異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
銀髪の吟遊詩人
「すごくいい場所だなこの村」
「そう、かな?」
「うん良い、すごく良い」
「エヘヘ……ありがと。ここはディーベス村っていうんだよ」
村をほめるとティミーは自分がそう言われたかのように嬉しそうにした。
「そうだったのか」
ディーベス村か……実際、おべっかでもなんでもなく純粋に良いと思ったのだ。小鳥と思われる動物の鳴き声や、水のせせらぐ音が聞く者の耳に心地よさを与えてくれる、緑に囲まれたこの場所は自然と心を落ち着かせてくれる。建物の雰囲気は違っても、日本の山奥の村ならこんな感じかもしれない。さらに田んぼと思しき物まであるのだから少し驚きだ。米もあるんだろう。
「ねぇアキ、あの魔術すごかったよね。……も、もう一回見てみたい」
ティミーは遠慮がちながら、その表情には興奮が見え隠れしている。
楽しすぎて忘れてたけど俺はこの世界でチートを発揮していたんだったな! フッフ、どれどれ、俺の能力はいかがなものかな? 確かめてみよう。
「よし、まかせろ」
胸を張ってみせると、ティミーは目をキラキラとさせる。
「とりあえず近くに人気のない岩場とかない? 村の中だと軽く騒ぎになるかもしれないし」
しかも緑豊かなこの場所だ。下手すれば村を丸ごと焼きかねないからな。制御くらいチートの俺なら余裕で可能だろうけど、やっぱり怖いだろ?
「それもそうだね……あ、この小川を少しのぼったら滝のある岩場があるよ」
「よし、そこにしよう」
「うん」
かくして、俺達は川を上へと辿り滝壺に来た。だがしかし。
「あれ、出ないぞ……?」
「どうしたの?」
なにもせず佇んでいる俺の顔を覗き込んだティミーの顔には疑問の色が浮かんでいた。
「え、いやぁ、別に? うん」
制御どころか出すこともできないじゃねえか……。よし、もう一度、もう一度あの状況をイメージするんだ。確かあの時すごい勢いで燃えてる炎を思い浮かべてだな。なんて言ったけ、確か……
「創造」
しばしの沈黙、やっぱり出ない。
「はーやーくー」
ティミーが駄々をこねるかのように催促する。
「わ、分かってるって」
あれ、何か忘れてたっけ? そんなことはないと思うんだけど――――
少し焦りを覚え始めた時、突如、急に背後の森がざわめきだした。
反射的にそちらのほうへ目が行く。
しかし森がざわめいてるだけで何があるわけでもない。
「なんだ……?」
目線を前方に戻すと、妙な光景が視界に飛び込んだ。
片方のその森は水を打ったように静かだったのだ。
何かがいる、再度不自然に呻る森の方へ視線を戻すと、その木々の間からこちらに歩いてくる人影を捉えた。
「なっ!?」
一瞬まばたいてしまったその時だった。
すぐ目の前には若そうな男が現れる。
その男は下半身まで届きそうな銀色の長髪を持ち、腰にはレイピアをひっさげていた。
「ほう」
何かを見定めるかのようにその男はこちらを見下げると、ふいに微笑んだ。
なんだこれ……感じるこの威圧感、尋常じゃない。
「君……」
そしてその男はいきなり突拍子も無い事を俺の耳元でささやいた。
「この世界の人間ではなかったですね?」
瞬間、嫌な汗が身体中を駆け巡る。だって、どうしてそれが分かって……。
「あ、あの……あなたは一体……?」
愕然として何も言えないでいると、ティミーが遠慮がちながらもその男に問いかけてくれた。
「おっと失礼、私は各地を放浪している吟遊詩人、ダウジェス・デイ=ルイスです」
「ダウジェスさん……あ、えと、ティ、ティミーです」
ティミーは自分も名乗らないといけないと焦ったのか、おどおどとした調子でお辞儀をする。
「ティミー……可愛らしいお名前ですね。風に誘われるがままに歩いていたところ、あなた方を見つけたので少しお話でもしようと思いましてね。あ……もしかして、お邪魔でしたかね?」
柔和な笑みをたたえ、俺の方へとまた目を向け首をかしげるその男は、先ほど感じた威圧感などまるでなく、ただ感じの良さそうな人、という印象しか浮かばなかった。先ほどの圧迫感は幻覚だったんじゃないかとさえ思われる。
てかなんですかね、ちょっとおちょくられた感じが腹立つ……。
「大きなお世話ですよ」
「ならよかったです。ところで、先ほど何をしようと? クレアーレと聞こえた気がしましたが」
とんだ地獄耳だなこいつ……。
「はぁ、まぁそうですね。ちょっと魔術でも使おうと」
 答えると、何故かダウジェスは不思議そうな表情をする。
「あの、どうしました?」
「あぁ、すみません。創造といえば深層魔術と言って、術者の命が危険に晒された時、身体の防衛反応として出る本能的な物で、自らの力で意図的に操作する事などできないのにどうやって使うのかなと思いまして」
「え?」
どういうこと?
