ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節11部—迎撃開始—

 ドミネーター、タイプヒューマノイド。ランク……判別不可能。RBが言うにはβに似ているということだが……。
 着弾した漆黒の球体が姿を変えた直後、両名は戦慄した。

 立ち上がった際の体長は8メートルを超え、容姿は人型、だが他の人型個体と比べて異様に人間により近い形をとっている。
 腕は長く、立ったままながら地面に拳をつけ、膝を曲げてどっしりと構える巨漢。
 黒いグレアノイドの体表には、異常に肥大化した筋肉のようなものすら見える。

 そして頭部には、4っつの赤く生々しい目が不規則に配置されていた。

「ッハ! こっちもヘンナ奴ならあちらさんもときたもんだ。どうするCrazy Guy、尻尾巻くかい?」
「あんたは?」
「ああ? やるに決まってんだろうが。厄介事と鉄火場にゃあ足突っ込むに限るぜ」
「ならやろうか。おたくは随分腕に自信があるみたいで安心した」
「へぇ、言うじゃねェかこの野郎。テンション上がってきたぜ」

 そう言い合いながら、自分たちよりはるかに大きな巨体を持った怪物を前にした。
 雛樹はライフルの弾倉を外し、再装填。RB軍曹は肩に担いだ大剣を持ち上げると、準備運動だとでも言うように片手で振り回しながら、大柄なリボルバーを左手で抜いた。

 そして、上空から落ちてきた黒い影。いくつも通り過ぎては方舟の中心部へ向かっていくのが見えた。
 セントラルゲートに開いた穴から、ドミネーター群が侵入し始めたのだ。

 その事態にも、二人は目をそらさず眼前の敵を見据えていた。

「雑魚どもに浮気するんじゃねェぞ。“本命”はコイツだ。逃せばやばいことになるぜ」
「二脚機甲部隊の到着まで抑えるつもりなのか?」
「抑える? 馬鹿言うんじゃねェよ。あんな化け物……」

 腰のホルダーを銃を握った手で弾くと、大口径のマグナム弾が空中に飛び出した。中折れ式リボルバーの弾倉を露出させ、落ちてきた弾薬を輪胴式弾倉にするりと落とし、装填する彼の口角は禍々しく上つり上がっていた。

「ぶちのめさねェともったいねェだろ? 期待してンぜ、CTF201のCrazyクレイジーシドー」
「……!!」

 RBは、自分の胸元を左手親指でちょいちょいと指し示す。なぜ自分のことが分かったのかという雛樹の表情を読み取り、なぜわかったかを示したのだ。
 雛樹の胸元で鈍く光る認識票ドッグタグ、それを見たと。

「好きにやろうぜ、俺もそうすっからよ」
「助かる。合わせるのは得意じゃない」

 そうして彼らは臨戦態勢へ。そして、侵入してきたドミネーター群に対し、方舟の各企業も迎撃を始めていた。

 センチュリオンテクノロジー、特殊二脚機甲カタパルトに固定された青い特殊二脚機甲、ブルーグラディウス。

《嬢ちゃん! 市街戦用に出力を落としてあるが、飛行に問題ねェはずだ! ムラクモもフル装填してある! 俺たちの方舟を頼むぞ!!》
「感謝します、エンジニアの皆さん」

 方舟の緊急事態に駆り出された結月少尉は、その青の機体の操縦桿を握りながら、神経接続を開始する。
 自分の体の感覚が、ブルーグラディウスという機体の四肢へと広がっていく。青い瞳がさらに蒼く淡い光を帯びていく。
 ふいに感じる全能感と、気分の高揚。フォトンノイド粒子による麻薬のような副作用。
 その感覚に振り回されないように確固とした意思を保ちつつ……。

「ノックノック。出撃準備は完了しましたか?」
《おーう、万全やでェ。問題あらへん、はよ行こか》
「了解です……」

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