異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
巨鳥
しばらく魔物を倒しながら谷を奥へと走っているうちに、いつの間にか辺りに魔物が居なくなっていた。
「なんだよ、最初はあんなにも数がいたのに」
魔物の大軍勢を倒した後、正確に魔鉱石の数を調べてみたらなんと百二十二個もあった。ティミーに関しても九十五個と、総勢二百匹あまりの魔物の軍勢だったというのに。それが今ではたまに歩いている程度にまで数が減っている。
「そうだね……もしかして狩り尽しちゃったのかな?」
「いや流石にそれは……いやそうなのか?」
よくよく考えれば確かにあの多さは異常だ。あの時はラッキー程度にしか思っていなかったが、普通そんな数の魔物が行進してるのなんてありえないだろう。
「どんどん出てきたからね……もしかしたら魔物も援軍を呼ぶのかも?」
「そう、なのかねぇ?」
まぁ考えても仕方が無い、とりあえず進めばまたどっかに魔物がいるだろう。
「えー!? なんでティミーちゃんとひっきー君ここにいんのー?」
ふと背後から声が聞こえたので振り返ると、岸壁を地面と平行に走る害虫野郎の姿があった。
間もなくして壁を蹴った害虫野郎はさっと俺らのそばに飛び降りると、例の人懐っこそうながら鬱陶しい笑顔を見せてくる。
「ねぇねぇ、魔物いないのって全部ひっきー君達がやったからー? マジ害悪なんですけどー? 今すぐ消え失せろ!」
よくもまぁ笑顔でそこまで汚い口が叩けるもんだ。
「あ、ティミーちゃんはいいからね、なんなら僕と来てもいいんだよ?」
「へ? え、えっと……ご、ごめんなさい……」
律儀にティミーはお辞儀をする。だから丁寧すぎるっての。
「そっかざんねん!」
「で、なんだお前、ティミーにちょっかいでもかけにきたか? だったらとっとと消えろ害虫」
「もうひどいなぁ! てか、僕は害虫じゃなくて、ファルクって名前があるんだけどー?」
「俺だってひっきーじゃないんだけどー?」
しばらくにらみ合いが続く。先にそらしたのは害虫野郎の方だ。
「分かったよアキちん、流石に僕も害虫って呼ばれて喜ぶ程キモイ変態じゃないしねー?」
今こいつ、全国のそっち系の人を敵に回したな。てかアキちんってどうなのそれ……。
まぁいいか、今回はこちらも譲歩してやろう。
「はぁ、よろしくなファルク」
まあ、なんだかんだでこいつも……。
「うっわー、なにその微笑! きっもちわりぃ! もしかしてこれで友達ーとか思っちゃってるのー? どんだけ脳内花畑なのー?」
カッチーン。なんだこいつ、こっちはせっかく少し許してやろうかと考えてたところだったのによ!