「例えば、今私があなたを窮地に追いやるとしましょう」
ダウジェスはそう言うと、一歩、二歩と少しだけ俺と間合いをとる。
「ティミーさん、危ないので私の後ろへ」
「あ、はい」
いそいそとティミーはダウジェスの背後へと歩いていく。
それを確認すると、男はこちらへおもむろに手を向けてきた。
「シレオ!」
「は?」
 声を出した時には既に眩しい光が視界を覆いつくしていた。それと同時に脳内では俺を取り囲む炎のビジョンが映し出される。あの時と同じだ。
「創造、インサニアイグニス」
 無意識にそう言っていた。しかも今度は技っぽい名前付きだ。気づけば俺の周りは青色の焔で覆われていた。
間もなく炎が消え去ると、おぉ~とふぬけた声を上げながらダウジェスが手を叩いていた。ティミーもそれにならって手をたたき出す。
ちょっと嬉しいけどイラッするのは何故かな?
「この魔術を受けて立ってる人初めて見ました。だいたいが半死にですから」
「あ!? ふざけんなよてめぇ! 俺を殺すつもりだったのか!?」
「いえいえ、滅相もないですよ。今使った魔術はまともに当たれば相手を半殺しにはしますが、決して命を奪ったりはしない魔術なので」
 だとしても悪趣味な魔術だな!
「それでもおかしいだろ!? こんな子供に打つかそんなの!?」
「まぁ元気なので結果オーライですよ。あ、でも服はダメにしてしまいましたね」
言われたので見れば、着ていた服はビリビリに破け、見るも無残な姿でもはや服として意味をなしていない……ハッ、そういえばズボンは……よかった、所々破けてるけど大事なところはちゃんと隠れてた。
「マジでふざけんなよてめぇ……仮に下も上と同じ惨状になってたら危なかったぞ!」
 それを聞いてかティミーは顔を赤くし少し俯く。ちょっと、 何で想像してるんですかねこのお嬢さん、やめてくれるかな!? いや俺のせいだけど!
「アキヒサ君にはデリカシーというものが……」
「う、うるせえな! 悪かったよ俺が! ばーかばーか!」
我ならガキみたいな発言だな……。まぁ、ガキだからいいだろう。諦め。
「おっと、そろそろ行かなくては。風が私を呼んでます。服のお詫びと言ってはなんですがこれをどうぞ」
するとダウジェスは、少しそり上がった大きめのひさしを持つ緑色の帽子の中を何やらごそごそと探り出した。
間もなくして、その中からそれなりに重量感のある本が姿を現し、それを俺に手渡してくる。
その帽子からこれ出るって、マジでどこの猫型ロボットのポケットだよ……。
「読めばきっといろいろ分かりますよ。きっと役に立つことでしょう」
「ああ、えっと、どうも」
「それではまた」
ダウジェスは軽くこちらに一礼し、ずっとしまっていたレイピアを抜くと、眩い光がそこから発せられリュートへと姿を変えた。
 その吟遊詩人はおもむろにそれで演奏をしだすと、そのまま森の向こうへと消えていった。なんとものんきそうな印象を与える曲だった。
 
しかし何者だったんだあの人は、どうにもつかみどころがなく苦手だ。
そういえばいつの間にか消えていたけどあの感じた威圧感は一体……? まぁでも、あの様子じゃ気のせいか。
「ねぇ、その本には何が書いてるの?」
ティミーが俺の持つ重い本を指さし言う。それは俺も気になっていたところだ。
「見てみるか」
 少し色は褪せているが、確かにいろいろと書いてあった。魔術書っぽくてなんか感動。
しかしティミーの方を見るとそうでもないようだ。
「何も書いてないね?」
「え? いや書いてるだろ」
幻覚なのかと思い目をこすってみたが、ちゃんと文字は書かれている。
「書いてないよー? もしかしてアキ、私をだまそうとしてるの?」
「え、いやそういうわけじゃ……」
 だって書いてるし色々。しかしこれ以上言っても埒が明かないし、ティミーを怒らせかねない気がしたのでとりあえずいったんこの話は切り上げる事にした。
「まぁいいや、そろそろ帰った方がいいんじゃないか? ヘレナさんも心配するだろうし」
「むー……まぁそれもそうだね」
まだ少し不機嫌そうだが、なんとか納得してくれたようだ。
「今日は楽しかったね」
「そうだな」
 ティミーの言った言葉を肯定すると、とりあえず帰路へとついた。
「そう、かな?」
「うん良い、すごく良い」
「エヘヘ……ありがと。ここはディーベス村っていうんだよ」
村をほめるとティミーは自分がそう言われたかのように嬉しそうにした。
「そうだったのか」
