異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~

じんむ

お別れ

「しかし驚いたよ」

 隊長、もといバリクさんが感嘆したように声を出す。

「だろだろ?」

 何故なぜかハイリが誇らしげに振る舞う。まぁ嬉しいんだろう疑いが晴れて。


「深層魔術を持つ上に青の炎。君はいったい何者なんだい?」

 バリクさんは俺の目線まで腰を落とすと、俺にそういた。

「何者と言われましてもただの子どもです」
「これでただの子どもか、参ったな」

 困ったように笑うバリクさん。さわやかな野郎だほんとに。

「まぁ君がそういうんならそうなんだろう」

 バリクさんはさて、と言って立ち上がり、改めて俺の方へと向き直る。

「騎士団三番隊隊長として、今回の件、ご協力ありがとうございました」

 と言って深々とお辞儀するバリクさん。

「いえいえ、とりあえず頭をお上げください」

 いつまでも目上の人に頭を下げさせるのは悪いからな。

「君は大人っぽいね」
「よく言われます」

 実際、ハイリにガキだとののしられた俺でもさすがに十歳より上の精神年齢は持っているだろうからな。

 ふとバリクさんはティミーの事に気づいたのか、柔和に微笑みかける。

「こんにちは」
「へ、あ、あ、こ……」

 いきなり話しかけられ、意味の分からない言葉を発すると、俺の後ろへとまた隠れた。可愛いけど失礼だぞ? まぁ可愛いから俺はいいんだけどね?

「すみません、恥ずかしがりやなもので」
「よかった、てっきり嫌われちゃったのかと思ったよ」

 すぐに弁明すると、バリクさんは頭を掻きながら笑う。

「じゃあそろそろイビルのところへ行かないとね」

 そう言うとバリクさんは後ろにいる、重装備をした人たちの方を向く。

「みんな、待たせてごめんね、そろそろ行くよ!」
「「イエス!」」

 バリクさんがそう言うと、なんとも威勢の良い声が響いた。


 三日ほども野ざらしにされていた強盗団の連中が次々と騎士団に連行されていく。その様子を見ながら村の人達はありがたやと口々に言っている。
 これでようやく安心できるというものだ。

「しかしまぁあんな連中とはいえ、水くらいしか与えないのはちょっと可哀想だった気がするな」
「いや当然だ! 村をあんなにして俺がただですませるわけないだろ!」

 村の人達は飯くらいあげればとは言ったのだが、それをハイリは断固拒否し、三日間水くらいしか与えていない。その壮絶さを物語るように強盗団の奴らの身体はげっそりしていた。
 良いダイエットになってよかったね!

「さて、全員こっちで引き取ったし、そろそろ行くぞハイリ」

あわれみを込めた目線を強盗団の連中に送っていると、バリクさんが俺達の元に来て、今度はハイリの方がげっそりとした。

「嫌だ! 俺はまだいる!」
「ハイリ、四日も無断欠勤なんだぞ? 何を馬鹿な事を……」

 この子、四日も無断欠勤とか俺の世界でそんな事してたら大きな信用問題に関わるぞ?

「親父に会えてない!」
「だったら今度はちゃんと休暇届を発行しなさい」
「隊長の馬鹿!」
「はいはいわかったから……」

 なおもハイリはバリクさんに言い募っていたが、その度に簡単に流されてとうとう折れた。

「というわけだ……じゃあなアキ、ティミー」
「お、おう、じゃあな」
「また来てねー」

 俺とティミーは口々に別れを告げると、そのままハイリはバリクさんたちと一緒に村を離れていった。

 それからしばらく村の前で雑談なりをしていると、入れ違いにベルナルドさんがのんきな様子で帰ってきた。

「あ、ベルナルドさんおかえりー」

 ティミーが少し遠くにいるベルナルドさんに手を振る。

「うぅ、皆そろってお出迎えとはうれしいじゃあねぇか」
「いやベルナルドさんじゃないですよ」

 こちらまで走って来ると、ベルナルドさんは感動したように言うのですぐに誤解を解いてあげる。

「なんだってぇ!?」

 それを聞くと、ベルナルドさんはまるでこの世ならざるものを見たかのように声を上げた。ちょっとオーバーすぎやしませんかね。

「じゃあどうしたって皆こんなに集まってるんだ?」
「ベルナルドさんあっちから来ましたよね。騎士団いたでしょ?」
「ああ、そういやぁ鎧の集団がいたなぁ」
「それです。今はその人達の見送った後の名残があるだけです」
「そうだったのかぁ……」

 がっくりとうなだれるベルナルドさん。かなり落ち込ませてしまったようだがまぁ、虚偽を信じさせ続けるよりは良かったに違いない。

 肩を落としていたベルナルドさんだが、ふと思い出したように顔を上げた。

「でもよぉ、どうしたってそんな騎士団がうちの村なんかに?」

 確かに気になるだろうと思い、ベルナルドさんに事の成り行きを説明してあげる。ただしハイリの事は言わないでおいた。たぶん彼女がアポなしで村まで来たのも驚かせたかったからに違いないと思ったからだ。
 そういえば騎士団からもベルナルドさんは見えたはずだがその時にハイリは声をかけなかったのだろうか。いやでもハイリの事だ、気づかなかったなんてこともありうるし、そもそも騎士団に二十人くらいいるわけだからな。

「そんなことがあったってぇのか……。俺がいりゃあそんな奴ら蹴散らせたのによぉ。つくづくタイミングが悪いな俺ぁ……」
「まぁ全員無事ですし、大丈夫ですよ」

 どこからで聞いたような言葉に少し笑いそうになりつつ、慰めてあげた。

「ありがとよアキ。また救われちまったなぁ」
「いえいえ。いざとなったらまた俺におまかせを」
「お、そりゃあ心強ぇ」

 一丁前に胸を張ってみると、ベルナルドさんはそう言って背中を叩いてくれた。



――――どれくらい経ったか。
 この世界でも同じように四季はめぐり、村は一面の銀世界だ。
 今日も今日とてこの村は平和である。

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