「別に思ってませんけどねぇ? お前あれだな、絶対友達とかいないだろ。絶対ぼっちだったよな?」
「うん、まぁね!」
そんな嬉々という事じゃないと思うけど……。
「ほんと、いつの間にか一人……」
ぽつりとつぶやくファルクの目に鋭い何かが帯びた気がする。
しかしそれはほんの一瞬。すぐ元の鬱陶しい笑顔に戻った。
「じゃ、そろそろいこっかな! アキちん、負けたら分かってるよね?」
「あ、あぁ。お前もな」
「だったら安心。じゃ、ティミーちゃん、また会おうね!」
ファルクはウィンクし、ピースマークの手を軽く額の辺りで振ると、大きく飛躍し、颯爽と走り去った。 にしてもあの感じは一体……いや、気のせいか。
「ファルク君ってちょっと苦手かも……」
ティミーがぼそっと呟く。あんな奴が得意な奴はいないだろうさ。
「まぁ世の中ああいうのもいるわけだ。とりあえず俺らも行こうぜ。ある程度はファルクに狩られてるかもしれないけどどっかに分かれ道くらいあるだろうから」
「そうだね。行こっか」
少し何かが心にひっかかるような感覚を覚えつつ、ティミーと共に谷の向こうへと走った。
案の定というべきか、魔物の姿はまったく見えない。
「やっぱ狩られてるよなぁ。そもそもいたのかも分からないけど」
「どうなのかな……でもそれもそうだけど、全然分かれ道来ないよね」
「ああ、まったくな」
ティミーの言う通りだ。
どれくらい奥へ進んでいっただろう、分かれ道は未だに出現しない。これは一回上に行ったほうがいいかもな。
「このまま進む?」
「うーん、そうだな……もうちょっとだけ行って無理だったらちょっと面倒かもしれないけど谷の上からまた探そう」
「うん、分かった」
そしてしばらく他愛の無い話をしつつ先を進んでいると、どういう訳かいったん谷は途切れるようで、前方には壁と壁の間から眩しい光が差し込んでいた。良く見ればその先は広い空間がありそうだ。
「谷が終わるのかな?」
「いや終わるわけじゃないだろうけど……何かはありそうな気はするな」
不思議に思いながらもその先に行こうとすると、突如人影――ファルクがものすごい勢いで走ってきた。
「おい」
「あ、アキちんとティミーちゃん!? こっちは行かない方がいいよ、じゃ!」
もう少し詳しくと引き留めようとしたが、それだけ言ってまたもや凄まじい速さでどこかへ走って行ってしまった。
「一体何があるんだろうな?」
「や、やめといた方がいいかも……?」
「いや、あんな野郎という事聞くことないって、どうせでっちあげかなんかだろ」
あ、今フラグ立ったなとか思いつつ、歩いて行くと、先ほどの谷が陰っている場所だったせいか、太陽の眩しさに一瞬目を細める。
そんな中、視界には大きなシルエットが映りこんでいた。
真っ暗闇に居たというわけでもないので、すぐに目が慣れると、その大きなシルエットがこちらを見据えている姿を確認することができた。
殺気の籠った鋭い眼光、そして大きな嘴。
「こ、これって……」
ティミーが戦慄した様子でその巨大な鳥を見上げる。
数メートルはありそうなそんな大きさ。
刹那、大きな火の球がこちらに向かって真っ直ぐとばく進してくる。
「やっべ」
「きゃっ」
咄嗟に右へと回避。
辺りに大きな音が鳴り響く。舞い上がるのは、砂塵。それは砂煙となり視界を覆い尽くす。
「大丈夫かティミー!」
「う、うん!」
良かった、なんとかティミーもしのげたらしい。
世界最大級の鳥型魔物『ルフ』。巨大な体、そしてそれに見合うだけのエサを食らい尽くす。性格は獰猛。まさかこんなところにいるとはな……。
 昔何かの機会に読んだ書物の挿絵の記憶と、目の前にいるであろう巨鳥の姿とを照らし合わせていると、突如強い風圧が全身を覆い尽くす。
 砂煙が吹き飛び晴れる視界。眼前には羽――否、翼を広げるルフの姿が飛び込む。ぎらりと光る厳かな翼爪はルフが持つ特徴の一つだ。
空がよく見え、崖に囲まれながらも広い空間に構えるルフは嘴を開き火を讃える。その向く方向は、ティミー。
