異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~

じんむ

寮生集合

「いやぁ、エミリーさん料理お上手っ!」

 キアラが嬉しそうに言う。それに関しては俺も同感だ。
 今はすっかり鍋の中も空になっている。

「そりゃそうさ、なんたって私が作った料理だからねぇ」
「よっ、ワードシェフ」

 なおも言い募るキアラに満足げにワードさんは頷く。

「そういえば他に人はいないのかな……」

 思いがけずティミーがそんな事を言いだす。確かにそうなんだよな。先輩はいないにしろ同級生の子ならもう少しいてもいいんじゃないのかとは思う。

「まだ正式に入学するまで三日あるからねぇ。明日にでも来るさ」
「な、なるほど……」

 ティミーちゃんその微妙な返事は何かな? まったく、まだまだ甘いぞ我が娘よ!

「さて、そろそろ解散するかねぇ」

 ワードさんが席を立ち、厨房へ鍋を持っていこうとするので、俺達も自分の使った食器を厨房に運ぶと、そのまま解散となり各々部屋に戻った。

 にしても相部屋じゃなかったのは嬉しいな。一人部屋最高! ティミーもたぶんそうだろう。とりあえず同じ部屋の子にいじめられる心配はなくなったから一安心。まぁキアラみたいな子ならよかったと思うけど。

 ……でもキアラか。どことなく俺に安心感を与えてくれるのは彼女の人柄があってのかげか。いつの間にかすっかり打ち解けてたな。ティミーもなんだかんだ楽しそうだったし、もしかしたら彼女は何か特別な何かが。
 などと考えているうちにいつの間にか眠りに落ちていたようで次の朝になっていた。




 食堂で朝食を済ますと、キアラにルーメリア学院の事を訊いてみることにした。ここは名門校らしいからかなり大変な事になると予想できるからな。一応少しでも情報は詰めておきたい。

「なぁキアラ、この学校ってどんな感じになるんだ? 試験とかさ」
「まぁそうだねぇ、とりあえず筆記試験とかは受けなくてもいいらしいよ」

 お、それは朗報。何せこの世界の事なんてほとんど無知だからな。魔術読本は読破したが世界の事は付録程度にしかついてなかったのでいきなり課題テスト! みたいに筆記問題だされたらたまったもんじゃない。魔術読本は別に何ペディアってわけでもなかったわけだ。

「じゃあ試験とか無いわけ?」
「実技はあるらしいよ」
「実技?」
「うん、魔術とか実際に扱って優秀だったら合格みたいな。他にもいろいろあるらしいけど……」

 まぁとりあえずうまい事魔術を使えればそれでいいんだよな。うん。

「ま、私もあんまり詳しく知らないんだけどね」

 キアラは肩をすくめて軽くほほ笑む。まぁ筆記はいらないってわかっただけでもよかった。今から猛勉強をする必要は無いらしい。

「ありがとう、とりあえず一回部屋に戻る」

 それだけ言って俺はティミーとキアラを置いて部屋に向かった。学院の手帳があったのを思い出したのだ。何か書いてあるかもしれない。

 善は急げと部屋に戻り手帳を確認すると、小さな文字が大量に書かれていて目がチカチカするもなんとか読んでいくと、まず目についたのが学年制度についてだった。

 この学院には九学年あり、年に三回行われる進級試験で合格すると一つ学年を昇級させることができる。卒業するには九学年のみが受ける権利を与えられる年に一度の卒業試験に合格しなくてはならない。

「ほう……」

 さて他には何か書いてないか……ってもういいや面倒くさい。

「やーめた」

 一人つぶやくと手帳をベッドに放り出し寝転がる。
 いやだってしんどいんだよこれ……魔術読本は興味あったから読んだけど、正直この学院のシステムとか通ってるうちにわかるだろうし。あと極端に字が小さい。成人男性の手のひらサイズも無いような小さな手帳にあんなに文字を書き込むとかどうかしてる。

 もういいや、持ってきた魔術読本でも読もう。反復勉強ってのは大事だからな。まぁティミーもキアラといればなんとかなるだろうし、何かあっても部屋まで来るだろう。



 気付けば昼飯時になっていた。
 一人で部屋でこもっているとどうにも時間の経過が早い。
 引きこもりか。ほんとろくでも無い奴だったよな俺は。
 昔の日々を思い出してもあまり良い気分はしない。少し気分が沈みそうだったので、それを払拭すべく食堂に向かう事にする。

「あ、アキ~!」

 食堂に着くと楽しそうに顔をほころばせているティミーが手を振ってきた。その姿に疲れは一気に吹き飛ぶ。

「ってあれ?」

 ティミーとキアラ、それともう一人、左右三つ編みの知らない子が一緒に座っている。

「あれ、もしかして同じ編入生?」

 席に向かいながら聞くと、その子は丁寧にお辞儀して自己紹介を始めた。

「アキさん、お名前はお二人に伺っています。初めまして、この度この寮で生活を共にさせていただくアリシア・クラークです」
「よろしく、まぁアキって呼ばれてるけど本名はアキヒサ。もちろんアキでいいけどね」

