異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
安堵
周りを見れば雑木林。そんな場所で、何かが流れるような心地の良い音が聞こえてきた。
水の流れだ。これが聞こえるという事はタラッタリアへ続く関所、マレハーダ関所まではあと少しという事。
大陸では最大級の河川として名高いマレハダ河を貫く広い橋の上がそのまま関所になっていたはずだ。
「そろそろ着くな……」
「なんか緊張するねぇ」
軽く言葉を交わしつつ少し馬を走らせていると、視界が一気に広がり、橋の前にそびえる堅牢な門が姿を現した。門番は……騎士団みたいだ。
「現在タラッタリアへの侵入は禁じられている!」
門の前まで近づくと、やはりというべきか門番に追い返されそうになるので、すかさず指輪を見せる。
「……ウィンクルム騎士団のアキヒサ・テンデルです」
本来なら所属まで言うべきだが、なにぶん裏切りの隊なのでどうにも言う気が起きなかった。これもし所属を聞かれれば……かなり厳しい状況になるかもしれない。いきなり出てきたのは浅はかだったか。
今更ながら後悔しつつも、次の言葉を待つ。
「それは……本物のようだな。それで、後ろの女も騎士団か?」
バリクさん裏切りの件については知られてないらしい。もし知っていたのなら所属を聞いてくるはずだ。でもキアラの事についてもあまり考えて無かったな。
「いや、こいつはなんというか俺の親友で……」
って、相手が俺の知り合いならまだしも普通入れてくれるわけないよなそんな事言ったって……。まぁなんとか頼み込むしかないか。
「君はともかく騎士団以外の者を通すわけにはいかない」
「そこをなんとかお願いできませんか?」
「駄目だ。どうしても同行したいというのなら君もこの先へ通すわけにはいかない」
やっぱりきついか。なんか訳有りっぽかったもんな騎士団。さてどうしたものか……。
「いいよアキ」
どうにか一緒に入れないか考えていたところ、キアラが口を開いた。
「いやここまで突き合わせておいてそれは……」
「色々騎士団の人にもあるんだよ。誰かも分からないような人を入れるのは流石にね。通行証とかも無いし、今の私めちゃくちゃ怪しいよ?」
「でも……」
「いいよいいよ。久しぶりに誰かと話できて嬉しかったし、十分私は楽しんだっ」
キアラが笑みを浮かべながらグッと指を突き立てる。
せっかく会えたのに、また別れる事になるのか? またこいつを一人にするのか? なんとなく、駄目な気がする。ここでキアラと別れるのは好ましくない。第一俺はまだ……。
「どうしたのだ? 何があった」
門の小扉が開く音と共に、凛々しい女の人の声が聞こえる。
「騎士団の人間が来たのですが、親友とやらを一緒に入れてほしいと……」
「敬語はやめてくれないか。私が守護長など身に余るのだから、同じ下位騎士団として接してもらいたい」
「いえ、そういう事はけじめとして必要だと思うので」
「……そうか。それで、その騎士団の人間とやらは何者なのだ?」
「こちらになります」
声に振り返ってみる。目の前には、姿勢よく立ちこちらを見る、大ぶりの槍を一本携えた長いポニーテールをした女の子がいた。とたん、猛烈な安堵に口元が緩みそうになる。
「スーザン!」
「貴様、アキヒサ・テンデルではないか……!」
「良かったよスーザン、元気そうで」
「アキヒサ・テンデルこそ息災で何よりだ」
スーザンは少し晴れやかな表情をしてくれたが、少しして陰りを見せ始めた。
「……だが、他の隊員はいないみたいだな」
どこまで知ってるのかは分からないが、声のトーンは少し沈み気味だ。
とりあえず俺の知ってる事はきっちりと報告しておくべきだろう。ただそれより先に確認しておくべき事が色々ある。
「報告する前にお前ら、関所破りしたって本当なのか?」
