ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節4部—絶望的な待機時間—

《企業連正規軍のエグゾスケルトンなら……ハッチは背面上部にあるはずよ。近くに開閉するためのアクセスポイントがあるわ。探してみて》
「背面上部だな……、わかった」

 今は腰あたりに位置しているため、少しばかり登らなければならない。しかし頭上の巨大なブースターから絶えず超高熱、高圧の推進剤が噴き出しているため、このまま登るわけにはいかなそうだ。

「脚が動いていないのは唯一の救いだな……」

 この機体は、腰部ブースターの浮力を利用して機体を少しばかり浮かせ、背面ブースターによる推進力で前進している。
 走っているわけではなく、地面スレスレを滑るようにして進んでいるために脚部の激しい動きはないのだ。

 足元、股下に向かってアンカーを打ち出し、固定。

「ふっ……!!」

 そのまま、機体の装甲を蹴り後方へ飛び出すように落下。まるでブランコにでも乗っているかのごとく振り出され、機体の股の間を滑空し……。

 機体前面へ出るとそのまま遠心力を利用して上昇。上がりきる前にアンカーを外し、勢いに乗って機体胸部まで上がり張り付いた。
 そしてアンカーを頭部に打ち、機体の肩まで登りきった。すぐ下には開閉できるような箇所。そのすぐ近くにアクセスポイントが確認できた。

「あった!」
《そのアクセスポイントに、外したインカムの先端を少しの間でいいから向けて! ハッチを解放させるわ!》

 雛樹は言われた通りにインカムを外すと、アクセスポイントに向けた。
 すると、インカムの先端から射出された青い光のラインが、そのアクセスポイントのクリスタル部分に向かう。接続されたあと、光が消えたために再びインカムを装着し直した。

「開きそうか!?」

 向かい風にさらされているため、風切り音が凄まじい。自然に大きな声が出てしまい……。

《声が大きいわ! その程度の風切り音なら自動でシャットアウトしてくれるから、普段の声量で問題ないわよ》
「あ、悪い。で、どうなの」
《大丈夫。問題なく開けられるわ。でも少し待機して……》
「少しってどの位だ!?」
《うるさい!!》

 雛樹はそこから見える景色の中に、不吉な反射光を見た。

《2分ほど》
「2分!? くそ、こりゃかくれんぼだな」

 背筋にぞっと悪寒が走る。その次の瞬間、自分の足元……ちょうどハッチの部分から飛び散る火花。
 大口径の弾丸が装甲に当たった時の衝撃音。

 景色に見た反射光は狙撃銃のスコープのものだった。狙撃1射目、威嚇ではない、狙いを正確に定めるための狙撃だ。
 横軸は正確。あとは高さを修正されれば……2射目は当ててくるだろう。

「この距離で当ててくるのか……!? 夜刀神! 早くしてくれ!」
《まだもう少しよ! どうしたの!?》
「狙撃されてる、装甲のへこみ方からして50口径以上の大物だぞ。一発でも当たったら死んじゃうやつ」
《嘘でしょ……!? もう、焦ると手元が狂うのに……!》
「また使うしかないのか……。今日で何度目だ、そろそろガタがくる頃だぞ」

 雛樹の瞳が赤色を帯びる。最後の一本であるナイフを取り出すと、そのナイフの刃に意識を集中させた。

(変換、粒子生成……収束物質化……!)

 鈍色の刃が根元から黒く変色していき、グレアノイド鉱の刃へと姿を変えた。その刃を右手で掴むと、勢いよく握りつぶしたかと思うと、赤く光る粒子が拳の隙間から放たれる。
 圧縮されて質量を持ったそれは歪な壁を雛樹の前に展開させ——……。

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