異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
初仕事
騎士団に正式入団となって三日が経つ。
騎士魔法は存外簡単で、最初こそ根本から性質が違うのかと身構えたがさしてそういう事もなく、慣れれば物を軽く浮かせるだけのような魔法基礎程の難易度で全員扱えるようになっていた。
ただ、扱えると言っても実はこの騎士団の指輪が大きな補助をしてくれてるのであり、これを外せば使えなくなる。
なので、マスターしたというわけでは無いのだが、騎士団である以上、指輪を外すことは無く騎士魔法は問題なく扱えるので、今日より仕事に本格参戦させてもらえる事になった。
「それで、明日からこの隊は鉱脈調査に駆り出されることになったんだ」
「えー、またかよぉ!」
隊の会議室でバリクさんの言葉に文句をこねるのはハイリだ。
「頼まれたんだから仕方ないだろ?」
「それでもよー……」
ハイリは納得がいかなさそうだが、案外大人しく引き下がる。
鉱脈調査。先輩方に聞いた話によるとあまり嬉しい仕事じゃないらしい。
というのも、この大陸もおおよそ開拓されており、新たな鉱脈などまず見つからないことが多いからだそうだ。領土内とは言えそれなりに遠いところまで遠征する割には骨折り損が多いんだとか。やっぱ騎士団ってブラック企業なんじゃないの……。
「でもハイリの言う通りだぜ! いくらなんでも俺らに損な役回りばっかじゃねぇのか!? いくらなんでも多すぎる!」
隊員の一人の声がハイリに賛同し、室内がざわめき出す。どうやら賛同の声が多いようだ。
どうしたものかとその光景を見ていると、隣に座る副隊長のクリンゲさんが顔を寄せてきた。
「この隊ってのは団でも訳有りの奴らが集まっててよ、こういう面倒な仕事ばっかり押し付けられる傾向にある」
訳有り?
俺が疑問に思ったのかを感じ取ったのか、クリンゲさんは続けて語る。
「例えばそうだな、今ハイリの言葉に賛同した奴なんかは資金の横領、そこの奴は元いた隊の隊長をぶん殴ったんだったっけな」
「あの、クリ……すみません副隊長」
つい組織といものに慣れていなく名前で呼びそうだったのを訂正する。
「別に名前でかまないよ。で、どうしたんだ?」
「ありがとございます。で、なんでそんな事した人達が騎士団にいれるんですかね?」
だってそうだろ? 横領とかうちの世界でも立派な犯罪だし、上司殴るとかかっこいいけど暴行罪になるんじゃないかな、少なくともクビは不可避だと思う。
「なぜかって簡単な事さ。あいつらが単純に『強い』からだよ。それは他の連中も同じで、だからこそこの隊はどこの隊にも負けないほど強いわけ」
「おおー……ってなりませんから!」
なんだよこの隊! 一瞬なんかかっこいいとか思ったけど、前科持ちとかかっこよくないじゃねぇか! もうここ盗賊団なんじゃないの!?