しばらく目を閉じ何やら考え込んだ様子を見せるスーザン。言葉を待っていると、やがて口を開いた。
「ああ。それを含めて貴様には色々と言っておかねばならない事があるな。とりあえず中で話そう」
「あ、待ってくれ」
スーザンが行こうとするので、反射的に呼び止める。
「キアラ……親友も入れるよう頼んでくれないか? こいつはかなり強いし、たぶん騎士団の助けになってくれる。怪しくないってのは俺が保証するからさ」
立ち止まったスーザンは少し考える素振りを見せると、やがて頷いてくれた。
「うむ、貴様が親友というのならば信用できるのだろう。共に付いて来てくれて構わない」
「え、そんな簡単にいいのか?」
なんかあっさり承諾してくれたな。
「一応、今は私がこの関所の守りを任されているからな」
「え、マジ?」
そういやこの衛兵の人守護長云々とか言ってたよな……。いつの間にこんなに出世してたんだよスーちゃん。
「まぁ一時的なものだからそんな大それた事ではない。とりあえず行くぞ」
「お、おう」
とにもかくにも承諾は得ることができたので、キアラに向かって頷くと、スーザンの後に続く。
関所内は普通、生活できるように軽く町のような形成になっている。
どうやらここも例外ではないようで、いくつか小さくはあるも清潔そうな建物が建てられており、さらに両サイドが綺麗な河なのでなかなか雰囲気のいい場所だった。
スーザンはその建物のうち一つに入ると、応接間のような場所に来た。
「まぁ二人とも楽にするのだ」
スーザンが席を勧めるのでキアラと共に椅子に座ると、スーザンもまた席につく。
しばらく無言の時が流れると、やがてスーザンの口から言葉が発せられた。
「……さて、今我々が把握していることは、セキガンに騎士団が敗北し、かつ王都がマルテルの手に堕ちた、という事だ」
マルテルに堕ちた……?
「すべてはバリク隊長の言う通りだったというわけだ」
バリクさんの言う通りって、何故ここであの人の名前が――――
水の流れだ。これが聞こえるという事はタラッタリアへ続く関所、マレハーダ関所まではあと少しという事。
大陸では最大級の河川として名高いマレハダ河を貫く広い橋の上がそのまま関所になっていたはずだ。
「そろそろ着くな……」
「なんか緊張するねぇ」
軽く言葉を交わしつつ少し馬を走らせていると、視界が一気に広がり、橋の前にそびえる堅牢な門が姿を現した。門番は……騎士団みたいだ。
「現在タラッタリアへの侵入は禁じられている!」
門の前まで近づくと、やはりというべきか門番に追い返されそうになるので、すかさず指輪を見せる。
「……ウィンクルム騎士団のアキヒサ・テンデルです」
本来なら所属まで言うべきだが、なにぶん裏切りの隊なのでどうにも言う気が起きなかった。これもし所属を聞かれれば……かなり厳しい状況になるかもしれない。いきなり出てきたのは浅はかだったか。
今更ながら後悔しつつも、次の言葉を待つ。
「それは……本物のようだな。それで、後ろの女も騎士団か?」
バリクさん裏切りの件については知られてないらしい。もし知っていたのなら所属を聞いてくるはずだ。でもキアラの事についてもあまり考えて無かったな。
「いや、こいつはなんというか俺の親友で……」
って、相手が俺の知り合いならまだしも普通入れてくれるわけないよなそんな事言ったって……。まぁなんとか頼み込むしかないか。
「君はともかく騎士団以外の者を通すわけにはいかない」
「そこをなんとかお願いできませんか?」
「駄目だ。どうしても同行したいというのなら君もこの先へ通すわけにはいかない」
やっぱりきついか。なんか訳有りっぽかったもんな騎士団。さてどうしたものか……。
「いいよアキ」
どうにか一緒に入れないか考えていたところ、キアラが口を開いた。
「いやここまで突き合わせておいてそれは……」
