ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節19部ー脱出の糸口ー


 静流はひどく動揺していたが、すぐに状況を確認した。
 目の前にある機体は、黒い装甲と先ほどの規格外の装備、かつグレアノイド粒子の放出からステイシスの機体、ゴアグレア・デトネーターだと思っていた。

 しかし、あからさまに古い機体構成かつ所々装着されてもいない装甲に、申し訳程度に備えられた追加装甲のちぐはぐ感だ。
 方舟を守護するために、全ての二脚機甲の頂点に立つ、完成された機体とは雲泥の差。

「あなたとステイシスにはナノデバイスが投与されていませんから、こちらのレーダーで識別できなかったんです。間違えてしまい申し訳無いです……」
《いや、気にしないでくれ。それよりもどうすればいい? この施設、崩れてないか?》
「ええ、崩れていますが……少し待ってください。今その機体の状態を調べているので……」

 静流の機体、ブルーグラディウスならば装甲強度やその他機体性能からこの施設、山が崩れてこようが全く問題はない。
 しかし……。

「……反重力炉非搭載、グレアノイド粒子シールドモジュール非搭載、武装は実弾ハンドガン一丁と鉱物体切断用高周波振動カッター……。ろくなもの積んでませんね」

 機体強度もシステムも、何もかもがアンティークと言って差し支えないくらいの性能でしかなかった。
 ただ、この時代ならば間違いなく規制がかかるであろうグレアノイド粒子供給量と貯蓄量、出力の数値には度肝を抜かれたが。

「これでは崩落に耐えることができません。こちらで防壁を張り、落石を防ぎますのでいますぐその機体から降りて、こちらへ乗ってください」
《この機体はどうなる?》
「その機体はここへ置いていきます。まだ動けるようには見えますがほとんどスクラップ同然ですし、何よりグレアノイド粒子を使用している時点で……」
《だめだ。この機体は捨てられない》
「……ヒナキ。聞き分けてください。その機体を投棄し、グラディウスで脱出したほうが確実です。ですから」
《ターシャ》
「……はい」
《だめだ、この機体は俺の意思で好きにしていいものじゃない。頼む、なんとかしてくれ》
「はぁ……わがままな人……。しかしあなたに頼られるのは悪くない気分です。ええ、とても気持ちが良い」

 静流はそこで大きな胸を張り、恍惚とした笑みを浮かべ、そのアンティークとの脱出方法を考察した。

「ヒナキ、脱出口は頭上、グレアノイド体が開けた穴しかありません。私は飛行できるのですが、あなたはそれができません」
《登ればいいのか? そんなことをしているうちにここは崩落するぞ……》
「いえ、跳躍してください。その機体の出力なら、データ上30メートルほどの跳躍は可能なはずです」



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