ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

最終話ー弱小PMCの指針ー

 だが、RBは高部総一郎の懐刀。他の企業連幹部の命令よりも、高部総一郎の命令を上位と捉え、祠堂雛樹の殺害任務を放棄した。

「RB軍曹。あなたの身が危ういことになりませんか?」
「俺の身が危うくなかったことなんて一度もねェよ。どうせ危ういんなら、俺が気に入ったやつの下で踊ってやるのが一番だ、そうは思わねェか、結月少尉殿」
「……そうですね。あなたは噂に聞く通り、とても変な人です」
「ッハ、どんな噂が流れてるのやら」

 指導雛樹の殺害任務。それを企業連上層部が決断したという事実に、夜刀神葉月は放心状態であったが、なんとか息を吹き返して言う。

「RB軍曹、あなたは高部局長の直属の部下なのですか」
「ハッハァ、ようやく口開いたな、夜刀神。昔はそうだったぜ。だが今はそいつの命令でGNCに丁稚奉公中だ」
「何のために?」
「あぁ、それは言えねェ決まりになってる。まあ口約束だが」
「察しはついています」
「……へェ。なんか知ってる風じゃねェか」

 結局、その知っていることを葉月は言わなかった。

 後日、葉月は非番の結月静流を事務所に呼び出し、雛樹とガーネットを合わせて集まった。
 静流は事務所の入り口扉事情を知っていたのか、開けるときに随分びくついていたが後からやってきた雛樹がすんなり開けてしまったので、そのままついて入った。

「あの暴力扉、直ったんですね」
「直させたんだ。いちいちデコにコブ作るのも嫌だからな」

 事務所には、来客用のソファーで颯爽と寝転ぶガーネットと書斎机につく葉月がいた。

「わざわざ来てもらってありがと、しずるん」
「その呼び方は……いえ、今日は雛樹の特訓日ですし。しかし、機体はウチで預かってますよ?」
「いえ、祠堂君に伝えたいことがあって、しずるんにも立ち会ってもらおうと思って」
「ああ……そういうことですか」

 雛樹は首をかしげた。今更何を伝えることがあるのかと。
 だが、ひとつ疑問に思っていたこともあった。夜刀神がこのPMCを立ち上げた理由だ。
 伝えられて納得するとすれば、その理由しかない。

「祠堂君。私が前に隠したことがあったわよね」
「ああ、あんたがその机につく理由だ」
「そう。祠堂君。私は、いえ、はっきり言いましょう。私たちの敵は……」

 夜刀神葉月は言った。このPMCを立ち上げた理由。そして、安易に仲間を集められなかった理由を。


「この方舟を統治する、企業連合そのものよ」


 方舟に乗りながら、その方舟の操舵手を破壊すること。
 そしてそれは……夜刀神PMCだけではない。

 企業連傘下ではない、センチュリオンテクノロジーが同じくひた隠しにしているということ。
 否定をしない結月静流から、それが紛れもない事実だということを示していた。

「はじめから、あなたは危ない橋を渡ることになってた。高部局長との取り決めで、あなたは企業連傘下には入れさせないと。ごめんなさい、初めに言っておくべきだったのだけど、私もあなたを見定めたかった」

 高部が方舟最高戦力であるステイシス=アルマを、己の権限を持って祠堂雛樹に預けたのも、企業連に突き立てる牙とするため。

「なんだ、そういうことか」

 雛樹の反応は、思ったよりあっさりとしたものだった。

「目的が明確な方が、仕事がやりやすい。伝えてくれて、助かった」
「祠堂君、今回のようにあなたを危険な目に……」
「慣れてるさ。それはターシャもよく知ってるはずだ」

 そういった雛樹に対し、静流は呆れ気味に肩をすくめた。

「あたしぃ、それ知らないんだけどぉ?」
「高部さんからなにも聞いていないの?」
「お父様からぁ? なにもぉ」

 それも高部局長の考えがあってのことだろうか。だが、葉月が
それを話したということは、今がその話すべき時だったのだろう。

「そうです、ヒナキ」
「ん?」
「あなたの機体の名が判明しました」

 その機体に刻まれていた銘。
 製作企業不明。
 試作型二脚機甲プロトエグゾスカル、P—0・ベリオノイズ。

 初まりの機体にして、起源。

「さあ、特訓です。たくさんいじめてあげますから、覚悟してくださいね」

 そう言っていたずらに笑う静流に恐怖感を抱き。

「しどぉ、あたしも乗るぅ」

そう言って駄々をこねるガーネットにどこか安心し。

「もっともっと、強くなってね。祠堂君」

 そう言って期待する雇い主が、少し誇らしく思えた。

「精々泣かされないようにしないとな」

 雛樹は気合を入れ直し、弱小PMCの扉を開けていった。

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