「色々騎士団の人にもあるんだよ。誰かも分からないような人を入れるのは流石にね。通行証とかも無いし、今の私めちゃくちゃ怪しいよ?」
「でも……」
「いいよいいよ。久しぶりに誰かと話できて嬉しかったし、十分私は楽しんだっ」
キアラが笑みを浮かべながらグッと指を突き立てる。
せっかく会えたのに、また別れる事になるのか? またこいつを一人にするのか? なんとなく、駄目な気がする。ここでキアラと別れるのは好ましくない。第一俺はまだ……。
「どうしたのだ? 何があった」
門の小扉が開く音と共に、凛々しい女の人の声が聞こえる。
「騎士団の人間が来たのですが、親友とやらを一緒に入れてほしいと……」
「敬語はやめてくれないか。私が守護長など身に余るのだから、同じ下位騎士団として接してもらいたい」
「いえ、そういう事はけじめとして必要だと思うので」
「……そうか。それで、その騎士団の人間とやらは何者なのだ?」
「こちらになります」
声に振り返ってみる。目の前には、姿勢よく立ちこちらを見る、大ぶりの槍を一本携えた長いポニーテールをした女の子がいた。とたん、猛烈な安堵に口元が緩みそうになる。
「スーザン!」
「貴様、アキヒサ・テンデルではないか……!」
「良かったよスーザン、元気そうで」
「アキヒサ・テンデルこそ息災で何よりだ」
スーザンは少し晴れやかな表情をしてくれたが、少しして陰りを見せ始めた。
「……だが、他の隊員はいないみたいだな」
どこまで知ってるのかは分からないが、声のトーンは少し沈み気味だ。
とりあえず俺の知ってる事はきっちりと報告しておくべきだろう。ただそれより先に確認しておくべき事が色々ある。
「報告する前にお前ら、関所破りしたって本当なのか?」
しばらく目を閉じ何やら考え込んだ様子を見せるスーザン。言葉を待っていると、やがて口を開いた。
「ああ。それを含めて貴様には色々と言っておかねばならない事があるな。とりあえず中で話そう」
「あ、待ってくれ」
スーザンが行こうとするので、反射的に呼び止める。
「キアラ……親友も入れるよう頼んでくれないか? こいつはかなり強いし、たぶん騎士団の助けになってくれる。怪しくないってのは俺が保証するからさ」
立ち止まったスーザンは少し考える素振りを見せると、やがて頷いてくれた。
「うむ、貴様が親友というのならば信用できるのだろう。共に付いて来てくれて構わない」
「え、そんな簡単にいいのか?」
なんかあっさり承諾してくれたな。
「一応、今は私がこの関所の守りを任されているからな」
「え、マジ?」
そういやこの衛兵の人守護長云々とか言ってたよな……。いつの間にこんなに出世してたんだよスーちゃん。
「まぁ一時的なものだからそんな大それた事ではない。とりあえず行くぞ」
「お、おう」
とにもかくにも承諾は得ることができたので、キアラに向かって頷くと、スーザンの後に続く。
関所内は普通、生活できるように軽く町のような形成になっている。
どうやらここも例外ではないようで、いくつか小さくはあるも清潔そうな建物が建てられており、さらに両サイドが綺麗な河なのでなかなか雰囲気のいい場所だった。
スーザンはその建物のうち一つに入ると、応接間のような場所に来た。
「まぁ二人とも楽にするのだ」
スーザンが席を勧めるのでキアラと共に椅子に座ると、スーザンもまた席につく。
しばらく無言の時が流れると、やがてスーザンの口から言葉が発せられた。
「……さて、今我々が把握していることは、セキガンに騎士団が敗北し、かつ王都がマルテルの手に堕ちた、という事だ」
マルテルに堕ちた……?
「すべてはバリク隊長の言う通りだったというわけだ」
バリクさんの言う通りって、何故ここであの人の名前が――――
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