異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
収集開始
峡谷の上へと身を投じると、辺り一面青空が広がっており、目の前には谷の迷路が広がっていた。広々とした大地には、時折ごつごつとした大小さまざまな岩山も点在しており、この場所の壮大さが窺える。
でもけっこうつながってんだな峡谷……予想以上に入り組んでたらしい。上に来る発想は間違ってなかった。
「アキ!」
少々強い風に琥珀色の髪の毛が煽られるのを手で抑えながら、ティミーは笑みをたたえながら出迎えてくれた。ふむ、守りたい、この笑顔。
「さて、とりあえず真っ直ぐ行くか!」
ティミーのおかげで俄然やる気が出たのと、風のせいもあってか心なしか声が張ってた気がする。
「うん!」
ティミーは威勢よく答えるのを確認すると、地面を勢いよく蹴り上げロスト・キャニオンの奥へと進んでいく。
今までいた所はそれなりに幅があったが、先にある峡谷はそこまで広くは無さそうだ、ほとんどがせいぜい十メートル前後といったところだろう。これくらいなら先ほどのように魔術を使えば容易に越えられる。
「お、やってるな」
上を走っていると、さほど時間を置くことなく、崖の下に受験者が魔物と戦っている様子を確認することができた。これぞ本当の高みの見物だな。
「危ない!」
突如、ティミーが叫ぶので何事かと思い前方に目をやると、二十数羽にもなりそうな鳥の魔物の群れがこちらに向かって迫ってきていた。
「おいマジかよ」
「アクア・エンハンブレ!」
焦りつつもなんとか体制を整え臨戦態勢を整えようとすると、ティミーが魔術を唱えたらしくその魔物の群れにむかって一つ一つは小さくも、その数は幾千にもなりそうな水弾が撃ち込まれる。
悲鳴を上げる魔物、水弾が見えなくなるころには、全員が墜落し、灰となった。
そしてその中からは紫色の輝きを放つ石が姿を現する。なるほど、これが魔鉱石か。
「ありがとうティミー、収斂忘れるなよ」
「あ、そ、そっか。収斂!」
ティミーが唱えると、散らばっていた魔鉱石がティミー元へと集約されていく。
収斂というのは簡単に言ってしまえば物を集める魔法だ。魔物の落としたアイテム等の収集用で、詳しい原理は知らないが、上手い具合に自分で倒してドロップさせたアイテムしか引き寄せない。
「すごい、もう二十一個も集まったよアキ!」
ティミーが嬉しそうに集めた魔鉱石を見せてくる。
「空の魔物でもいけるんだな」
「でもそんなに多くはいなさそうだね」
「ああ、やっぱり一番いるのは谷底だろうな」
「だね、この調子でがんばろ!」
「おう」
またしばらく走ると、そろそろ受験者たちの姿は無くなっているので、手ごろな谷を見下げてみると、魔物の群れがうようよ蠢いていた。予想以上に多いな。
「うーん、この高さだと下まで水、届かないかも……」
なるほど、確かにさっき昇ってきた峡谷に比べると倍くらい高さが違う。最初の場所の高さですら勢いを止めずに魔術を放ち続けたこともすごいというのに、この高さでも同じことができたらもはや人間核兵器だ。
「別の……」
場所にするかと言いかけるが、少し踏みとどまる。
いや、いけるんじゃないだろうか、俺の魔術を使えば。さっき使ったのには高さは関係ない。これから先、これくらいの深さの谷が続かないとも限らない、どうせこの高さを行かなきゃならないならここで降りてしまったほうが効率は良いだろう。というかそろそろ本格的に討伐しないと真面目に試験に通るか危うい。
「別の谷を探すのもいいけど、こっからこの谷の深さが続かないとも限らないし、それならいっそちょっとした無茶に付き合ってくれないか?」
「無茶?」
「まぁリスクは生じるものだけど、一応この下に行けないことは無いと思ってな」
「おお! どんな方法なの?」
ティミーが目を輝かせる。
「簡単に言うとだな、とりあえず飛び降りる」
一転、ティミーの目がくすむ。
「ここッ、ここを、飛び降りるの?」
カタカタと動くティミーはさながらロボットのようだ。まぁそうだよな、あれだけ聞けばそうなるよな。俺もたぶん同様になるだろう。
「大丈夫、俺の魔術を使ったら普通に降りれるから。……たぶん」
「た、たぶん……?」
「まぁいざとなったら軽量を使えば大事は免れるから行ける」
「大丈夫かな……」
ティミーは不安の色を隠しきれない様子だ。かくいう俺もけっこう不安だったりします。でも騎士団には入りたいので……。
「それで、私はどうすればいいのかな?」
「ああ、それならティミーは両手でしっかりと俺に掴まっといてくれるだけでいい」
「つ、掴まる……しっかりと……両手……」
ティミーの頬が赤く染まり出す。ああそうか……よくよく考えれば今俺、抱き付いてくれって言ったようなもんなんじゃないの……そこまで考えてなかった。ちょっと待てよ、なんか急に恥ずかしくなってきたじゃないか!
