ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
第4節23部ー敵搭乗者ー
戦闘に最も適したセッティングがされたこの機体、そして何よりガーネットの操縦技術のおかげで軽口を叩く余裕がなくなってしまった。
必要以上のスラスター出力で向かってきた弾丸を回避し、さらにその回避行動を止めるためのスラスター逆噴射で急激に停止する。
通常、スラスターで加速した場合、推進力がなくなれば機体重量により逆噴射による加速の相殺を行わなくてもいいのだが……。
「……!! !! ……!!」
「へえ、結構やるわぁ、あの汎用機パイロットぉ。ロックされた瞬間に振り切ってるのに、すぐ再ロックかけてくるんだけどぉ。頑張るぅ」
木々の間を縫いながら、瞬間加速しては一瞬停止。
そしてまた別の方向へ加速する激しい動きはコクピットにいる雛樹にかかる重力負担が半端なものではなかった。
体が押しつぶされるんじゃないかというほどの負荷を受けて一言も話せなくなっていたのだ。
「ちょお、しどぉ? これろくな兵器積んでないんだけどぉ。しどぉ?」
「……ま、待ってくれ。ちょっと止まって。オネガイ」
「……? はぁい」
機体はギャリギャリと足で地面を削りながら旋回しつつ、射線が通らないよう岩を背にして停止した。
「お前の操縦はつらい。あいつにやられる前にお前に殺される。俺がやるからアシストを頼む。オーケイ?」
「えー。できるのぉ? あいつ結構強いわよぅ?」
「だいたいの動きは把握してるさ。あとは直感だろ。それに……」
雛樹は機体を操縦し、腰後ろに搭載されていた実弾ハンドガンを左手で抜き、その後で左腕に搭載されていた高周波カッターの柄をせり出させ、右手で抜いてその両方を静かに構えた。
「随分使い慣れた得物だしな。多分、お前よりうまく扱える」
「……あとでビンタぁ」
「なんでだよ!」
自分よりうまくと言われたことに腹を立てたのか、ガーネットはむっつりとむくれてしまった。
しかしどうだ、こんな彼女を膝の上にしているからこそ、今自分は落ち着いてこの事態に対処できているのではないかと思うと素直に心強い。
「さて行く」「しどぉ右ぃ!!」
隠れていた岩。その右側から飛び出すようにして、敵機が急襲してきた。
雛樹の機体に向かって振られてきたのは、高周波ブレード。こちらのカッターよりも数倍刃渡りが長い。
間一髪気づいたガーネットのおかげで、左側に飛び退のけたが右側の装甲を掠めてしまった。
だが、直撃すればそれどころではない。盾にしていた大岩が、その攻撃によって横真っ二つに両断されてしまったのだ。
斬られて砕けた岩が重々しく崩れ去った。
回避した雛樹の機体はバランスを崩そうとしたが、すぐそばにあった木に腕を絡めることでなんとか態勢を立て直し、向かってきた敵機のブレードをカッターで防ぐことができた。
凄まじい火花を散らせながら、力と力がぶつかり合う。
《なんだ、動きが悪くなったぜ祠堂よォ!?》
「伊庭……!!」
《なんだどしたガス欠かぁ? そんなオンボロで無茶な機動かましてたもんなァ!!》
コクピットに流れた男の声。そう、敵機に乗っているのは伊庭少尉だった。おそらく、グレアノイド体の攻撃を受けた機体を奪い、襲ってきたのだろう。
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