ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節10部—二人の歩兵—

 その黒塊こっかいの存在には、企業連も気づいていた。しかし、部隊の展開が間に合っていない。そのため、着弾予測地点に位置するある兵士にその黒塊の存在を知らせたのだが……。

「ッハ、気づいてるがもう遅ェ。ガンドックの奴らのケツ拭いてやっただけでもありがたく思いやがれボケカス共」

 第三区画、 GNC所属R・B、階級軍曹。彼は呆れた表情を浮かべながら、身の丈ほどもある大剣を肩に担ぎ直しつつ、こちらへ飛来してくる黒の塊を見据えた。
 その、背後には。

“煙を上げて停止する、粒子砲”

 砲台の制御システムを司る重厚な装甲部分が大きく切り裂かれている。制御がきかなくなった粒子砲を壊すことで止めたのはRBだった。
 制御の利かなくなった粒子砲を、ライフルやロケット弾頭で吹き飛ばそうとしていた他の警備兵達は唖然としていた。

「嘘だろ……制御室への装甲にはロケット弾頭も通さなかったんだが……」

 制御システムを守る装甲扉には、爆薬も通用しないほど頑丈だったはずなのだが、それを破壊して見せたRBに、他の警備兵は畏怖のような感情を向けていた。
 しかし、そんな視線に気づきながらも彼は飄々としながら視線を上に向け……。

「あン? 何やってやがんだあいつァ……。とんだCrazyカワリモノだぜ」

 ビルの壁面になんらかの方法で取り付き、ぶら下がっている男も飛来してくる黒塊を見ているようだが……。
 ふと、あちらもまたこちらを見ているようだった。

 視線が交わった瞬間。その視線の間を黒の塊が空気を割って通り過ぎ、すぐ後方へ着弾した。
 爆発はせず、金属質の地面に落ちたそれはしばらく転がってから静止。体表に赤いラインが走っては消え、その形を少しずつ変えていく。

「Fuck。ドミネーターだったか。だれだあんなクソ撃ち込んできやがったなァ……」

 大きさは半径5メートルほど。高ランクドミネーターほど巨大ではないが、それでも歩兵が敵う相手ではない。粒子砲近くに残っていた警備兵も距離を取り、各々恐怖に任せて離れて行ってしまった。

 観客も蜘蛛の子を散らすように遠くへ散っていき、着弾地点付近に残っているのはRB軍曹と……そして。

「……っと、悪くないところに落ちたな。ここ付近の避難が進んでいて良かった」

 ワイヤーをうまく使い、ビルの壁面からここまで降りてきた男に対し、RBは目を丸くしながらも声をかけた。

Hayヘイ Crazyクレイジー。あんたは逃げねェのか? 二脚機甲オモチャ部隊が来るなァまだ先だぜ?」
「クレ……? いや、あれをなんとかしないとって思ってな。おたくはどうなんだ?」
「ッハ、なんだ。ちったァ肝の据わった奴がいるじゃねェか。俺もあんたと同じことを考えてるとこだ。仲良くしようぜCrazyクレイジィ Guyガイ?」
「イカれた野郎と仲良くしようとするおたくも大概クレイジーだと思うけどな」
「そりゃア否定できねェな。……そら、お目見えだぜ」

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