ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第2節7部ー方舟のボランティアー

敵味方の判別がつかない対空兵器など危険なだけだとは思うがしかし……この件に関して何か不吉なものを感じ、雛樹は問う。

「その島、住民の安否は確認できてない……んだな?」
「ええ。救難信号も未だ発せられたままよ。気味が悪いわ……無人航空偵察機(UAV)も飛ばしたらしいけれど、撃ち落とされてしまったって。一応、衛星画像を見る限りでは、住居も住民も確認できてるんだけどね」
「それ、いつの衛星写真なんだ」
「それが、調べたんだけど出てこなくて……」

 救難信号を受けた方舟の、救援ボランティアみたいな任務内容だ。

 簡単な話が、助けを求めている人たちがいるので、方舟みんなで助けに行きましょう。そんな注釈が透けて見えるようだ。

 「へえ……やっぱりここまで繁栄してる海上都市メガフロートは違うな。他を気遣ってやれる余裕があるのはいいことだ」
「働くのは私たちだけどね。成功報酬は30万円と少し少ないけど、階級点クラスポイントが40から50ポイントと高いわ。慈善任務だからかしら。輸送護衛だし、大きな仕事じゃないけど手堅くこなせると思うわ。どう?」

 階級点50ポイントがどれくらい高いのかを聞くと、普通ならばそれだけで最下位の階級が与えられるほどのものらしい。ただし、この階級点のほとんどは会社に入り、雛樹には10分の1の4から5ポイントしか入らないのだが。

「俺は受けるさ、依頼された仕事なら。でも……ガーネット、受けるか?」
「んえ、アルマに聞いてるのぉ?」
「そうだよ。ついてくるだけって言っても、選ぶ権利くらいあるさ」
「えらぶけんりぃ」

 ステイシスは、出撃し殲滅しろと言われれば否応なく戦線へ繰り出されていた存在だ。言うなれば、言い渡された任務を今、断ることが選べるということだ。今までの環境からすれば、考えられないことだった。
 故に、どう答えていいかわからず……。

「しどぉが行くならアルマも行くぅ」

 と、頭に疑問符を浮かべた様子で首を小さく傾げながら言った。依頼を受諾し、一週間後の仕事が決まった社長は椅子に座って大きく伸びをする。それはもう嬉しそうに。

「あはは、少し前まではこんな仕事らしいやり取りができるなんて思ってもみなかったものだけど、やっぱり少しでも依頼が来るって嬉しいものね」
「PMCの社長がそんな小さなことで喜んでていいのかね……」
「ご、ごめんなさい……すこし浮かれていたの、あぁ……こんなんじゃ社長失格よね……」
「謝らなくていい! なんか悪い。そんな落ち込むとは思ってなかった」

 何気なく言った一言だったが、恐ろしく葉月を傷つけたようで雛樹が慌ててフォローを入れた。一人で弱小会社を運営していた彼女にとって、依頼を苦労して“取りに行く”、のではなく“来てもらう”ことが嬉しくて仕方ないのだろう。

「泣きながらオペレート任務を中小軍事企業へ頼んでいたあの頃が懐かしく思えるわ……」
「オペレーション業務委託を受けて保たせてたのか、この会社……」

 敵の動きを察知しつつ、自分が受け持った部隊ユニットに指示を出し、より有効な軍事行動がとれるように先導する戦術オペレーター任務を請け負いながら、なんとかこの会社を一人で保たせてきたというのだ。
 確かに彼女のオペレートは頼もしいものがある。低空飛行ながら、会社を保たせられる腕はあるのだ。

「それはそうと、ガーネットに渡したいものがあるのよ」
「アルマにぃ? なぁに、はづはづぅ」
「は、はづはづ……。いえ、これを身につけておいて。これなら一応はカモフラージュして出歩くことができるから」

 丁寧に畳まれた、黒と茶の都市迷彩柄の布と、赤く長いマフラー。それをもらったステイシスは、畳まれた布を広げると……。

「なぁに、これ」
「フード付きマントだな。まあ、これを着てるとそこそこ怪しいけど、そのままよりはマシか……」

 白い髪に褐色の肌、赤い瞳とただでさえ目立つ容姿をしている上に、ひどく露出の多い拘束衣とくれば目立つことは必至。
 それを隠すための衣類ということなのだろう。

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