即座に左へと滑り込み、フェルドクリフを詠唱。姿を現した紺色の焔が壁を形成し、すぐ目の前まで飛んできていた赤い火の玉がティミーと俺を焼き尽くすのを防ぐ。
「あ、ありがとう」
「おう。それよりティミー、早く逃げろ!」
「そ、それが……」
ティミーが弱々しく呟きながら見る先は、無情にも塞がれた最大の退路だった。どうやら先ほどの衝撃に
崖が崩されたらしい。
「チッ、とりあえず騎士団の人を呼んでくれ。こいつはちょっとまずい」
「わ、わかった」
参ったな。なんとか騎士団が来るまで時間稼ぎはできればいいけど。
ティミーが携帯していたポーチから疎通石を取り出すのを確認すると、炎の壁が消えた前方へと目を転じる。
「なんだよ、最初はあんなにも数がいたのに」
魔物の大軍勢を倒した後、正確に魔鉱石の数を調べてみたらなんと百二十二個もあった。ティミーに関しても九十五個と、総勢二百匹あまりの魔物の軍勢だったというのに。それが今ではたまに歩いている程度にまで数が減っている。
「そうだね……もしかして狩り尽しちゃったのかな?」
「いや流石にそれは……いやそうなのか?」
よくよく考えれば確かにあの多さは異常だ。あの時はラッキー程度にしか思っていなかったが、普通そんな数の魔物が行進してるのなんてありえないだろう。
「どんどん出てきたからね……もしかしたら魔物も援軍を呼ぶのかも?」
「そう、なのかねぇ?」
まぁ考えても仕方が無い、とりあえず進めばまたどっかに魔物がいるだろう。
「えー!? なんでティミーちゃんとひっきー君ここにいんのー?」
ふと背後から声が聞こえたので振り返ると、岸壁を地面と平行に走る害虫野郎の姿があった。
間もなくして壁を蹴った害虫野郎はさっと俺らのそばに飛び降りると、例の人懐っこそうながら鬱陶しい笑顔を見せてくる。
「ねぇねぇ、魔物いないのって全部ひっきー君達がやったからー? マジ害悪なんですけどー? 今すぐ消え失せろ!」
よくもまぁ笑顔でそこまで汚い口が叩けるもんだ。
「あ、ティミーちゃんはいいからね、なんなら僕と来てもいいんだよ?」
「へ? え、えっと……ご、ごめんなさい……」
律儀にティミーはお辞儀をする。だから丁寧すぎるっての。
「そっかざんねん!」
「で、なんだお前、ティミーにちょっかいでもかけにきたか? だったらとっとと消えろ害虫」
「もうひどいなぁ! てか、僕は害虫じゃなくて、ファルクって名前があるんだけどー?」
「俺だってひっきーじゃないんだけどー?」
しばらくにらみ合いが続く。先にそらしたのは害虫野郎の方だ。
「分かったよアキちん、流石に僕も害虫って呼ばれて喜ぶ程キモイ変態じゃないしねー?」
今こいつ、全国のそっち系の人を敵に回したな。てかアキちんってどうなのそれ……。
まぁいいか、今回はこちらも譲歩してやろう。
「はぁ、よろしくなファルク」
まあ、なんだかんだでこいつも……。
「うっわー、なにその微笑! きっもちわりぃ! もしかしてこれで友達ーとか思っちゃってるのー? どんだけ脳内花畑なのー?」
カッチーン。なんだこいつ、こっちはせっかく少し許してやろうかと考えてたところだったのによ!
「別に思ってませんけどねぇ? お前あれだな、絶対友達とかいないだろ。絶対ぼっちだったよな?」
「うん、まぁね!」
そんな嬉々という事じゃないと思うけど……。
「ほんと、いつの間にか一人……」
ぽつりとつぶやくファルクの目に鋭い何かが帯びた気がする。
しかしそれはほんの一瞬。すぐ元の鬱陶しい笑顔に戻った。
「じゃ、そろそろいこっかな! アキちん、負けたら分かってるよね?」
「あ、あぁ。お前もな」
「だったら安心。じゃ、ティミーちゃん、また会おうね!」
ファルクはウィンクし、ピースマークの手を軽く額の辺りで振ると、大きく飛躍し、颯爽と走り去った。 にしてもあの感じは一体……いや、気のせいか。
「ファルク君ってちょっと苦手かも……」
ティミーがぼそっと呟く。あんな奴が得意な奴はいないだろうさ。
