異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
講義
部屋の中は広く日当たりも良い。長テーブルと共に連なった大きな窓から射すやわらかい光を浴びながら部屋一角に座っている。バリク隊こと三番隊のここは俺ら含め全十九名で構成される。あまり内部の厳しい階級制度はなく、隊長、副隊長、その他というくらいの構成らしい。
「アキヒサとファルクだよな、魔鉱石何百も集めた化け物って! 本当なのか!?」
「ええ、まぁそう、なりますかね……」
「有望な戦士だなぁ」
自己紹介も一通り終わると、今度は色々な質問攻めに遭っていた。
しかしまぁなんというか、騎士団の服装じゃなかったらもう絵面は盗賊団だな。無精ひげなんてザラだし、中には顔に傷がいっぱいある人とか眼帯つけた人とかもいるし……。騎士団ってもっとこうバリクさんみたいな人ばかりの高潔な場所ってわけじゃないの?
騎士団という言葉に少し疑問を抱いていると、不意に扉が開いた。
「ごめんみんな、お待たせ」
「隊長!」
俺らを囲んでいた隊員たちはいっせいにその方向を向き礼をするので、こちらも席を立ち慌てて同じようにする。
こういうところは騎士団なんだな。にしてもこの副隊長と隊長の差が顕著過ぎていたたまれない。
「そんな大げさにしてくれなくてもいいよ、座って」
他の隊員が速やかに席についていくと、バリクさんは全員の顔が見える一番奥の席につく。
「えっと、皆はもう新入の子たちとは交流してくれたみたいだね」
「イエス!」
誰かが叫ぶ。ちなみに騎士団は基本的に肯定の時はイエスらしい。ただ、こういう普通の質問にまでそれ使うのか?
「よかった。今年はうちに四人も……」
「うお、アキとティミーじゃないか! ホントに制服着てるよ!」
バリクさんの言葉を遮り、勢いよく扉を開け放ち入ってきたのは他でもないハイリだ。
ぱたぱたと駆け寄るとまじまじと俺とティミーを眺める。というかさっきの空気でここまでできるハイリの感性はマジかよと疑いたくなる。
「おお……おお……!」
「なんだよ」
じろじろと眺められては色々な要因で精神衛生に良くなかったのでとりあえず言葉を発する。
「いや決まってるなぁアキ! ティミーもいい味だしてよぉ」
「なぁハイリ……?」
そこへ、バリクさんが微笑みながらもその口調は強めに言葉を発した。ギクリとハイリから聞こえた気がする。
「とりあえず、言う事は?」
「あはは……ご、ごめんなさい」
「よくできました、じゃあ一回座ろうか」
ハイリはバリクさんに言われるがまま席に着く。なんというか、低学年の子と小学生の先生みたいな会話だ。
ただそれでもハイリも昔よりは幾らか丸くなったらしい。昔のハイリならここは駄々をこねるところに違いない、となると幼稚園児レベルだったわけか。良かったなハイリ、お前は小学生に進級したんだ! 実年齢は成人を超えてるはずのくせに恥ずかしい限りである。
「さて、四人も入ってきてくれて嬉しいと思うけど、残念ながらまだ仕事を一緒に、というわけではないんだ。何をするかについては説明するから、そこの四人は解散後も残っておいてね」
「イエス!」
「イ、イエス……」
元気の良いスーザンの声が響き、それに続いてティミーも控えめに声を出す。
この光景に、元日本人として笑いそうにはなるが、そこは異世界。誰一人笑う人はいないので俺も自重することにする。運動部で大きな声で顧問に返事しても笑わない事を考えればまったくもって納得がいくだろう。俺もちゃんと咄嗟に言えるようにしないと。
「それで、今日は二班に分かれてもらうんだけど……」
これから先輩方が行う仕事内容を説明されると、全員廊下に出るのとは別の扉に向かう。
「あそこは防具が置いてある部屋だよ。基本みんなプレート装備を選ぶけど、たぶんアキヒサ君達には重すぎるから布装備の方がいいかもね」
説明しつつバリクさんがこちらにやってくる。
