ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節13部—赤き光を操る兵士—

 ライフルの銃口から射出されたグレアノイド弾頭は、ドミネーターの体表へ到達する前に瓦解し、赤く光る粒子に変わり、それは収束し物質化する。

 それはまるで、ドミネーターの放つ赤き矢。棒立ちのドミネーターの体表を突き破り、刺さっていく。
 しかし、その赤き弾丸が怪物の頭部、その眼を捉えたところでその怪物の腕が動いた。

「ヘイ、防がれたぜ」
「やばい、こんなの初めて」

 拍子抜けしたのも一瞬だった。50メートル以上は先にいた人型ドミネーターの姿が消えた。
 かと思えば、雛樹の体を打つ凄まじい圧力。

 ゼロからの瞬間加速。ダンプカー並みの質量が弾丸のように飛んできていた。
 だが、その攻撃が雛樹に届かなかったのは……。

「っぶねェェェ……!! ちょっとくれェ回避動作ぐらい見せやがれ! おっ死ぬとこだ!!」
「おたくが止めに行ったから大丈夫だと思った」
「アホか! お前、俺だから止められたもののこれ……クッソ、ボケがァァァ!」

 このRBという男は、弾丸の速度で向かってきた8メートルの怪物の動きを目で追い、担いでいた大剣を盾にしつつ迎え撃つことで止めたのだ。
 おおよそ考えうる、人間の所業ではない。

 今でも力の拮抗状態は続いており、RBの構えた大剣の背から時折、推進剤が噴き出している。必死に押し返そうとしているようだが……。

「ァァァFuck!! 一旦離れんぞ、こいつ止まりそうにねェ!!」
「よし来い」
「よし来いじゃアねェよ!! 離れやがれ巻き込まれんぞ!!」

 幾度となく轢き潰そうと押してくる怪物の力に耐え切れず、RBは一度離れることにしたが、雛樹はライフルを捨て身軽になった後も、その射線上から離れようとしなかった。

「くっそ、もう知らねェぞ、限界リミットだ!!」


 RBはその大剣のトリガーを底まで引き、生み出される莫大な推進力を利用して直上数十メートルまで跳ね上がった。
 そこで、堰を切ったように雛樹への突撃を再開し、再び弾丸のような加速を持ってセントラルストリートをぶち抜いた怪物は……。

 あろうことか、雛樹のはるか後方でピタリとその動きを止めた。確かに、雛樹を轢殺できる位置にいたにもかかわらず、彼は健在。
 腰を落とし、右足を大きく前に、左足を大きく引いた大勢で腕を交差させて止まっている。
 その腕の先、熊手を作った両手の指先から赤い光を放つ幾つものごく細いワイヤーが、後方で止まるドミネーターへ伸び、まるで蜘蛛の巣のように雁字搦めにしていた。

 強烈な浮遊感、はるか上空で頭を下に向け、その様子を見ていたRBは驚愕した。

「あいつ……グレアノイド粒子を操ってんのか!?」

 馬鹿げている。人体に毒性を示す赤き光。グレアノイド粒子をまるで己の武器だとでも言うように操っている。
 あんなことができるのはこの方舟でただ一人のはずだ。

 方舟の守護者、“ステイシス”。

「……んッ」

 細められた左目とは対照的に見開かれた赤い右目。ナイフの柄を口にくわえたまま、跳躍した。

 空中で反転し、グレアノイド粒子で作られたワイヤーを引き、動けないでいるドミネーターの背中へ接近。
 口でくわえたナイフの刃がグレアノイド鉱へ変化していき……、その後、その黒い刃は刃先から崩れ、赤く光る巨大な刃を形成してゆく。

 そして、背後からそのドミネーターの頭部へその刃を突き立て……押し込んだ。
 頭部から噴き出る赤い粒子を浴びながら、根元まで押し込むとようやく離れた彼は有毒粒子を大量に浴びたにもかかわらず、平然としているのだ。
 ビクビクと大きく痙攣するドミネーター。
 これを殺しきるにはまだ一手足りない。そう思っていたところに、稲妻のような一撃が降ってきた。

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