ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節24部ー予想外の苦戦ー

「蹴り……蹴り……!!」

 雛樹はブツブツとそう言いながら、機体を操り重々しい前蹴りで伊庭の機体を突き飛ばし、間合いを取ったあとハンドガンで追い討ちをかけた。

 ハンドガンといえども対ドミネーター用の兵装だ。二脚機甲の装甲を貫通する程度の威力はある。二発被弾した伊庭側の機体、その脚部装甲が弾け飛び、肩部装甲が弾けた。

「貫通しない!?」
「なに驚いてんのぉ? 爆発反応装甲リアクティブアーマーよぅ。これだから操縦初心者クサレドーテーはぁ。まあ、あんな古典的な装備、量産型でしか見られないけどぉ」
「近接で抜くしかないか……!!」
「きひひ、あんまりテンパると死ぬわよぉ?」
「まるで他人事だな!」
「あっはぁ、たのしぃ。解析だけはやったげる、戦闘に集中しなさぁい」

 弾丸を弾いた伊庭の機体は、ブレードの刃先をこちらに向けながらスラスターによる加速突進を仕掛けてきた。それをあえて回避せず、雛樹は刃先避けて腕を絡みとるように掴み、スラスターの加速を利用して明後日の方向へ投げ飛ばした。

「おいおい、このクソ重ぇ機体を投げ飛ばすのかよ、なんだあのオンボロォ!?」

 伊庭は雛樹の機体が持つ、想定外の馬力に驚愕しながらも冷静に空中で各部スラスターを噴かし、姿勢を整え着地した。

「あれ、センチュリオンテクノロジー製の第一世代量産型二脚機甲“アンタレス”よぉ。かなり古い機体だから、レンタル機ぃ?」
「で、どうしろって!?」
「装備も大したもの積んでないしぃ、装甲性能もレーダー性能も下位グレードぉ。敵装備はモニターに出しておいてあげるぅ。ま、あえて言うなら操縦者の能力次第ってとこぉ」

《ははは! なんだよ、相棒のチビ助のほうが有能なんじゃねーのか!?》
「チビ助ぇ……?」
「ああ、その通りだよ!!」

 グレアノイドの心臓を持つ機体の馬鹿げた出力に物を言わせた力技で攻める、美学もへったくれもない雛樹の操縦に対して、伊庭の操縦はまさにスマートで洗練された無駄のないもの。

 普段から、ウィンバックアブソリューターという上位の特殊二脚機甲を駆る伊庭にとって、量産型を操ることなど造作もないことだった。

 紙一重のところで雛樹がわたり合えているのは、ガーネットによるサポートがあるからだ。一人だった場合、数分と持たずにこの機体は破壊されていただろう。

《あんまり手間かけさせんな!! さっさと楽になれよ、方舟の為によ!!》
「方舟とやらの為に死ぬ気はない。もちろん、お前のためにもだ」
《はっは!! 言ってろ雑ぁ魚!!》

 とてつもない重量を持つ二脚機甲が戦闘を繰り広げ、森の地面は抉れてめくれ、土煙が舞い、装甲と装甲、武装と武装が交わり火花をあげていた。
 ギリギリの近接戦を続けていたためか、雛樹の操縦に熱が入り、操縦桿を握る自分の手のひらの皮膚が擦り切れ、血が滴っていた。

「結構粘りやがる……。しっかしなんだあの機体……グレアノイド粒子を放出する機体なんざ聞いてねーぞ」

 だが、赤い粒子を放出している以外は、どう見てもオンボロ機だ。同じくグレアノイド粒子を放出する方舟の守護者、ステイシスのゴアグレア・デトネーターとはまったくの別物。
 人体に害を及ぼすグレアノイド粒子を放出する馬鹿げた機体が方舟にもう一機あるなどという情報は一切聞いていなかった。

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