 お互い簡単な自己紹介を終えるとアリシアは眼鏡を中指でかけなおす。この眼鏡っ娘ちゃんはかなりの頭脳派と見えたぞ? 十二歳だというのになかなか物言いもはっきりした感じだ。それとどうでもいいけど俺と名前の母音一致してるからなんか親近感湧くね。

「あのね、アリシアちゃんすごく頭いいんだよ」

 ティミーが嬉しそうに教えてくる。まぁ見た感じそういう雰囲気だもんな。

「いえ、そんな事は無いです」
「まったまたぁ、さっき流暢りゅうちょうにこの学院の歴史を一から百まで教えてくれたじゃんっ」
「たまたまそれは覚えていただけでして……」

 二人が口々に褒めるので、アリシアはうつむきがちに頬を赤らめる。この子もけっこう可愛いところもありそうだ。

「それよりもアキさんって男だったんですね。てっきり女かと思ってました」

 アリシアは話をそらすためか、そんな事を聞いてきた。
 まぁ確かにアキだけじゃ女とも取れるよな。
 ただそんな誤解を呼ぶなんて一体こいつらは俺についてどう説明したのか気になるところだな。まぁ聞かないけど。
 でもなんとなく悪い事した気がするな。これくらいの女の子なら同性の方が嬉しかっただろうに。

「なんかごめん」
「あ、いえいえ、そういうつもりではなくてですね。その、想定外の事が起きるとどうにも気になってしまう性分ですから……すみません」
「いやいや、全然いいって、大丈夫気にしてないから」

 かなり申し訳なさそうに謝ってきたので慌てて取りつくろう。
 でもその普段動じないような子が想定外の事にちょっとだけ慌てちゃう感じとかけっこうグッドだよアリシアちゃん! 

 三人の女の子たちの会話に耳を傾けたまにそれに参加しながらも昼食を食べ終わると、用を足すために席を立ちいったん食堂を離れる。

 いやぁ、ティミーも楽しそうで何より……でもちょっと寂しいのはお父さんの性かな。良い娘に育ってくれよティミー。お父さんはいつまでも見守ってやるからな。

「そこの君」

 娘の巣立ちの時に感慨深げになっていると、不意に誰かに声をかけられたのでそちら向くと、金髪の子供がロビーの壁際に腕を組んで立っていた。
 なんとなく面倒くさそうな感じがぷんぷんする。

「俺か?」
「当たり前だ。ここには僕と君しかいないからな」
「まぁそうだな。で、なんの用だよ?」

 俺としてはとっとと用を足しに行きたいんだけど。

「見たところここの寮生だな?」
「まだ日は浅いけどな」
「なるほど……僕はアルド・ザナルディー。まぁアルドとでも呼び捨てにしてくれ」

 何この子……俺と同い年くらいだろうに奇妙な口をききおるな。

「分かったアルド。もう一度聞くぞ、何の用だ?」
「おっと待ってくれ……僕に名乗り出させておいて君は名乗り出ないというのかい?」

 なんだこいつ、予想通り面倒くさいな……。そろそろプールが溢れだしそうなんですけど?

「アキヒサだ。まぁアキとでも呼んでくれ」
「そうか、では遠慮なく、アキ! アキ!」
「言われたそばから連呼する奴がいるかよ……」

 思わずツッコんでしまった。
 でもなにこの子……お兄さん流石にひいちゃうよこれは。てかもうこいつ絶対同じ編入生だよね? 嫌だわぁ……。
 そんなことよりまずい、本当に危険だプールが。

「さて、本題に……」
「寮母のワードさんなら食堂の厨房にいるから行ってこい! じゃあな!」

 どうせ寮母を呼んでくれとかそういう事だろうと思ったので、そう教えてやると、ダッシュでトイレまで走った。




 やれやれ、どうにも子供の身体のせいか蛇口が緩い。
 用を済まし食堂まで戻ると、ワードさんがアルドを引き連れて厨房から出てくるところだった。
 あれの事だから食堂の場所ですら分からないんじゃないのと若干思っていたが、流石にそこまでアホな奴ではないらしい、女の子たちに話しかけている姿を確認できた。

「さあ、みんな注目だ!」

 ワードさんが声を張り上げるので談話していたティミーたちも話をやめ、俺もその場所まで行く。

「これで寮生全員が集まった、今日の晩は入寮会を開くよ!」
「え、これで全部なんですか!?」

 キアラが驚きに満ちた声を上げる。
 かという俺も驚いてはいる。だってまだ俺含めて五人だよね?

「今年から編入者枠の制度が施行されたからね。あまり希望者がいなかったのさ」
「なるほど……」

 つまり編入者は俺、ティミー、キアラ、そしてアリシアとアルドの五人だけってことになるのか……。




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