異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~

じんむ

強襲

 陽もかなり傾いてきた。今歩いているのは雑木林と雑木林の間にある草本植物が群生する場所だ。それ故よく見える空は既に紫がかり、これから夜が始まる事を教えてくれる。いわゆる宵の明星と呼ばれる星が一つ空に輝いていた。
 ようやく一日目の鉱脈調査を終え、野営地へと戻るところだ。結局鉱脈は見つからず、骨折り損のくたびれ儲けだった。

「でもさ、なんであんなになってたんだろうな? アキが行った時はちゃんとした感じだったんだろ?」
「ん? ……ああ。まさかあんなになってるとはな」

 空を見つつ歩いていた所、ハイリが首のあたりで両手を組みながら話しかけてきた。
 ティミーのため、祠に向かったあの時。あの時は確かに祠にそのまま続く洞穴があったはずだ。だが今日行ってみたらどうやらそこは崩れたようで、一応隙間はあったものの土砂に遮られ中には入れなくなっていた。土砂を取り除いてみてもよかったが、手間がかかるうえ、仕事中だったのでやめておいた。そもそも中の祠が無事だとも思えなかったというのもある。

「けっこう脆そうだったのか? 水取りに行った時」

 どうだっけな……別にそんな印象は無かったけど、そもそも暗かったし余裕もなかったからちゃんと確認してないんだよな。

「分からん」
「そっかー……」

 まぁ別に祠がどうなろうと今の俺にとっては関係ないからな。あそこの主って深層魔術にしか興味なかったし。てか深層魔術って結局なんだったんだろ。ここまで過ごしてきたが今の今まで持ってるやつ見た事ないからな。
 色々と思考していたところ、ふと前を歩くティミーにぶつかった

「あ、悪い」
「ごめんアキ……副隊長さんが止まったから」
「どうしたんだろ」

 ふと横のハイリを見ると、その表情はどこか険しくなっていた。

「ハイリ君も気付いた?」
「ああ副隊長」

 何かまずい事になっている、二人の上司の声音はそう語り掛けてくるようだ。
 例えようの無い緊迫感を感じる中、怪しげな風が頬を撫でた。

「左右に気配。できるだけばらけないでよ? たぶんシノビだ」

 クリンゲさんの言葉に俺含む隊員が二列で背中を向ける形へとなる。各々が警戒の色を強めた。

「無理に生け捕らなくていい。自分の命最優先で頼むよ? とりあえず強化魔術はかけとくから。ビートス」

 ビートス、複数人の素早さを上げる魔術のおかげで身体が軽くなる。クリンゲさんは地属性土系統の使い手だ。

 しばしの静寂――――それを打ち破るのは、高音。

 見れば後方のクリンゲさんと黒い衣に身を纏ったシノビが刃をぶつけあっていた。戦いへの幕開けだ。
 ハイリが前方に躍り出る。黒く澄んだ瞳に宿る闘志。それを迎え撃つ二人のシノビ。二本の剣線を両手の短剣であしらうと、滑らかに身をひねり、背後へと回り込む。そのままシノビの肩への刺撃。しかしその刃は身体に届くことなくその場を離れる。

 ハイリは宙を舞い、元いた場所には二人とは別のシノビの刃が空気を斬っていた。ハイリは敏感に気配を察知、回避を優先させたのである。敵は二人ではなかった。まったく、忍者は何人じゃ、ってか。

 下らない思考が頭をよぎると、目の前に二人の影を補足。こちらももたもたしてられないようだ。
 シノビ達は並走しこちらへと突進。

「わわ、ど、どうしよ……」

 かたわらではティミーがあたふたしている。ちゃんと守ってやらないとな。ヘレナさんとも約束したことだし。

「まかせろ。フェルドクリフ」

 炎の壁を前方に形成。シノビの行く手を遮る。
 そのまま前進。クリフの消失と共に自らの剣に炎を纏わせ、シノビに斬りかかる。
 相変わらず切れ味が良くないが、紺色の焔のおかげで有り余る補正がかかった。二人のシノビは致命傷を負いそのまま地面に突っ伏す。

 周りの様子を窺ってみる。流石は騎士団というべきかシノビ相手でも善戦してるようだ。

「あっはー! ちょっとがっかりさせないでくれるー? こんなもんなの君らってさー?」

 地面に片手をつき、低く構えるファルクの姿が目に入る。逆手に持つ武器は変わった形状をしており、刃の部分はかなり深く凹凸になっていた。
 ソードブレイカー。昔ネットで見た事がある。敵の武器の破壊に特化した武器だ。凹凸に噛ませて相手の剣をへし折る。ただ、知っていたのよりは長い作りだ。短剣ではなく片手剣。

 ファルクの背後から飛びかかる一人のシノビ。すかさずファルクは身体を反転。櫛状くしじょうの刃でそれを受け、刀剣をへし折った。そのまま素早い刺突を繰り出す。すぐさまシノビは飛翔。追撃から逃れる。

 地面に着地し、ファルクを見つめたまま動かないシノビ。何か反撃を目論んでいるのだろうか? 一歩後ずさった。
 それを見つめるファルク。

 突如シノビの身体が反転。事もあろうか敵に背を向けていた。
 しかしファルクは逃れる事を許さない。驚異の軽快さ、素早さで間合いを詰めると、一息にシノビの首を両断。灰色の影がそこから噴き出していた。
 凄惨な光景だ。だけど仕方がない。やるか、やられるか、戦場においてはそれだけだから。

「アキ! ……ランケ!」

 戦いの様子を眺めていると、ティミーの声が俺の気をそらした。
 傍らを見れば身体をつるに絡めとられ動けないシノビの姿があった。全然気づかなかった。守らないととか言っときながら守られてるじゃないか俺。情けない。

「悪いティミー!」

 礼を言い、シノビの腹に剣を突き立てる。念のため剣はそのまま上方へと振り切っておく。
 返り血が少し顔に飛んだ。その光景を見てかティミーが少し顔を伏せる。
 いくら異世界人といえど、まだ十六にもなってない少女にこれは流石に酷だよな。せめて後始末はしっかりしておこう。

「フェルドゾイレ」

 傍らに立つ紺色の火柱は、ティミーの蔓と共に跡形もなくシノビの身体を燃やし尽くした。
 繰り広げられる死闘。空が紺色になる頃、ようやく勝負が決する。
 敵の数はおよそ四十近く。そのうち捕虜を数名確保し、こちら側の大勝に終わった。

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