ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
ー新兵器と過去の遺物ー
雛樹とガーネットを追跡していた者たちは、姿を消した二人を捜索したが見つからなかった。
モールに停めてあるバイクの痕跡から追跡しようとしたのだが、バイクは動かされておらずそのままだったのだ。
徒歩で別の場所に姿を消したか、まだモールに残っているのか。その二択を迫られ、人員をそれぞれに割かなくてはならなくなった。
大慌ての彼らを放って、しれっとモールから出た雛樹とガーネットはセントラルストリート沿いにあるセンチュリオンテクノロジー直営店に来ていた。
ここでもガーネットは落ち着いたものだったが、心なしかショッピングモールにいた時より楽しんでいるようではあった。
特に軍事会社、企業関係者の証明をもって入ることが許可される、武器兵器エリアでのことだ。
重火器を試し撃ちできる射撃場があるのだが、そこに数人の男たちが意気揚々と入っていったのだ。
それを見ていたガーネットが自分も試し撃ちしたいと言い出し、それに付き添う形で雛樹も射撃場に入ることとなった。
金属質の壁に囲まれた、明るく広い屋内射撃場。
仕切りがしてあるために、ガーネットはフードつきマントを豪快に脱ぎ雛樹に渡し、その上拘束衣の上半身部分をはだけさせ、腰に巻いた。
褐色の肌に黒のインナー姿になった彼女は、仕切りの壁からせり出してきた試射用の最新光学銃を掴んだ。
「おい……もっとまともな格好でだな」
「なぁに? いいじゃない、しどぉしか見てないんだからぁ」
「いやまあそうなんだけどさ。目のやり場に困るんだよ」
「へんたぁい」
「しょっちゅう人の体まさぐってくるお前にだけは言われたくないな」
「べぇ」
小さく舌を出してから、ガーネットは数十メートル先に現れた物質化光の青い的に向かって引き金を引いた。
光学式なだけあって、集弾性は実銃の比にならないほどいい。リコイルも無いに等しい。
だが、なによりも目立ったのはガーネットの射撃の腕だ。
次々と現れる的の中心を撃ち抜く速度と精密さはまるで機械のようで……。
「どーぉ?」
「その辺のガンマン気取りは真っ青だろうな……。でもまあこういう得物は……」
雛樹もその光学銃を持ち、難度が引き金を引いた。撃った際の跳ね上がりがない。弾が出ているのかどうか実感が無い。
総じて評するならば……なんの面白みもない銃だ。
「俺には合わないんだよな」
異様に軽い銃をガーネットから貸してもらい、構えて撃つ。
まるで手ごたえがない上、的にあたりはすれども着弾点はバラバラである。
「へったくそぉ」
自分の方がうまいと確信したガーネットは胸を張ってふんぞり返っている。確かに下手くそだ、ぐうの音も出ない。
「ちゃんと扱えれば便利なんだろうけどな。俺はやっぱり重くて反動があって弾丸に実体がある方がいい」
「別にそれがいけないってわけじゃないけどぉ。メンテナンスサイクル短いしぃ、弾薬のコストも高いしぃ、継戦能力だってぇ」
「それ全部ひっくるめて身についてる経験と技量で補えるからな。メンテナンスは習慣化してるし、コストは他の費用を削って捻出してたし、継戦能力は身体面を鍛えてある程度補えるようにって具合に」
そうして一兵士である、祠堂雛樹という形を磨いてきたわけだ。今更それを捨てるのも勿体無い。
事実、光学兵器より実弾銃の方がマンストッピングパワーにおいて大きく勝っていたりと、悪くない部分だってあるのだ。
完全に頼れないからこそ、自らを鍛える意義もある。
「まあ……それ全部をひっくり返すのが、二脚機甲とやらの存在なんだけどな」
射撃場を出て、センチュリオンテクノロジー製汎用二脚機甲のサンプルが展示されてあるエリアに足を運んだ。
ツヤツヤに磨かれた装甲に、装備品。スペックボードに明示された多数の事柄が目に飛び込んでくるも全て把握しきれるはずがない。
ただ、ガーネットに限っては端から端まで、すべて理解している様子だったが。
「センチュリオンテクノロジー製の兵器の特徴ってどんなもんなんだ?」
「んん……そうねぇ。ここまでピンキリ揃えてる企業は他にはないわぁ」
初心者向けから、玄人向け、変態向けまで幅広く。企業連傘下ではないため、とにかく開発に対しては制限がないセンチュリオンテクノロジーらしい特徴である。
「自社の稼ぎだけでここまで出来るのはここくらいだしぃ……。あっ、あそこシュミレーターがあるわよぉ。しどぉ、あそぼぉ」
「ボコボコにしてやんよ」
「あらそーお?」
雛樹は最新機体のシュミレーターデータ、ガーネットは一回りもふた回りも型落ちしているシミュレーターデータで対戦をした……にもかかわらず。
「せめて5分はもって欲しいんだけどぉ」
「クッソ……待て、もう一回だ、おい」
開始2分持たなかった。
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