異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~

じんむ

騎士団本部

 試験を終え、本部に戻り各々が元々来ていた服に着替えた後、俺ら合格者達は間を置かずして団長室の目の前まで来ていた。

「入りなさい」

 気配を察したのか、格子で飾られた木調の扉の向こうから男の声がかかる。

「失礼します」

 少し重みのある黒金のとってを握り、前に押すと、レトロなこげ茶色の木で作られた机に、両手を組むウィンクルム騎士団団長、セス・オニールの姿があった。その背後で交差してかけられているのであろう二本の団旗が団長の背後で翼のごとくたたずんでいる。左右には分厚い本のある棚、なかなか雰囲気としては悪くない場所だ。

「諸君、まずは入団、歓迎する」

 威厳たっぷりの雰囲気に思わず身がすくみそうになりながら丁寧にお辞儀しておいた。俺もそうだがティミーもかなり緊張してるらしく、さっきからまったく言葉を発しなくなっている。スーザンもまた神妙な面持ちだ。そしてファルクといえば……。

「ねぇねぇ、もう疲れたんだけどー?」

 こいつ……。
 ファルクが割と普通に聞こえる大きさで言葉を発すると、それに対し静かなトーンでスーザンが叱りつける。

「馬鹿、貴様、団長の前で何と無礼な……!」
「えー、だってこういうの苦手だしー?」
「何が苦手だ、場を慎め!」

 ひそひそとやり取りを……いやひそひそしてるのはスーザンだけか。

「ボゼー君」

 その様子を静かに眺めていた団長がファルクの名前を呼ぶ。
 ほら見ろ、これで連帯責任とかとらされたらマジ許さん。

「騎士団は礼儀が第一。あまりそういった態度を取り続けるようでは我々は君の入団を考えねばならない」
「アハハ……すみません」

 ここで口答えするほど馬鹿ではなかったようだ。ファルクは素直に謝る。

「よろしい、以後気を付けるように」

 さて、と改めて団長が正面を向く。どうやら許してもらえたらしい。

「まず騎士団について軽い説明をさせてもらう。まず一応この組織には階級が大きく四つ存在する。上から、団長、副団長、上位騎士、下位騎士という具合だ。基本構成員は下位騎士からなっており、大きな功績を打ち立てたものが上位騎士に昇格できる。まぁ例外はあるわけだが……。まぁそれは置いておこう。上位騎士に昇格したものは自らの隊を持つことになり、その隊の中の判断は全て委任される。それだけに責任が重い立場でもある」

 なるほど、という事はバリクさんが上位騎士、ハイリが下位騎士って事になるのか。というか副団長もちゃんといるんだな。

「ちなみにほとんどの隊には内部で細かい階級が存在する、それについては後に編入する隊の隊長に聞いてもらいたい。細かなところもあれば大まかなところもある」

 ふむ、そうなのか。案外上下関係厳しいんじゃないの……。まぁ当たり前か。いつまでも子供じゃいられない。一応騎士団といえば立派な職業、現実世界で言えば社会の仲間入りになるわけだからな。

「それで仕事内容だが……」

 ここで団長が言葉を区切る。団長の目は「この先は言わずとも分かるかね?」と問うてるようだ。

「はい、大丈夫です。貴様らもそれくらいはちゃんと把握してるだろう?」

 その意図を感じ取ったのか、スーザンは俺らに対し尋ねてくる。

「ああ」
「もち!」
「う、うん」

 各々答えると、団長はうむと満足げに頷く。
 騎士団の仕事は何回か聞く機会があった。城内外の警備、鉱脈調査、護送等の国家関連任務、犯罪の取り締まり……あとなんだっけ。まぁいろいろやるってことだな、うん。

「では諸君には三日後に、正式な騎士団への入団とさせてもらう。ただ、寮へは既に入ってもらってけっこうだ。入団までの二日は準備期間だ。転移石なども用意させてもらおう。それで、所属する隊だが今回は全員三番隊に所属してもらう事にした。と言っても最初のうちは本隊とは別の行動になるからそのつもりをしておくように」

 そこへコンコンと小気味良く扉をノックする音が聞こえる。

「バリク君か、入りなさい」
「失礼します」

 穏やかな声音で姿を見せたのは、イケメンハンサムバリクさんだった。会ってから四年ぶりくらいだがあの頃の爽やかさは健在だ。

「三番隊の隊長、アレン・バリク君だ。もし何か疑問があれば彼になんでも聞くといい」

 その言葉にバリクさんは爽やかに俺らへほほ笑みかけてくる。……惚れてまうやろぉ!

