ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第1節6部ー真っ当な手段ー

「まっとうな人間としての生活を、送ってきたとは言い難い俺が生き方を教えるなんてできません。それになにより面倒です」
《ふふ、君は正直だな。思わず笑ってしまったよ。ステイシスにも聞いたが……君の発言から、ずいぶん合理的な性格をしているようだ》

 すべての任務は飯の種……そんな発言をステイシスの近くで言ったことがある。そのことなのだろうが……、不敵な笑みを浮かべる高部総一郎を見て雛樹は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
 すぐ近くから感じる殺気。それは、ソファーに寝転がったステイシスが放つものだった。
 雛樹と高部の話が長くなりソファーに寝転がったステイシスは、露出の多い拘束衣のせいであられもない姿をさらしてはいるが、生物兵器としての脅威は健在らしい。
 長すぎて手が出ていない拘束位の大きな袖を垂らし、ほおをソファーに押し付けたうつ伏せの格好をし、死んだ魚のような目で雛樹を睨みつけていた。

《ふむ……では頼み方を変えよう。これは私からの任務依頼だ。夜刀神民間軍事会社へ正式に依頼しておこう。前金は……そうだね。地下に眠る機体を修復できるだけの金額、というのはどうだろうか》
「なっ……!!」

 見透かしたような物言いでそう言われた雛樹は呆気にとられた。こうなると、受けるか受けないかを判断するのは自分ではなくなる。ある程度の発言権はあるだろうが、その依頼を受注するかしないかは夜刀神民間軍事会社、その取締役である夜刀神葉月が判断することになった。

 前金だけで地下の機体が再び動かせるようになるほどの金額が入ることになるとなれば……葉月には断る理由がない。
 それに、なし崩し的に方舟の最高戦力と言われるステイシス・アルマを手元に置くことができるのだ。

「真っ当な手ですね……断る理由が見つけられそうにない」
《兵士として、国の命令で動いてきた君にとってもこの方が楽だろう》
「ただ、これは……俺じゃないと駄目なんですか。彼女はあなたを父として慕っているようですが、あなたでは……」
《私にはできない役目だ。立場上、そして……人としても》

 高部のその返答に、雛樹はそれ以上何も言うことはなかった。

《ステイシスは……企業連ここにいると永遠に兵器としての調整を受け、実験され、研究され続ける。心身の状態も安定せず、苦しみ続けることになる。だが、君の体内にある因子と彼女がある種の反応を見せているんだ。君を近くに感じていれば彼女の心身は安定し、薬物投与などの必要性がなくなった。ただ……》

 そこで、高部の声色が平坦なものから重いものへと変わる。

《君が言ったことが原因なのか、君を傷つけたことが原因なのかはわからないが……救出された後、ステイシスはこれまでにない程に安定を失っていた。私の声も届かず、鎮静剤の投与も効果がない程にだ。酷い有様だった。研究員が5人死亡し、企業連正規軍の屈強な兵士が13人死亡し、ようやく一人の兵士が彼女を止めた》

 雛樹はソファーにうつぶせになっているステイシスへ視線を落とした。この少女の凶悪さは知ってはいるが……。視線を向けられたステイシスはより目を鋭く、細くし、雛樹をえぐるように睨みつけていた。

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