ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第6節7部ー責任の所在ー

 正解、と。どこか呆れた風に結月恭弥は言った。

「襲撃が起こるより前……いつからかはわからないが、事前に本土組織の人間が方舟に乗り込んできていた。君も接触したんだろう?」
「アイゼンロック社のビルで戦闘になったあいつらのことなら」
「そう、それだ。他のどの警備兵より先に、一人で接触してしまった。本土から来たばかりの君がだ」

 雛樹はそう言われ、右手で顔を覆うようにあてがった。

「……そりゃ疑われるぞ。くそ、もう少し慎重に動くべきだった」
「ごめんなさい。私が他の兵士に呼びかけていればこんなことには……」
「やめてくれ。あんたは悪くない……」

 雛樹と葉月は、自分たちがした軽率な作戦行動を悔やんでいたのだが……。結月恭弥が言いたいのはそういうことではなかったらしく。

「そうじゃない。ネズミ一匹通さないと銘打った難攻不落の要塞に……犬が、しかも複数入り込んだんだ。言い訳が必要だろう、この都市の住民たちに対しての。一部の幹部たちは、この事態は不可抗力だ、未然に防げるものではなかったと言いたいのさ。晴れて君の容疑が確定すれば、君を連れてきたアラタ造船、センチュリオンテクノロジーへ責任転嫁することも可能だからな」
「そんな……。しかし、企業連正規軍のジャックス大佐も任に就いていたはずです」
「彼は一度、企業連で身柄を預かろうとしている。それを、センチュリオンテクノロジー側が半ば強制的に拒否したんだ。企業連側に非はないと言い張ることはできるだろうね」

 堪り兼ねた葉月が反論しようとしたのだが、その内容はあまり有意義なものではなかったようだ。

「なにより……君を連れてきたのは、我が娘……静流だよ。君への容疑が晴れなければ、彼女が一番重い罪を背負う可能性があるのさ」
「だろうな」
「だろうなって、祠堂君!?」
「でも、こうして特別報酬やらなんやらが認められてるってことは、容疑をかけきれてないんだろ?」

 そう、企業連上層部の幹部らも雛樹が本土組織の都市侵入を幇助ほうじょしたと決め付けられないでいる。
 なにせ、本土組織の人間を捕らえてしまっているのだ。捕らえた人間からその情報を聞き出さなければ、雛樹を犯罪者と言うわけにはいかない。

「そうだよ。それに……企業連兵器局の局長、高部総一郎が君を擁護しているからね。まだ、そこは心配しなくていいけど。都市住民からの風当たりは間違いなく強くなる。それだけは覚悟しておいたほうがいい」

 都市に張り巡らされたネットワーク上では、今回の事件に関する憶測が多数飛び交っている。その中でも、本土人である祠堂雛樹の名は良くない形であげられることが多い。

「まあそれはいいんだ。僕の娘に被害が及ばなければ君が都市の人間からどう思われようがどうでもいいのさ」

 そう言って笑う結月恭弥に苦笑いすることしかできない葉月と、呆れた風な雛樹をよそに、薄ら笑いを浮かべた医師は雛樹を診察した。

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