FANTASY WAR ONLINE

海沼偲

第二七話


「久しぶりに来たな、ここ」

 今俺たちが立っているのは師匠の家がある森に一番近い外壁の門の前である。この門は俺たちがいた森のすぐ近くにあり、そこに用がない限り通ることはない。
 そして、この森にはプレイヤーが求めるような敵は存在しないため、プレイヤーが通ることは更にない。だからか、この門には門番をしている衛兵以外はいないのである。

「いつもごくろうじゃの」
「はっ!」

 しかし、偉大な魔導士がたまにこの門を通るということもあって、衛兵の皆さんがだらけるということはない。むしろ、この門に配属されることを希望する人が多いのだという。それだけ、師匠は敬われているのだ。たしかに、魔術はすごいな。
 ちなみにこれは、師匠が衛兵と談笑している間に他の衛兵の方に聞いた話である。彼らは、俺が獣人であり、しかも師匠の弟子だということでさぞ驚いていたが、俺が魔術を使えるところを見せると感嘆の声を上げていた。

「お前は獣人の希望だ! がんばれよ!」

 と、獣人の衛兵に肩を叩かれたりもしている。何とも明るい人である。で、聞いてみたところによると彼はゾウの獣人だそうで。強そう。

「師匠は人気者なんですね」

 と、師匠の談笑も終わり、町の中へと入った。師匠は上機嫌である。

「ふふん、まあの」

 ほんと、持ち上げられると上機嫌になるタイプの人らしい。だが、師匠はもてはやすことを強要してこないので、付き合いやすい。

「さて、さっさとギルドにでも行くかね?」

 師匠は用事をさっさと終わらせたいのだろうか。まあ、後回しにしていてもいいことはないが。

「師匠、ギルドって言ってますけど、何ギルドなんですか?」
「ん? 魔法技術ギルドじゃよ」
「他にはギルドはないの?」

 と、かおる。確かに、こういうゲームではハンターギルド的な冒険者ギルド的なものがあってもおかしくはないだろう。

「おう、あるぞあるぞ。そうさのう……たとえば、ぼ――」

 冒険者か? そんな安直なネーミングのギルドの設立をこの運営がするのか? さすがにネタ切れか?

「――暴力団ギルドとかの」
「うわ、やばそ」
「ほんとにそんなのがあるの?」

 かおるの疑問はもっともである。そんなふざけたものがギルドになるのだろうか。……なりそうだな。

「あるぞ。スラム街の方へ行けばの」
「それ、ギルドの体をなしているんですかね」
「さあ? なにせ、壊滅させたのがだいぶ前だしのう。今も存在するのかが謎じゃの」
「壊滅してんじゃん」
「今存在しているのを教えてほしいよね」

 師匠はなんで、そのギルドを壊滅させようと思ったのだろうか。師匠に喧嘩を売ってきたのかな?

「なんじゃ、今あるのか。わしが暴力団ギルドを壊滅させた理由を話してもええんじゃよ。聞きたいじゃろ?」

 聞きたいけど、師匠が調子に乗りそうだから別にいいです。

「仕方ないのう。……ええと、まあ基本的なのは商業ギルドや職人ギルド、あとはハンターギルドなどかのう」

 師匠はあまり興味がなさそうである。何とか思い出しているという雰囲気がにじみ出ている。

「師匠が加入しているギルドはどこなんです?」
「魔法技術ギルドと……あとは職人ギルドくらいかの?」
「でも、どうして魔導士ギルド何て名前にしなかったのかしら?」

 そういわれるとそうだな。このギルドだけ名前が少し違うな。

「それはの、そのギルドだけは独立しているからじゃな。他のギルドは色んなギルドと連携しておるが、魔法技術ギルドだけはそのギルド単独でやっておる。だから、名付け方が少し違うんじゃな」
「ああ、確かに気質が違うよなあ」
「なるほどね」

 かおるも納得したようである。
 そうして、俺たち三人は神殿近くの広場を通る。ここを通るのがギルドに行くのに一番近いらしい。ここは初日から変わらず混んでいる。プレイヤーも住人も行き来が激しいものである。

「旅人の数が多いのう」

 師匠はこの光景を見て驚いている。確かに、俺たちが来てからずっと家にいたもんな。そりゃ驚くか。
 ……なんか、こっちを見ている人が多いな。視線を妙に感じる。何か目立つようなことってあったっけかな。

「師匠、見られてますよ」

 俺は師匠だけに聞こえるように小さく囁く。

「あ、これお主たちではないのかの」
「そうなんですかね?」
「どうしてなのかな?」

 かおるもわかっていないようだ。うむ、謎である。

「さっさと離れるぞ」
「わかってますよ」

 と、師匠は駆け足でこの場を離れるため、俺たちも師匠に続いていく。そうしてしばらく歩いていくと、小奇麗な建物が見えてくる。

「見えるじゃろ。あれがギルドじゃ」
「けっこう綺麗ですね」
「爆発してボロボロなのかと思てたのにね」
「え、おぬしら魔導士を何じゃと思ってるの?」

 いや、そう思っているのはかおるですから。俺はマッドなサイエンティストな感じしか想像していませんから。

「では、入るとするかの」

 と、俺たち二人は師匠の後に続いて魔法技術ギルドの扉を開けた。

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