ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
—出発—
休日、外に出かけるというのにガーネットはいつも通りの拘束衣にフード付きマント。
雛樹というと、45口径拳銃を腰のホルスターに差し、袖の下にはアンカーを撃ち出す器具を装着していた。
「なんかパッとしないな……」
と、雛樹は身を隠すような格好のガーネットに苦言を呈し……。
「お休みなのに銃持ってくのぉ? 野暮ったぁい」
と、ガーネットはソファーの背もたれの上を、まるで平均台の上を歩くかのようにしながら言った。
お互いにお互い、理由があるが故のことなのだが……やはり遊びに行く格好ではないのはしっくりとこないのだろう。
「俺のは、俺と……ついでにお前の身を守るために必要だぞ」
「ついでぇ? ツイデェ?」
すとんとソファーの背もたれから降りてきて、ずいっと、下から睨め上げるようにして声に凄みを持たせるガーネットに、雛樹は肩を竦めながら言う。
「お前、戦闘に関しては俺が面倒見るまでもないよね」
「そぉねぇ。どこぞのエースパイロットさんにボコボコにされたしどぉには必要なものよねぇ」
「あっ……お前、そんなこと言うんだ。もう頭撫でてやんね」
「ちょお、それは関係ないでしょお! いやよぉ? ねぇ、しどぉ? しどっ……しどぉが無視するぅっ」
背を向けてせかせかと玄関口へ向かう雛樹に向かって、拘束衣の袖を力任せに振ったガーネットだったが、ひょいとかがんで避けられてしまった。
こういう動揺した際の攻撃は回避しやすい。
雛樹は口笛を吹き、バイクの鍵を指で回しながら外へ出てしまった。
「待ちなさいよぅ!」
ガーネットも靴を履き、すぐさま追いかけてバイクを車庫から出してきた雛樹の元へ行き抗議しようとしたところ、返り討ちされるがごとくヘルメットを被らされ……、ぽんぽんと優しく叩かれた。
「むぅ」
「ははっ、撫でて欲しけりゃいい子にしてないとな」
「しどぉうっざぁい」
お互いのことを少しずつ分かりあえてきているが故の会話を経て、二人を乗せたバイクはのんびりと都市部へ向かう。
ガーネットは意外にもバイクの後部座席というやつを気に入っている。
……が、向かってくる風が気持ちいいのか立って腕を広げてみたり、くるりと回ってみたり、雛樹の背中にしがみついてみたり、肩に乗ってみたりとなんともアクロバティック行動をする。
そのせいで、雛樹は先日盛大にこけてしまったのだ。バイクにもその爪痕が、左側のカウルとウインカーにありありと残っていた。
元々荒地でバイクを駆っていた雛樹は、車体は動けばいいという考えのため、特に直すことは考えてはいない。
そうして走ることしばらく、雛樹はとりあえずお金を使う場所……ということで、都市内でも一番規模の大きい複合ショッピングモールに来ていた。
「人が多い……広い……どこに何があるかわからない」
「ちょっとぉ。しどぉが圧倒されてどうすんのよぅ」
屋外エリアには、様々な広告や催し物、今流行りのアーティストなどが映る立体モニターがそこかしこに展開され、空中に浮かぶ床が人や商品を運んでいたりなんだりしている。
休日ということもあり、子供連れやカップルも多い。イメージキャラクターだろうか、通りには可愛らしい着ぐるみが、頭の上に浮かべる色とりどりの物質化光の玉を配っていた。
雛樹は、そんな華やかな空間に目を白黒させてしまっていた。こういう場所に慣れていないガーネットにとっては頼りないことこの上ない。
「パレード警備の時は仕事だったからな……休憩時間にはターシャもいたし……」
「しどぉ? お金の使い方教えてくれるんでしょお?」
……と、煽るように言ってくるガーネットは、雛樹の袖をぐっと握っていた。
……——そうか、こいつも不安なんだな。
雛樹は今のガーネットの心境を察して、気合を入れ直す。
「あー……暴れたぁい」
「……それは勘弁」
違った。不安になっていたのではなく、この人の多さにイライラしていたのだ。
しっかりと手綱を握ってやらなければ血だまりの休日になってしまう。俄然、この都市の最高戦力であるステイシスを預かっているという責任感が増してきた。
「さて、とりあえずは……」
「なぁに? なにか食べるのぉ?」
「いんや、お前の下着と服を買おうと思ってる。特に下着」
「あたしのぉ?」
「ああ、自分が気に入ったものなら、ちゃんと身につけるだろ?」
ブラもショーツも身につけず、あんな露出の多い拘束衣でずっと家でごろごろされても、目のやり場に困るというものだ。
ちゃんと、ガーネット用の下着はあるのだが……頑なにそれを身につけようとしないのだ。
ならば、自分で気に入ったものを買えばどうだ。
そう思っていた雛樹は、とりあえず服飾品を取り扱うテナントに足を運ぶことにした。
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