「まぁ世の中ああいうのもいるわけだ。とりあえず俺らも行こうぜ。ある程度はファルクに狩られてるかもしれないけどどっかに分かれ道くらいあるだろうから」
「そうだね。行こっか」
少し何かが心にひっかかるような感覚を覚えつつ、ティミーと共に谷の向こうへと走った。
案の定というべきか、魔物の姿はまったく見えない。
「やっぱ狩られてるよなぁ。そもそもいたのかも分からないけど」
「どうなのかな……でもそれもそうだけど、全然分かれ道来ないよね」
「ああ、まったくな」
ティミーの言う通りだ。
どれくらい奥へ進んでいっただろう、分かれ道は未だに出現しない。これは一回上に行ったほうがいいかもな。
「このまま進む?」
「うーん、そうだな……もうちょっとだけ行って無理だったらちょっと面倒かもしれないけど谷の上からまた探そう」
「うん、分かった」
そしてしばらく他愛の無い話をしつつ先を進んでいると、どういう訳かいったん谷は途切れるようで、前方には壁と壁の間から眩しい光が差し込んでいた。良く見ればその先は広い空間がありそうだ。
「谷が終わるのかな?」
「いや終わるわけじゃないだろうけど……何かはありそうな気はするな」
不思議に思いながらもその先に行こうとすると、突如人影――ファルクがものすごい勢いで走ってきた。
「おい」
「あ、アキちんとティミーちゃん!? こっちは行かない方がいいよ、じゃ!」
もう少し詳しくと引き留めようとしたが、それだけ言ってまたもや凄まじい速さでどこかへ走って行ってしまった。
「一体何があるんだろうな?」
「や、やめといた方がいいかも……?」
「いや、あんな野郎という事聞くことないって、どうせでっちあげかなんかだろ」
あ、今フラグ立ったなとか思いつつ、歩いて行くと、先ほどの谷が陰っている場所だったせいか、太陽の眩しさに一瞬目を細める。
そんな中、視界には大きなシルエットが映りこんでいた。
真っ暗闇に居たというわけでもないので、すぐに目が慣れると、その大きなシルエットがこちらを見据えている姿を確認することができた。
殺気の籠った鋭い眼光、そして大きな嘴。
「こ、これって……」
ティミーが戦慄した様子でその巨大な鳥を見上げる。
数メートルはありそうなそんな大きさ。
刹那、大きな火の球がこちらに向かって真っ直ぐとばく進してくる。
「やっべ」
「きゃっ」
咄嗟に右へと回避。
辺りに大きな音が鳴り響く。舞い上がるのは、砂塵。それは砂煙となり視界を覆い尽くす。
「大丈夫かティミー!」
「う、うん!」
良かった、なんとかティミーもしのげたらしい。
世界最大級の鳥型魔物『ルフ』。巨大な体、そしてそれに見合うだけのエサを食らい尽くす。性格は獰猛。まさかこんなところにいるとはな……。
 昔何かの機会に読んだ書物の挿絵の記憶と、目の前にいるであろう巨鳥の姿とを照らし合わせていると、突如強い風圧が全身を覆い尽くす。
 砂煙が吹き飛び晴れる視界。眼前には羽――否、翼を広げるルフの姿が飛び込む。ぎらりと光る厳かな翼爪はルフが持つ特徴の一つだ。
空がよく見え、崖に囲まれながらも広い空間に構えるルフは嘴を開き火を讃える。その向く方向は、ティミー。
即座に左へと滑り込み、フェルドクリフを詠唱。姿を現した紺色の焔が壁を形成し、すぐ目の前まで飛んできていた赤い火の玉がティミーと俺を焼き尽くすのを防ぐ。
「あ、ありがとう」
「おう。それよりティミー、早く逃げろ!」
「そ、それが……」
ティミーが弱々しく呟きながら見る先は、無情にも塞がれた最大の退路だった。どうやら先ほどの衝撃に
崖が崩されたらしい。
「チッ、とりあえず騎士団の人を呼んでくれ。こいつはちょっとまずい」
「わ、わかった」
参ったな。なんとか騎士団が来るまで時間稼ぎはできればいいけど。
ティミーが携帯していたポーチから疎通石を取り出すのを確認すると、炎の壁が消えた前方へと目を転じる。
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