「あと他にやってたのはだな……」
「もういいです」
なおも冷静に隊員について語ろうとするクリンゲさんを遮る。
これ以上先輩の罪歴を聞いたら怖くてこの隊でやっていけそうな気がしないからな。
「まぁでも悪く思ってやらないでくれ、あいつらだって好きでそういう事をしたわけじゃないだろうさ。たぶんな」
「たぶんかよ!」
「チッチッ、敬語は外しちゃいけないなぁ」
「うっ、すみません」
「けっこう」
あまりにも思い浮かべていた騎士団とは違うからついつい興奮してしまった。反省しよう。
「でもまぁ安心しなよ」
バリクさんの方をあごで指すので何かと見てみるとバリクさんが部下と話をしていた。
「まぁでも皆、鉱脈調査ってやっぱり大事だと思うんだ。資源が多ければ国は豊かになり、ひいてはこの国の平和を保つための重要な事だと僕は思ってる。何せもし資源が見つかればそれだけ他の国との差が生まれて、うちに攻めてこようなんて気はなくなるはずだからね。だから、この隊は決して損な役回りをさせられているわけじゃない。むしろ得な役回りだと思わないかい?」
辺りが静まり返る。それを気まずく思ったのかバリクさんは頭をかきながら弱くほほ笑む。
「まぁ今のままでもとても戦争なんか起きないと思うけど、ね」
少し間を置いて。
「隊長!」
「流石俺らの隊長だぜ! そこまで考えてるとは!」
「一生ついていくっす!!」
絶賛の嵐である。横を見ればほらなと言わんばかりにクリンゲさんがウィンクする。
うん、まぁこの人たちもいい人なんだろう。隊長であるバリクさんもちゃんと尊敬してるっぽいし、あまり心配なことは無いか……。そういえばけっこう俺らにも優しくしてくれたもんな。
「ありがとうみんな。えっと、今回の調査対象地域はノルストクルム山脈にあるディベスト山の三合から五合あたりにかけて。場所はたぶん知ってると思うけど、王都から北東のここ」
後ろに掲げられている世界地図を指しながらその場所を教えてくれる。
ディベスト山はよく知っている。何せディーベス村の近くの山だからな。確かあれ以来行って無いが、養霊の祠がある山だたぶん。
「おお、そこってディーベス村の近くじゃないのか!?」
「一晩駐屯させてもらう予定だよ」
「おお! やったなアキ、ティミー!」
いやハイリ、いきなりこちらに振られても困るんだけど。
「お、おう……」
少し離れた席になってしまっているティミーは位置的にも性格的にもとても返答できるとは思わないので、とりあえず代表として生返事をしておく。
「さて、これくらいかな。明日が鉱脈調査っていう事もあるから今日は十分に休養をとるよう仕事は入ってないから各自ゆっくりと過ごすように」
「イエス!」
「では解散」
各々席を立ち部屋を後にしていく。
「さて、俺も久しぶりに女の子と遊ぶとするかぁ。アキヒサ君も来る?」
大きく伸びをしたクリンゲさんが謎のお誘いを持ちかけてくる。
「行きませんよ……」
「そりゃそうか、可愛い奥さんもいる事だしな」
「なんでそうなるんですか……」
クリンゲさんが少しニヤケつつ見る先では、ティミーとスーザンが何やら談笑しているようだ。でも良かったよほんと、女の子の同期がいて。俺もちょっと安心というものだ。
間もなくこちらに気付いたか、ティミーが手を振ってくれる。
「まぁ頑張りたまえ若者よ」
「何をですか……」
去り際クリンゲさんは俺の肩を叩くと、他の人と共に部屋を後にした。
まぁ同居してたと聞けばそういう事も言いたくなるんだろう。やはり一刻も早く自立しなくては!
「ようアキ、暇だし遊ぼうぜ!」
とりあずティミーの元に行くかと歩き出そうとすると、後ろからハイリが声をかけてきた。
「いい歳して何言ってんだよお前は」
「いやいやお前、遊びってのは人生において最も大切にすべき部分なんだぞ? そもそも遊びってのは……」
「ハイハイ分かったから」
ハイリの遊びについての持論など興味は無い。でも確かに言われてみればこの後暇だな。何しよう。やっぱ図書館かな王立の。学院のも大きかったがやっぱり王立にはかなわないんだよな。読書こそ人類が編み出した最高の娯楽だと思う。
「ちぇー、つれない野郎だなぁ」
つまんないーと言いながら俺の肩を掴みゆさゆさ揺らしてくる。どこの駄々こねる低学年だよ……。
「なぁハイリ、反省文はもう書けたのか?」
面倒くさいし遊びに少しくらい付き合ってやるかと心が折れそうになった時、突如バリクさんの声がかかりハイリの動きを制止させた。
「ま、まぁなんだ、隊長。反省文なんて書いたところで……」
「書いてないんだな。自分で蒔いた種だろう?」
バリクさんは予測していたらしい。紙と筆をハイリに差し出す。
「やっぱ書かなきゃダメ……?」
「当たり前だ」
ガックリとうなだれ、ハイリが隙を作ったのでそろそろと退散させてもらう事にする。ナイスバリクさん!
さて、明日は鉱脈調査。あまり他の隊員は乗り気ではなさそうだけど、俺にとってはこれが初仕事。うん、ちょっと楽しみ。
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