ディーベス村か……実際、おべっかでもなんでもなく純粋に良いと思ったのだ。小鳥と思われる動物の鳴き声や、水のせせらぐ音が聞く者の耳に心地よさを与えてくれる、緑に囲まれたこの場所は自然と心を落ち着かせてくれる。建物の雰囲気は違っても、日本の山奥の村ならこんな感じかもしれない。さらに田んぼと思しき物まであるのだから少し驚きだ。米もあるんだろう。
「ねぇアキ、あの魔術すごかったよね。……も、もう一回見てみたい」
ティミーは遠慮がちながら、その表情には興奮が見え隠れしている。
楽しすぎて忘れてたけど俺はこの世界でチートを発揮していたんだったな! フッフ、どれどれ、俺の能力はいかがなものかな? 確かめてみよう。
「よし、まかせろ」
胸を張ってみせると、ティミーは目をキラキラとさせる。
「とりあえず近くに人気のない岩場とかない? 村の中だと軽く騒ぎになるかもしれないし」
しかも緑豊かなこの場所だ。下手すれば村を丸ごと焼きかねないからな。制御くらいチートの俺なら余裕で可能だろうけど、やっぱり怖いだろ?
「それもそうだね……あ、この小川を少しのぼったら滝のある岩場があるよ」
「よし、そこにしよう」
「うん」
かくして、俺達は川を上へと辿り滝壺に来た。だがしかし。
「あれ、出ないぞ……?」
「どうしたの?」
なにもせず佇んでいる俺の顔を覗き込んだティミーの顔には疑問の色が浮かんでいた。
「え、いやぁ、別に? うん」
制御どころか出すこともできないじゃねえか……。よし、もう一度、もう一度あの状況をイメージするんだ。確かあの時すごい勢いで燃えてる炎を思い浮かべてだな。なんて言ったけ、確か……
「創造」
しばしの沈黙、やっぱり出ない。
「はーやーくー」
ティミーが駄々をこねるかのように催促する。
「わ、分かってるって」
あれ、何か忘れてたっけ? そんなことはないと思うんだけど――――
少し焦りを覚え始めた時、突如、急に背後の森がざわめきだした。
反射的にそちらのほうへ目が行く。
しかし森がざわめいてるだけで何があるわけでもない。
「なんだ……?」
目線を前方に戻すと、妙な光景が視界に飛び込んだ。
片方のその森は水を打ったように静かだったのだ。
何かがいる、再度不自然に呻る森の方へ視線を戻すと、その木々の間からこちらに歩いてくる人影を捉えた。
「なっ!?」
一瞬まばたいてしまったその時だった。
すぐ目の前には若そうな男が現れる。
その男は下半身まで届きそうな銀色の長髪を持ち、腰にはレイピアをひっさげていた。
「ほう」
何かを見定めるかのようにその男はこちらを見下げると、ふいに微笑んだ。
なんだこれ……感じるこの威圧感、尋常じゃない。
「君……」
そしてその男はいきなり突拍子も無い事を俺の耳元でささやいた。
「この世界の人間ではなかったですね?」
瞬間、嫌な汗が身体中を駆け巡る。だって、どうしてそれが分かって……。
「あ、あの……あなたは一体……?」
愕然として何も言えないでいると、ティミーが遠慮がちながらもその男に問いかけてくれた。
「おっと失礼、私は各地を放浪している吟遊詩人、ダウジェス・デイ=ルイスです」
「ダウジェスさん……あ、えと、ティ、ティミーです」
ティミーは自分も名乗らないといけないと焦ったのか、おどおどとした調子でお辞儀をする。
「ティミー……可愛らしいお名前ですね。風に誘われるがままに歩いていたところ、あなた方を見つけたので少しお話でもしようと思いましてね。あ……もしかして、お邪魔でしたかね?」
柔和な笑みをたたえ、俺の方へとまた目を向け首をかしげるその男は、先ほど感じた威圧感などまるでなく、ただ感じの良さそうな人、という印象しか浮かばなかった。先ほどの圧迫感は幻覚だったんじゃないかとさえ思われる。
てかなんですかね、ちょっとおちょくられた感じが腹立つ……。
「大きなお世話ですよ」
「ならよかったです。ところで、先ほど何をしようと? クレアーレと聞こえた気がしましたが」
とんだ地獄耳だなこいつ……。
「はぁ、まぁそうですね。ちょっと魔術でも使おうと」
 答えると、何故かダウジェスは不思議そうな表情をする。
「あの、どうしました?」
「あぁ、すみません。創造といえば深層魔術と言って、術者の命が危険に晒された時、身体の防衛反応として出る本能的な物で、自らの力で意図的に操作する事などできないのにどうやって使うのかなと思いまして」
「え?」
どういうこと?