「わ、悪い。今のは無かったことに……」
「だ、大丈夫、その方法で、いい……」
しばしの沈黙。何ですかねぇこの何とも言えない気まずさと言うか気恥ずかしさと言うか! くっそ、もうどうにでもなれ!
「よ、よし。後ろからがっちりとな」
「わ、わかった」
後ろから俺の首へと遠慮がちに手が回され、髪の毛が首筋をなでると、ほのかに甘い香りが漂ってくる。やがて、背中がかすかに暖かい温度に包まれ、ティミーのかすかな息遣いをすぐそばで感じられる。あかん、これはあかん!
「さ、さて……」
心を落ち着けろ。邪念を払え。集中するんだ。
地面までの距離が四百メートルくらいか……となると地面に到達するのは十秒くらいだろう。
「行くぞ、俺を殺す気で掴まってろ! 危なくなったら軽量だ!」
「う、うん!」
ひたと下を見据え、谷底に向けて剣を抜き、自らの身を放り投げる。
「ひゃっ」
ティミーが軽く悲鳴をあげる。
全身に感じるのは浮遊感と風。絶叫コースターにでも乗ってる気分だ。いや比じゃないかもしれない。
逆さまに落下する中、なんとか剣を天――いや地に向けてふり下げる。
「ケオ・テンペスタス!」
配給された剣だったが、魔術伝導はそれなりに良く、唱えるとすぐにその切っ先から勢いよく紺色の炎が放出され、下のにいた魔物の群れの一部を葬り去る。これで足場はできた。
そしてその炎の勢いで一瞬落下速度が軽減すると、すかさず剣を捨て去り、先ほど峡谷を登った時に使った魔術を行使する。
手から激しい炎を繰り出し、逆さになっている体勢を自然な状態に戻し、足からも炎を出すと、なんとかゆるりと地面に降り立つことができた。
「ふう……なんとか成功か」
「よ、よかった……」
少し涙目のティミーと安堵の息をつくと、自然と笑みがこみ上げてくる。
しかしまだ終わってはいない。
周りを見れば 岩に身を包んだオオトカゲやら、土で形成された人形などその種類は多種多様の魔物の群れが今にも俺らの息の根を止めんとじりじり間を詰めてくる。
「後ろ頼む」
「わかった」
さて、後ろはティミーに預けた。やるべきことは一匹も後ろに漏らさず敵を駆逐する事。
傍に刺さっていた剣を引き抜くと、魔物の群れへと突進する。
「炎剣!」
剣を覆うのは紺色の焔。別に周りに炎が無くとも実は発動できる。
オオトカゲが勢いよく飛び上がり、鋭い爪を光らせるのを真っ二つに斬り裂き、泥人形の飛ばす球を焼き尽くす。
二匹が一度に飛びかかるも剣を横に払えば炎の力相まって一太刀で対処できる。
一匹、また一匹と魔物を斬り伏せ、纏う炎は剣線となり、宙に絵を描いているうちに、遂に目の前には魔物の姿が無くなった。
「収斂」
地面にまき散らされた魔鉱石を集めると、袋の中にすべてしまう。だいたいこれで百はいっただろう。もちろんまだ足りないだろうけど
「クーゲル!」
ティミーの方を見ると、丁度終わったところらしい。最後の一匹を仕留めると「ふう」と息をつき魔鉱石を集める。
「お疲れ」
「あ、アキも終わってたんだね」
「ああ、でもまだまだこれからだ」
「うん」
他の受験者がどれくらい集めるか分からないがまぁ、この調子でいけば行けそうだな。
でもけっこうつながってんだな峡谷……予想以上に入り組んでたらしい。上に来る発想は間違ってなかった。
「アキ!」
少々強い風に琥珀色の髪の毛が煽られるのを手で抑えながら、ティミーは笑みをたたえながら出迎えてくれた。ふむ、守りたい、この笑顔。
「さて、とりあえず真っ直ぐ行くか!」
ティミーのおかげで俄然やる気が出たのと、風のせいもあってか心なしか声が張ってた気がする。
「うん!」
ティミーは威勢よく答えるのを確認すると、地面を勢いよく蹴り上げロスト・キャニオンの奥へと進んでいく。