「それで、仕事の話なんだけど、みんなにはとりあえず何日か講義を受けてもらう事になるんだ」
「え、冗談っしょ?」
「残念ながら」
バリクさんはファルクの気に入らなさげの様子に対し困ったようにほほ笑む。
「マジかー……勉強とか嫌いなんだよね……」
「何度言えばわかるのだ。言葉を慎め」
「じゃあスーちゃんは胸を慎めー」
「なっ……!」
スーザンは顔を赤くし胸の辺りを押さえ侮蔑の眼差しでファルクの事を見る。もうファルクの事はほっとけばいいと思うぞ。
「え、えと、講義って何をするんでしょうか?」
「うん、騎士魔法を覚えてもらおうと思ってね」
ティミーの問いかけに対し、バリクさんが柔らかく笑みを浮かべる。
でも騎士魔法か……。魔術読本にはそんな言葉無かったし、そもそも学院で習ったことも無ければ図書館にも見当たらなかったよな。
「最近騎士団で独自に開発された新しい魔術みたいなものだよ」
なるほど、つまりRPGでよくある職業ごとに違ったキャラ特有のスキルみたいなものか! この異世界もそういうのが存在してるとは、ゲーム愛好者であった俺にとってはちょっと嬉しい。
「でもたいちょー、普通の魔法とか魔術じゃダメなんすかー?」
「魔術や魔法にはでき無い事ができるからね」
「どんな事ができるんすかー?」
「例えば敵の拘束。従来は鎖とかで敵を捕まえてたんだけど、けっこうかさばって持ち運び不便で、あと壊されて逃げられるなんて事もあったからね。でも騎士魔法を使えば鎖よりももっと強固な物を創り出せるようになるし、持ち運びに苦労も無くなる」
なるほど……いいじゃないか騎士魔法!
「やりましょう! すぐに習得して見せます!」
「あ、ああ、頑張って……」
なんか反応が微妙だなと思いつつ他の皆の様子も見ると、何故か全員シレーっとした目線を俺に送っていた。なに、俺今意気込んだだけだよな? 確かにテンション上がってたけど何かおかしいこと言った?
「アキっていつもそこまで向上心あったっけ……」
「え、ありまくりだろ?」
「そうかな……」
ティミーは浮かない様子だ。俺への認識は一体どうなってるのか気になる今日この頃。
「でもそうだね、すぐに習得出来たらその時点で講義は終わって他の皆と合流できるから、それまでの辛抱だよ」
「うぃーっす」
ファルクは気の抜けた返事をすると、さてと言って立ち上がる。
「これから早速なんすよね? ちゃっちゃと終わらせちゃうっすわー」
「うん、その意気だよファルク君。じゃあみんな、早速だけどついてきてもらえるかな」
騎士魔法ってどんなのだろうかと期待しつつバリクさんの後に続いた。
日本でいう大学の講義室のような感じの大部屋に新人四人とバリクさんがいる。
この部屋は普段、勉学に励みたい騎士団員のために開放してるらしく、それ以外での用途は大規模作戦、つまり大陸外遠征等のミーティングに使われるらしい。
「それで、魔術というのは無干渉的性質変換、魔法は干渉的事象変換になる。それで騎士魔法の方は干渉的性質変換になって、魔力に通じる所も魔術に通じる所もあるんだ。それで……」
「飽きたんですけどー?」
「ハハ、ごめんごめん。でももうちょっと我慢……」
「いつまでなんすかー? 終わる気しないんですけど、もうちょっと工夫してくれませんかねー?」
バリクさんの講義を遮っているのはファルクの声だ。見れば机に脚を乗っける不躾ぶりだ。流石にこれほどの無礼は目に余るな。
スーザンが口を開きかける前に口火を切ってやる事にする。
「おいファルク、いい加減我慢というのを覚えたらどうなんだ? 不愉快だ」
「えー、不愉快だからなーにぃ? アキちん不愉快になるんだったらもっとやっちゃおっかなー!」
「とことんクズだな。そもそも不愉快になるのは俺だけじゃない、たぶん周りの人間が全員そう感じるだろうよ」
「僕知らないしー? そんなことー」
