FANTASY WAR ONLINE

海沼偲

第四一話


「じゃあ、家に入ろう」

 と、満足そうな顔をしているメルが最初に復帰する。そういえば、まだ俺たちは家の前で抱きしめ合っていたんだったな。バカすぎる。
 まあいいか。

「そうだな、中がどうなっているかも知りたいし」
「そうだね、入ろうか」
「わたしが案内するわね」

 と、俺の手を引いてメルが先に歩き始める。
 玄関から入って靴を脱ぐ。メルが住んでいた家は玄関で脱ぐということをしなかったが、夢の中では靴を脱ぐ家にしたのか。

「スバルはこっちのほうが落ち着くのよね?」
「そうだな。俺は靴で家の中を歩くのは違和感を感じるかな。まあ、ダメだとは言わないけどさ」

 しかし、俺の靴は足袋と草履ではあるが。

「ねえ……」

 と、俺とかおるの二人の足元を見ていたメル。草履が気になるのだろうか?

「その恰好は?」

 ああ、恰好そのものが気になっていたのか。たしかに、俺たち以外でこの格好をしている人は見ないからな。だが、誰も指摘はしなかったけど。おそらく、旅人特有の不思議なファッションとして認識されたのかもしれないな。

「これは俺たちの普段着だな」
「そうだよ」

 そういうと、メルはむすっと頬を膨らませる。可愛い。俺は指でメルの頬をつつく。メルの口元がにやける。

「わたしも欲しい。わたしもスバルとおそろいの服着たい」
「だったら自分で作ればいいんだよ」
「そうだけど……さあ」

 メルは俺の服の裾を掴んで指で俺のわき腹のあたりをつつく。さすがに、祖母ちゃんの服をこっちには持ってこれないだろ。諦めてほしい。

「まあ、メルがこっちに来れたら同じ服を着れるようにしておくよ。それまでは我慢してくれるか?」
「んふふ……」

 メルは嬉しそうに笑った。

「あ、そうそう。わたしがここに一番乗りしてたから料理を作ったのよ。食べたい?」

 と、期待したまなざしで俺を見つめるメル。

「もちろん、食べさせてもらうよ」

 当然答えは決まっている。これ以外の答えがあるとは思えない。そういえば、メルの手料理を食べたことは一度もなかったはずである。興味がある。
 メルは文武の神である。どんなことでも人並み以上に上手くこなすことのできるメルのことだ。まず美味しい料理が出てくることは間違いないだろう。
 俺はメルに手を引かれて食卓へと入る。

「ちょっと待ってて。すぐに準備するから」

 と、いうとメルは台所へと入っていく。かおるは俺の隣の席に座る。

「私も審査させてもらうよ」
「小姑かなにか?」
「じゃあ、気分はそれで」

 かおるもなんだかんだ楽しそうにしている。俺はそれだけで満足である。残念なことはこれが夢であるということだけだ。いや、もしかしたら、これが現実なのかもしれない。気分は胡蝶の夢である。

「待たせたわ」

 メルは鍋をもって食卓へと入ってきた。鍋からは湯気が出ており、それに乗って何とも食欲をそそる匂いが溢れてくる。

「おお、美味そうだ」
「そうだね、スバル」

 メルは鍋のふたを開ける。その中には肉じゃががあった。ふむ、肉じゃがか。いいな。メルが作ってくれたというだけでもう十分ではあるが、さらにこれを口にいれたら、幸せが暴発して死ぬのではないだろうか。大丈夫か、俺。

「肉じゃがね。ふーん」

 かおるは審査官の顔をしている。楽しそうである。メルも顔を赤くしながら、俺とかおるの二人分、肉じゃがを盛り付ける。

「めしあがれ」
「「いただきます」」

 メルの掛け声で俺たち二人は肉じゃがを口に入れる。
 あー、美味いなあ。なんていうんだろうな。家の味だ。心が落ち着く。暖かな愛というものがこの料理にはあるのだ。いい、実にいい。

「美味しい……」

 かおるも無意識的に言葉をこぼしていた。

「メル」
「な、なに?」
「結婚しよう」

 俺もつい言ってしまった。だが仕方ない。

「は、はい」

 メルも顔を真っ赤にして答える。

「スバル、私は?」

 かおるが俺をにらんでくる。だが、俺にはそんなもの効かない。

「かおると結婚するのは決まっているんだ。だから、これからもずっと一緒だ」
「あっ、そうね」

 かおるは俺の肩に頭を乗せる。
 俺たち三人はこの暖かな空間を夢が覚めるまで堪能し続けていた。

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