかなどと、知るはずがない。

「そんなことより、ステイ……ガーネット、あなたとお話ししたいです。少しいいですか?」

「……しどぉ?」

「いいよ、行ってきな。ターシャは悪い奴じゃない。少し話してみるのもいいんじゃないか?」

 ガーネット自身は不満げではあったのだが、雛樹の促しによって渋々ながら静流についてバルコニーへ出て行ってしまった。
 声が聞こえないくらいの、ある程度の距離を保ち雛樹は様子を伺うことにしたのだが……。

 バルコニーに出たガーネットは、不覚にも息を飲んでしまった。
 宴の盛り上がりで、熱いほどの空気に満たされた室内からは考えられないくらい涼しい風が身体の火照りを沈め……。
 そこから見える灯りに照らされた美しい芝生の庭と噴水、耳をくすぐる虫の音が絶妙にマッチした風景。

 なんて開放感だと、おもわず手すりから身を乗り出して眺めてしまった。

「ガーネット……いえ、ステイシス。あなたは本当にあのステイシス=アルマなのですか?」

「いきなりなぁにぃ?」

「いえ……少し、イメージと違いすぎていて、私としても困惑しているのです」

 静流が昔から知っているステイシス=アルマと、今のガーネット。
 そのイメージの差異があまりにもありすぎて、そんな質問を投げかけていた。

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