「そんな言い訳は五歳のガキでも通用しない。だいたいバリクさんの気持ちを……」
まくし立てていると、バリクさんの声が割り込んできた。
「二人とも、やめるんだ。確かに退屈だったと思うから今回は僕の失態だよ」
でもと言い募ろうとするが、バリクさんの目は心なしか厳しめでこれ以上の発言を許さないと語っているようだ。擁護する対象がそう言うのではどうしようもない、とりあえず引き下がる事にする。恐らく部下に軋轢が入るのは隊長として快い事ではないのだろう。
「そうだ、最近発見された新たな魔力の概念の話をしようか」
いつもの穏やかな笑みをたたえてバリクさんが提案する。先ほどの事に少し納得は行かないものの、新たな魔力の概念というのには興味がある。
「どうだい? ファルク君」
「そういうの待ってたんすよー」
バリクさんの良い人さ加減には本当に感服だ。ただ少し人が良すぎる気もする。
「通常、魔力は人間が生まれ持って持つ物で、これまではそれが魔力という位置づけに定義されている、っていうのは知ってると思う」
確かそれは学院の講義で習ったし、魔術読本でもあった。
「でも最近どうやら魔力というのは二種類存在することに発見したらしくてね、一つは人間の持つ従来の魔力、そして二つ目は新たに発見された魔物の持つ魔力。魔術研究所はそれを光魔力と闇魔力と呼ぶことにしたんだってね」
魔術研究所か……もしかしてアリシアもアルドもその研究とかしてるのかな。
「そしてまた面白い事にこの二つの魔力には深い相互関係があって、一方が力を出せば、もう一方がそれを打ち消すために強くなるらしいんだ。そしてその原理は僕たちが強くなるための方法にもつながる」
「ほっほう」
強くなるという単語が効いたのか、ファルクは若干身を乗り出し気味だ。
「簡単な事さ、魔物を倒すだけだからね。実際、魔術研究所の報告によれば、人間の持つ光魔力の方が魔物の持つ闇魔力よりも遥かに多くて、魔物を倒せば倒すだけ、その時放出された闇魔力を打ち消すために僕たちの光魔力がより大きい物になっていったんだって」
へぇ、そうなんだ。あれだな、もしかしてRPGとかの世界の経験値でキャラがレベルアップってそういう原理だったのかもしれない。
「それじゃあ僕は早速魔物を討伐いってきまーっす!」
言うやいなや、ファルクは出口に向かって走っていく。
「騎士魔法は必須だからね、覚えないと団長が怖いよ」
「やだなたいちょー、それを先に言っといてくださいよ~」
バリクさんの微笑みにファルクはせっせと席に戻る。ほんと苦手なんだな団長の事。まぁ俺も得意ではないけど。
その後、講義が再開し、ある程度騎士魔法を理解したところで入団初日は終わりを迎えた。
「アキヒサとファルクだよな、魔鉱石何百も集めた化け物って! 本当なのか!?」
「ええ、まぁそう、なりますかね……」
「有望な戦士だなぁ」
自己紹介も一通り終わると、今度は色々な質問攻めに遭っていた。
しかしまぁなんというか、騎士団の服装じゃなかったらもう絵面は盗賊団だな。無精ひげなんてザラだし、中には顔に傷がいっぱいある人とか眼帯つけた人とかもいるし……。騎士団ってもっとこうバリクさんみたいな人ばかりの高潔な場所ってわけじゃないの?
騎士団という言葉に少し疑問を抱いていると、不意に扉が開いた。
「ごめんみんな、お待たせ」
「隊長!」
俺らを囲んでいた隊員たちはいっせいにその方向を向き礼をするので、こちらも席を立ち慌てて同じようにする。
こういうところは騎士団なんだな。にしてもこの副隊長と隊長の差が顕著過ぎていたたまれない。
「そんな大げさにしてくれなくてもいいよ、座って」
他の隊員が速やかに席についていくと、バリクさんは全員の顔が見える一番奥の席につく。
「えっと、皆はもう新入の子たちとは交流してくれたみたいだね」
「イエス!」
誰かが叫ぶ。ちなみに騎士団は基本的に肯定の時はイエスらしい。ただ、こういう普通の質問にまでそれ使うのか?