「例えば、今私があなたを窮地に追いやるとしましょう」
ダウジェスはそう言うと、一歩、二歩と少しだけ俺と間合いをとる。
「ティミーさん、危ないので私の後ろへ」
「あ、はい」
いそいそとティミーはダウジェスの背後へと歩いていく。
それを確認すると、男はこちらへおもむろに手を向けてきた。
「シレオ!」
「は?」
 声を出した時には既に眩しい光が視界を覆いつくしていた。それと同時に脳内では俺を取り囲む炎のビジョンが映し出される。あの時と同じだ。
「創造、インサニアイグニス」
 無意識にそう言っていた。しかも今度は技っぽい名前付きだ。気づけば俺の周りは青色の焔で覆われていた。
間もなく炎が消え去ると、おぉ~とふぬけた声を上げながらダウジェスが手を叩いていた。ティミーもそれにならって手をたたき出す。
ちょっと嬉しいけどイラッするのは何故かな?
「この魔術を受けて立ってる人初めて見ました。だいたいが半死にですから」
「あ!? ふざけんなよてめぇ! 俺を殺すつもりだったのか!?」
「いえいえ、滅相もないですよ。今使った魔術はまともに当たれば相手を半殺しにはしますが、決して命を奪ったりはしない魔術なので」
 だとしても悪趣味な魔術だな!
「それでもおかしいだろ!? こんな子供に打つかそんなの!?」
「まぁ元気なので結果オーライですよ。あ、でも服はダメにしてしまいましたね」
言われたので見れば、着ていた服はビリビリに破け、見るも無残な姿でもはや服として意味をなしていない……ハッ、そういえばズボンは……よかった、所々破けてるけど大事なところはちゃんと隠れてた。
「マジでふざけんなよてめぇ……仮に下も上と同じ惨状になってたら危なかったぞ!」
 それを聞いてかティミーは顔を赤くし少し俯く。ちょっと、 何で想像してるんですかねこのお嬢さん、やめてくれるかな!? いや俺のせいだけど!
「アキヒサ君にはデリカシーというものが……」
「う、うるせえな! 悪かったよ俺が! ばーかばーか!」
我ならガキみたいな発言だな……。まぁ、ガキだからいいだろう。諦め。
「おっと、そろそろ行かなくては。風が私を呼んでます。服のお詫びと言ってはなんですがこれをどうぞ」
するとダウジェスは、少しそり上がった大きめのひさしを持つ緑色の帽子の中を何やらごそごそと探り出した。
間もなくして、その中からそれなりに重量感のある本が姿を現し、それを俺に手渡してくる。
その帽子からこれ出るって、マジでどこの猫型ロボットのポケットだよ……。
「読めばきっといろいろ分かりますよ。きっと役に立つことでしょう」
「ああ、えっと、どうも」
「それではまた」
ダウジェスは軽くこちらに一礼し、ずっとしまっていたレイピアを抜くと、眩い光がそこから発せられリュートへと姿を変えた。
 その吟遊詩人はおもむろにそれで演奏をしだすと、そのまま森の向こうへと消えていった。なんとものんきそうな印象を与える曲だった。
 
しかし何者だったんだあの人は、どうにもつかみどころがなく苦手だ。
そういえばいつの間にか消えていたけどあの感じた威圧感は一体……? まぁでも、あの様子じゃ気のせいか。
「ねぇ、その本には何が書いてるの?」
ティミーが俺の持つ重い本を指さし言う。それは俺も気になっていたところだ。
「見てみるか」
 少し色は褪せているが、確かにいろいろと書いてあった。魔術書っぽくてなんか感動。
しかしティミーの方を見るとそうでもないようだ。
「何も書いてないね?」
「え? いや書いてるだろ」
幻覚なのかと思い目をこすってみたが、ちゃんと文字は書かれている。
「書いてないよー? もしかしてアキ、私をだまそうとしてるの?」
「え、いやそういうわけじゃ……」
 だって書いてるし色々。しかしこれ以上言っても埒が明かないし、ティミーを怒らせかねない気がしたのでとりあえずいったんこの話は切り上げる事にした。
「まぁいいや、そろそろ帰った方がいいんじゃないか? ヘレナさんも心配するだろうし」
「むー……まぁそれもそうだね」
まだ少し不機嫌そうだが、なんとか納得してくれたようだ。
「今日は楽しかったね」
「そうだな」
 ティミーの言った言葉を肯定すると、とりあえず帰路へとついた。
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