今までいた所はそれなりに幅があったが、先にある峡谷はそこまで広くは無さそうだ、ほとんどがせいぜい十メートル前後といったところだろう。これくらいなら先ほどのように魔術を使えば容易に越えられる。
「お、やってるな」
上を走っていると、さほど時間を置くことなく、崖の下に受験者が魔物と戦っている様子を確認することができた。これぞ本当の高みの見物だな。
「危ない!」
突如、ティミーが叫ぶので何事かと思い前方に目をやると、二十数羽にもなりそうな鳥の魔物の群れがこちらに向かって迫ってきていた。
「おいマジかよ」
「アクア・エンハンブレ!」
焦りつつもなんとか体制を整え臨戦態勢を整えようとすると、ティミーが魔術を唱えたらしくその魔物の群れにむかって一つ一つは小さくも、その数は幾千にもなりそうな水弾が撃ち込まれる。
悲鳴を上げる魔物、水弾が見えなくなるころには、全員が墜落し、灰となった。
そしてその中からは紫色の輝きを放つ石が姿を現する。なるほど、これが魔鉱石か。
「ありがとうティミー、収斂忘れるなよ」
「あ、そ、そっか。収斂!」
ティミーが唱えると、散らばっていた魔鉱石がティミー元へと集約されていく。
収斂というのは簡単に言ってしまえば物を集める魔法だ。魔物の落としたアイテム等の収集用で、詳しい原理は知らないが、上手い具合に自分で倒してドロップさせたアイテムしか引き寄せない。
「すごい、もう二十一個も集まったよアキ!」
ティミーが嬉しそうに集めた魔鉱石を見せてくる。
「空の魔物でもいけるんだな」
「でもそんなに多くはいなさそうだね」
「ああ、やっぱり一番いるのは谷底だろうな」
「だね、この調子でがんばろ!」
「おう」
またしばらく走ると、そろそろ受験者たちの姿は無くなっているので、手ごろな谷を見下げてみると、魔物の群れがうようよ蠢いていた。予想以上に多いな。
「うーん、この高さだと下まで水、届かないかも……」
なるほど、確かにさっき昇ってきた峡谷に比べると倍くらい高さが違う。最初の場所の高さですら勢いを止めずに魔術を放ち続けたこともすごいというのに、この高さでも同じことができたらもはや人間核兵器だ。
「別の……」
場所にするかと言いかけるが、少し踏みとどまる。
いや、いけるんじゃないだろうか、俺の魔術を使えば。さっき使ったのには高さは関係ない。これから先、これくらいの深さの谷が続かないとも限らない、どうせこの高さを行かなきゃならないならここで降りてしまったほうが効率は良いだろう。というかそろそろ本格的に討伐しないと真面目に試験に通るか危うい。
「別の谷を探すのもいいけど、こっからこの谷の深さが続かないとも限らないし、それならいっそちょっとした無茶に付き合ってくれないか?」
「無茶?」
「まぁリスクは生じるものだけど、一応この下に行けないことは無いと思ってな」
「おお! どんな方法なの?」
ティミーが目を輝かせる。
「簡単に言うとだな、とりあえず飛び降りる」
一転、ティミーの目がくすむ。
「ここッ、ここを、飛び降りるの?」
カタカタと動くティミーはさながらロボットのようだ。まぁそうだよな、あれだけ聞けばそうなるよな。俺もたぶん同様になるだろう。
「大丈夫、俺の魔術を使ったら普通に降りれるから。……たぶん」
「た、たぶん……?」
「まぁいざとなったら軽量を使えば大事は免れるから行ける」
「大丈夫かな……」
ティミーは不安の色を隠しきれない様子だ。かくいう俺もけっこう不安だったりします。でも騎士団には入りたいので……。
「それで、私はどうすればいいのかな?」
「ああ、それならティミーは両手でしっかりと俺に掴まっといてくれるだけでいい」
「つ、掴まる……しっかりと……両手……」
ティミーの頬が赤く染まり出す。ああそうか……よくよく考えれば今俺、抱き付いてくれって言ったようなもんなんじゃないの……そこまで考えてなかった。ちょっと待てよ、なんか急に恥ずかしくなってきたじゃないか!