「よかった。今年はうちに四人も……」
「うお、アキとティミーじゃないか! ホントに制服着てるよ!」
バリクさんの言葉を遮り、勢いよく扉を開け放ち入ってきたのは他でもないハイリだ。
ぱたぱたと駆け寄るとまじまじと俺とティミーを眺める。というかさっきの空気でここまでできるハイリの感性はマジかよと疑いたくなる。
「おお……おお……!」
「なんだよ」
じろじろと眺められては色々な要因で精神衛生に良くなかったのでとりあえず言葉を発する。
「いや決まってるなぁアキ! ティミーもいい味だしてよぉ」
「なぁハイリ……?」
そこへ、バリクさんが微笑みながらもその口調は強めに言葉を発した。ギクリとハイリから聞こえた気がする。
「とりあえず、言う事は?」
「あはは……ご、ごめんなさい」
「よくできました、じゃあ一回座ろうか」
ハイリはバリクさんに言われるがまま席に着く。なんというか、低学年の子と小学生の先生みたいな会話だ。
ただそれでもハイリも昔よりは幾らか丸くなったらしい。昔のハイリならここは駄々をこねるところに違いない、となると幼稚園児レベルだったわけか。良かったなハイリ、お前は小学生に進級したんだ! 実年齢は成人を超えてるはずのくせに恥ずかしい限りである。
「さて、四人も入ってきてくれて嬉しいと思うけど、残念ながらまだ仕事を一緒に、というわけではないんだ。何をするかについては説明するから、そこの四人は解散後も残っておいてね」
「イエス!」
「イ、イエス……」
元気の良いスーザンの声が響き、それに続いてティミーも控えめに声を出す。
この光景に、元日本人として笑いそうにはなるが、そこは異世界。誰一人笑う人はいないので俺も自重することにする。運動部で大きな声で顧問に返事しても笑わない事を考えればまったくもって納得がいくだろう。俺もちゃんと咄嗟に言えるようにしないと。
「それで、今日は二班に分かれてもらうんだけど……」
これから先輩方が行う仕事内容を説明されると、全員廊下に出るのとは別の扉に向かう。
「あそこは防具が置いてある部屋だよ。基本みんなプレート装備を選ぶけど、たぶんアキヒサ君達には重すぎるから布装備の方がいいかもね」
説明しつつバリクさんがこちらにやってくる。
「それで、仕事の話なんだけど、みんなにはとりあえず何日か講義を受けてもらう事になるんだ」
「え、冗談っしょ?」
「残念ながら」
バリクさんはファルクの気に入らなさげの様子に対し困ったようにほほ笑む。
「マジかー……勉強とか嫌いなんだよね……」
「何度言えばわかるのだ。言葉を慎め」
「じゃあスーちゃんは胸を慎めー」
「なっ……!」
スーザンは顔を赤くし胸の辺りを押さえ侮蔑の眼差しでファルクの事を見る。もうファルクの事はほっとけばいいと思うぞ。
「え、えと、講義って何をするんでしょうか?」
「うん、騎士魔法を覚えてもらおうと思ってね」
ティミーの問いかけに対し、バリクさんが柔らかく笑みを浮かべる。
でも騎士魔法か……。魔術読本にはそんな言葉無かったし、そもそも学院で習ったことも無ければ図書館にも見当たらなかったよな。
「最近騎士団で独自に開発された新しい魔術みたいなものだよ」
なるほど、つまりRPGでよくある職業ごとに違ったキャラ特有のスキルみたいなものか! この異世界もそういうのが存在してるとは、ゲーム愛好者であった俺にとってはちょっと嬉しい。
「でもたいちょー、普通の魔法とか魔術じゃダメなんすかー?」
「魔術や魔法にはでき無い事ができるからね」
「どんな事ができるんすかー?」
「例えば敵の拘束。従来は鎖とかで敵を捕まえてたんだけど、けっこうかさばって持ち運び不便で、あと壊されて逃げられるなんて事もあったからね。でも騎士魔法を使えば鎖よりももっと強固な物を創り出せるようになるし、持ち運びに苦労も無くなる」
なるほど……いいじゃないか騎士魔法!
「やりましょう! すぐに習得して見せます!」
「あ、ああ、頑張って……」
なんか反応が微妙だなと思いつつ他の皆の様子も見ると、何故か全員シレーっとした目線を俺に送っていた。なに、俺今意気込んだだけだよな? 確かにテンション上がってたけど何かおかしいこと言った?
