ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第5節9部—ステイシスを追うために—

 右手のアンカーは雛樹の腕を離れ、撃ち出された。そのアンカーは、赤い残光を引きながらドミネーターの胴体へ刺さり、そのまま格納庫の壁まで追いやったのだ。

 だが、あくまで追いやっただけだ。その怪物には大したダメージを負わせられていない。
 しかし、自分があの機体に乗り込む時間は捻出できていた。

 踵を返し、すぐさま機体の方向へ走る。ドミネーターは、アンカーで壁に縫い付けられ、しばらく追ってこれないはずだ。

「うあ……!!」

 右腕に鈍痛。ふと、視線をやると手が黒く変色していた。
 変色しているだけではない。ドミネーターの体表に走る、赤く光るラインも見て取れた。

 グレアノイド鉱石による、侵食現象にも似た事象。ステイシスが言う、黒い塊になりかけている状態。
 “特異な力”の酷使による副作用。
 ただ、一般的な侵食現象とは違い、鉱石のように固まり、動かなくなるわけではない。

 その体組織は、鉱石ではなくドミネーターの体組織と類似する。

 故に、雛樹は昔ある人物から言われた。

 この力を使いすぎると、君自身が怪物ドミネーターになる可能性がある、と。

 機体の背後にあるハッチからコクピット内部へ入り、シートへ座る。葉月の言う通りにシステムを立ち上げると、コクピットを囲む壁一面に外の景色が映し出された。

「これどうやって動かしたらいいんだ……!?」
《ハッチは開けたままにしてるわね?》
「ああ、開けたまんまだ」

 コクピットには入ったが、ハッチは閉じずそのまま開け放ってある。これは葉月に言われたからなのだが……。

《いい? 祠堂君。素人のあなたが二脚機甲を操縦し、ドミネーターとやりあうことは不可能よ》
「……これ、対ドミネーター用の兵器だろ。どうにかなんないのか」
《無理よ。その機体にはほとんど燃料が残ってないの。ここまで来るのに使ったブーストのせいね。ウィンバックと違って、エグゾスケルトンは空を自由に飛べるように設計されていないの。過剰な推進機関の働きで、滑空することは可能だけど、その燃料消費量は凄まじいわ》

 エネルギーメーターと思わしき部分を見ると、なるほど確かに枯渇しているようだ。点滅までしてからっけつなことをアピールしている。

《今、ドミネーターの動きを止めているのね?》
「ああ、でもすぐ動き出すぞ」
《なら……自壊システムを起動して突っ込ませることは可能ね……》
「……なんか、物騒な事言ってないか」

 雛樹はハッチを開けっぱなしにしろと言っていた葉月の言葉を思い返し、身震いする。
 まさか……。

《自壊システムを起動し、ドミネーターの至近距離で機体を自爆させるわ。できる?》
「できるも何も、突っ込んでから俺はどうすればいいんだ」
《全力で離脱して》
「無茶言うなぁ……」
《先に無茶をしたのはあなたよ。こっちも腹くくってるの。ステイシスを追いたいならそれしかない》
「……わかった」
《いい? 自壊システムの起動方法と、背面推進機関の作動方法を教えるわ。ドミネーターは正面にいるのよね?》
「ああ。真正面の壁に縫い付けてある」
《どうやって……いえ、今はいいわ。とにかく、私の言う通りに動かして》


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