「わ、悪い。今のは無かったことに……」
「だ、大丈夫、その方法で、いい……」
しばしの沈黙。何ですかねぇこの何とも言えない気まずさと言うか気恥ずかしさと言うか! くっそ、もうどうにでもなれ!
「よ、よし。後ろからがっちりとな」
「わ、わかった」
後ろから俺の首へと遠慮がちに手が回され、髪の毛が首筋をなでると、ほのかに甘い香りが漂ってくる。やがて、背中がかすかに暖かい温度に包まれ、ティミーのかすかな息遣いをすぐそばで感じられる。あかん、これはあかん!
「さ、さて……」
心を落ち着けろ。邪念を払え。集中するんだ。
地面までの距離が四百メートルくらいか……となると地面に到達するのは十秒くらいだろう。
「行くぞ、俺を殺す気で掴まってろ! 危なくなったら軽量だ!」
「う、うん!」
ひたと下を見据え、谷底に向けて剣を抜き、自らの身を放り投げる。
「ひゃっ」
ティミーが軽く悲鳴をあげる。
全身に感じるのは浮遊感と風。絶叫コースターにでも乗ってる気分だ。いや比じゃないかもしれない。
逆さまに落下する中、なんとか剣を天――いや地に向けてふり下げる。
「ケオ・テンペスタス!」
配給された剣だったが、魔術伝導はそれなりに良く、唱えるとすぐにその切っ先から勢いよく紺色の炎が放出され、下のにいた魔物の群れの一部を葬り去る。これで足場はできた。
そしてその炎の勢いで一瞬落下速度が軽減すると、すかさず剣を捨て去り、先ほど峡谷を登った時に使った魔術を行使する。
手から激しい炎を繰り出し、逆さになっている体勢を自然な状態に戻し、足からも炎を出すと、なんとかゆるりと地面に降り立つことができた。
「ふう……なんとか成功か」
「よ、よかった……」
少し涙目のティミーと安堵の息をつくと、自然と笑みがこみ上げてくる。
しかしまだ終わってはいない。
周りを見れば 岩に身を包んだオオトカゲやら、土で形成された人形などその種類は多種多様の魔物の群れが今にも俺らの息の根を止めんとじりじり間を詰めてくる。
「後ろ頼む」
「わかった」
さて、後ろはティミーに預けた。やるべきことは一匹も後ろに漏らさず敵を駆逐する事。
傍に刺さっていた剣を引き抜くと、魔物の群れへと突進する。
「炎剣!」
剣を覆うのは紺色の焔。別に周りに炎が無くとも実は発動できる。
オオトカゲが勢いよく飛び上がり、鋭い爪を光らせるのを真っ二つに斬り裂き、泥人形の飛ばす球を焼き尽くす。
二匹が一度に飛びかかるも剣を横に払えば炎の力相まって一太刀で対処できる。
一匹、また一匹と魔物を斬り伏せ、纏う炎は剣線となり、宙に絵を描いているうちに、遂に目の前には魔物の姿が無くなった。
「収斂」
地面にまき散らされた魔鉱石を集めると、袋の中にすべてしまう。だいたいこれで百はいっただろう。もちろんまだ足りないだろうけど
「クーゲル!」
ティミーの方を見ると、丁度終わったところらしい。最後の一匹を仕留めると「ふう」と息をつき魔鉱石を集める。
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