「アキっていつもそこまで向上心あったっけ……」
「え、ありまくりだろ?」
「そうかな……」
ティミーは浮かない様子だ。俺への認識は一体どうなってるのか気になる今日この頃。
「でもそうだね、すぐに習得出来たらその時点で講義は終わって他の皆と合流できるから、それまでの辛抱だよ」
「うぃーっす」
ファルクは気の抜けた返事をすると、さてと言って立ち上がる。
「これから早速なんすよね? ちゃっちゃと終わらせちゃうっすわー」
「うん、その意気だよファルク君。じゃあみんな、早速だけどついてきてもらえるかな」
騎士魔法ってどんなのだろうかと期待しつつバリクさんの後に続いた。
日本でいう大学の講義室のような感じの大部屋に新人四人とバリクさんがいる。
この部屋は普段、勉学に励みたい騎士団員のために開放してるらしく、それ以外での用途は大規模作戦、つまり大陸外遠征等のミーティングに使われるらしい。
「それで、魔術というのは無干渉的性質変換、魔法は干渉的事象変換になる。それで騎士魔法の方は干渉的性質変換になって、魔力に通じる所も魔術に通じる所もあるんだ。それで……」
「飽きたんですけどー?」
「ハハ、ごめんごめん。でももうちょっと我慢……」
「いつまでなんすかー? 終わる気しないんですけど、もうちょっと工夫してくれませんかねー?」
バリクさんの講義を遮っているのはファルクの声だ。見れば机に脚を乗っける不躾ぶりだ。流石にこれほどの無礼は目に余るな。
スーザンが口を開きかける前に口火を切ってやる事にする。
「おいファルク、いい加減我慢というのを覚えたらどうなんだ? 不愉快だ」
「えー、不愉快だからなーにぃ? アキちん不愉快になるんだったらもっとやっちゃおっかなー!」
「とことんクズだな。そもそも不愉快になるのは俺だけじゃない、たぶん周りの人間が全員そう感じるだろうよ」
「僕知らないしー? そんなことー」
「そんな言い訳は五歳のガキでも通用しない。だいたいバリクさんの気持ちを……」
まくし立てていると、バリクさんの声が割り込んできた。
「二人とも、やめるんだ。確かに退屈だったと思うから今回は僕の失態だよ」
でもと言い募ろうとするが、バリクさんの目は心なしか厳しめでこれ以上の発言を許さないと語っているようだ。擁護する対象がそう言うのではどうしようもない、とりあえず引き下がる事にする。恐らく部下に軋轢が入るのは隊長として快い事ではないのだろう。
「そうだ、最近発見された新たな魔力の概念の話をしようか」
いつもの穏やかな笑みをたたえてバリクさんが提案する。先ほどの事に少し納得は行かないものの、新たな魔力の概念というのには興味がある。
「どうだい? ファルク君」
「そういうの待ってたんすよー」
バリクさんの良い人さ加減には本当に感服だ。ただ少し人が良すぎる気もする。
「通常、魔力は人間が生まれ持って持つ物で、これまではそれが魔力という位置づけに定義されている、っていうのは知ってると思う」
確かそれは学院の講義で習ったし、魔術読本でもあった。
「でも最近どうやら魔力というのは二種類存在することに発見したらしくてね、一つは人間の持つ従来の魔力、そして二つ目は新たに発見された魔物の持つ魔力。魔術研究所はそれを光魔力と闇魔力と呼ぶことにしたんだってね」
魔術研究所か……もしかしてアリシアもアルドもその研究とかしてるのかな。
「そしてまた面白い事にこの二つの魔力には深い相互関係があって、一方が力を出せば、もう一方がそれを打ち消すために強くなるらしいんだ。そしてその原理は僕たちが強くなるための方法にもつながる」
「ほっほう」
強くなるという単語が効いたのか、ファルクは若干身を乗り出し気味だ。
「簡単な事さ、魔物を倒すだけだからね。実際、魔術研究所の報告によれば、人間の持つ光魔力の方が魔物の持つ闇魔力よりも遥かに多くて、魔物を倒せば倒すだけ、その時放出された闇魔力を打ち消すために僕たちの光魔力がより大きい物になっていったんだって」
へぇ、そうなんだ。あれだな、もしかしてRPGとかの世界の経験値でキャラがレベルアップってそういう原理だったのかもしれない。
「それじゃあ僕は早速魔物を討伐いってきまーっす!」
言うやいなや、ファルクは出口に向かって走っていく。
「騎士魔法は必須だからね、覚えないと団長が怖いよ」
「やだなたいちょー、それを先に言っといてくださいよ~」
バリクさんの微笑みにファルクはせっせと席に戻る。ほんと苦手なんだな団長の事。まぁ俺も得意ではないけど。
その後、講義が再開し、ある程度騎士魔法を理解したところで入団初日は終わりを迎えた。
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