「最後に一つ、騎士団という組織は最もに王に近しく、最も民に近しい存在だ。王は当然守るべき存在ではあるが、それはたみもまた同様。我々は守るために強くあらねばならない。その事をしっかりと心に刻みなさい」

 しかと俺らを見据える目には魂のようなものが感じられる。

「はい」

 自然と零れる言葉と共に身体が勝手に礼をする。他の皆も同様のようだ。なるほど、だからこの人は団長なんだな。

「では、頼む」
「分かりました」

 バリクさんは「じゃあ行こうか」と微笑むと、先にドアを開けて俺らの事を待ってくれる。
 ……ほんと、利きすぎるくらい気が利く人だな!




 すっかり夜も更け、大きな月が渡り廊下に面した大きくはないが風情のある中庭を照らし出す。
 今は隊ごとに分かれてるという寮に向かっている。ちなみに寮は希望者のみだが、敷地内に構えられており、出勤場所へすぐ向かえるという事で、王都内に住んでいたとしても入る人がほとんどらしい。

「いやでも、アキヒサ君とティミーちゃんが騎士団に来てくれるなんて嬉しいよ」
「自分もバリクさんの部隊に入れて嬉しいです」
「わ、私もです」

 ティミーはまだ緊張してるのか、どこか挙動不審だ。

「そう言ってくれると本当に嬉しいよ。えっと、スーザンさんとファルク君、二人は初めましてだね。三番隊の隊長を務めさせて貰っている、アレン・バリクです」
「はっ、よろしくお願いいたします!」
「よろしくでーっす!」
「おい、言葉をもう少しわきまえろ害虫!」

 スーザンもどうやらファルクの事を害虫と認識したらしい。もうこいつ害虫でいいんじゃないの?

「あんまり気にしなくてもいいよ。うちの隊には敬語のけの字も付かない子もいるからね……それを考えればファルク君はいい方だよ」

 傍らからのぞかせる困ったような笑みにハイリの事だとすぐに察する。

「へぇ、じゃあ僕もはずしちゃっても?」
「そうだな、僕は別に構わないけど団長に見つかった時は怖いかもね」
「うっ……やっぱ敬語でいいっすわ……」

 流石のファルクも団長の事は苦手らしい。苦虫を噛み潰したような顔がそれを物語っている。

「さぁ、ここだよ」

 色々と話しつつ本棟から出ると、ルネサンス様式のような大きめの館が目の前で佇んでいた。

「一応ここは三番隊、五番隊の共同の寮になってるんだけど、今はみんな夜の警護に当たってるから誰もいないんだ」

 バリクさん説明しながら大きな扉を重々しく押し込みながら開けていく。

「おお……」

 ティミーが簡単したように息を漏らす。
 床は網目のような模様が施され、高めの天井にはきらびやかに光るシャンデリア、前方には大きめの階段があり、ベランダのような渡り廊下に続いている。
 ふむ、これは確かにお洒落な社員寮だ、感嘆するのも無理はない。ましてや俺らは田舎っ子だからな。学院の寮もいい感じではあったがここもまたかなり味がある。

「ここから左にいけば食堂で、右に行けば洗面所や物干場、そしてこの階段を登って左手は僕たち三番隊の各部屋、右手には五番隊の各部屋があるんだ。部屋は019号室から022号室を割り当てられてるから、四人で相談してどこに入るかは決めてくれていいよ。まぁ違いはあんまり無いんだけどね」

 なるほど……騎士団は男女分けたりとかは無いんだな。まぁそうか、女性が入るなんてあまり無いっぽしな、現にあの試験の時にいた女性といえばティミーとスーザンだけだった。
 あ、女性といえば風呂ってどうなんだろ、無いとつらいんじゃないのか? 俺も日本人の端くれとしてあまり風呂は欠かしたくないし。

「浴場とかはあるんでしたっけ?」
「それなら別棟にあるよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「うん、でもごめんね、案内してあげたいんだけど、ちょっとこの後僕も持ち場に戻らないといけなくてね。また明日でもいいかい?」

 バリクさんは申し訳なさそうに頭をかく。わざわざそこまで考えてくれるとは、なんて丁寧な人なんだ……。

「いえいえお気にしないでください。それより仕事、頑張ってください」
「ありがとうアキヒサ君」

 そして例の爽やかスマイルだ。この人絶対モテまくりだろ……。

「さて、部屋の場所は分かると思うけど一応案内しようか?」
「いや、たぶん大丈夫だと思います」

 確認をとる意味合いを込めて目を三人の方へ向けると、各々それに首肯する。

「ありがとう、みんな。それじゃあ僕は行かせてもらうよ」

 バリクさんはそう告げると、こちらに手を振りこの寮を後にした。
 まったく、終始ハンサム野郎だったな。いや、野郎と言うにはあまりにも失礼すぎるな……。


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