FANTASY WAR ONLINE

海沼偲

第二六話


「登録……ですか、師匠?」
「うむ、そうじゃな」

 登録、ねえ。

「お主も知っておるじゃろう。魔導士というものは、魔法技術の発展のために自分が新たに生み出した魔術を登録しておく必要があるのじゃな」
「うーん、これ……使いたい人いますかね?」

 正直、使いにくいと思うんだよなこれ。MPがあほみたいにないと使えないから、運用するとしたら瞬間瞬間のみになる。それを魔法に置換すると、詠唱という行為が間に必要になるため使いにくさはさらに跳ね上がる。

「そんなもの、買ったやつが決めるのじゃな。売れたらラッキーと思って登録しに行くものじゃよ」
「そんな適当でいいんですかね?」
「そりゃそうじゃよ。全然人気のない魔法なんか腐るほどあるぞ。正直言ってギルドの奴らもどんな魔法があるか把握できておらんからの」

 結構適当なんだな、そこらへん。

「それにのう、お主。一応見習い魔導士じゃからの」

 へえ、俺って魔導士になってたんだ。

「へ? 魔導士? いつからですか?」
「ほれ、魔術を発現させられたじゃろ? その時からじゃ」
「あ、つい最近ですね」

《只今までの行動により【見習い魔導士】の称号を入手しました》

 今かよ。称号を今貰うのかよ。これ、忘れていたんじゃないだろうな。思い出したかのように唐突に来たぞ。

「魔導士になったなら、最低でも一つぐらいは魔術を登録しておくべきじゃろうな。それさえしていれば別に誰も文句は言わんぞ?」
「そうなんですね。……まあ、登録することのデメリットはなさそうなんでしますよ」
「うむ、それがいいじゃろう」

 でも、俺が生み出した魔術を誰にも使ってもらえなかったら結構つらいな。自分の作品が評価されていないみたいで。

「師匠は自分の編み出した魔術を誰にも使ってもらえないからといってショックを受けたことあります?」
「うーむ……ないのう」
「それはなぜで?」
「だってのう……わしの作った魔法が世界に広まらなかったことなんてないからの! わしが魔術を一つ登録すればバカ売れじゃ! 印税がっぽりで人生ウハウハじゃよ!」
「くそがっ!」

 俺は足元に転がっている石ころを適当に蹴飛ばす。それは飛ばされると気に少しめり込んでとまる。

「こんなことで悩んでいる俺がばかだったわ!」
「そうじゃろうそうじゃろう。の? 変にこわばる必要はないのじゃよ。登録してある魔術を見ると、緊張するのがばからしくなるぞ」

 師匠はいたずらが成功した子供のような心底楽しそうな笑顔で俺を見ている。のじゃのじゃの、ジジキャラのくせに無駄にハンサムだから腹が立つ。なんだこいつは。もしかして、俺の緊張をほぐそうとしているのか? そんなんでほぐれてたまるか。ずっと緊張してやる。
 と、俺は肩を回して体をほぐす。

「一例として挙げるとの『スカートをめくる程度の突風を吹かせる魔法』というものがあってじゃな……」
「魔導士ってバカばっかりなんですね」
「じゃろじゃろ。ちなみに売り上げ五位じゃ」

 魔導士じゃなくて全員バカだったわ。

「で、いつ行くんですか?」
「もう準備は出来ておるし、いつでも構わんよ」
「ああ、ならもう行きますか」
「あ、待って!」

 と、俺たちを止めるのはかおるだった。

「かおる、どうした?」
「私も連れて行って」

 かおるも連れていくのか。……ふむ、魔術の登録が終わったら、かおると一緒に町をぶらぶらするのもいいな。だったら連れていくのに問題はないな。

「おう、いいぞ」
「やった、ありがとうスバル」

 かおるは俺に抱きついてくる。俺はかおるを抱きしめ返し、頭をなでる。かおるの髪色は灰色に染まっているのだが、それだけでいつもの印象からはだいぶ外れている。
 かおるは敵と戦う時に長髪だと不利だということで、髪を短くしている程度には神に対する執着というものがないのだが、それでも、かおるの髪は心地よいさわり心地である。これがゲームであるという点を引いてもだ。さすがである。

「えー」

 師匠はいやそうな顔を見せる。

「師匠、どうしましたか?」
「お主らがイチャイチャしてるところを見せられるわしの気持ちをないがしろにするでないわ」
「知らんよ、そんなの」
「まあ、わしも妻がいればイチャイチャするし」

 師匠は何を張り合っているのか。

「じゃあ、行きますかね?」
「そうじゃの」
「ええ、行きましょ」

 誰も異論はないようだ。

「じゃあ、留守番はよろしく頼むの」

 と、師匠は留守番で残る全員にそう告げて町の方へと歩を進める。俺たち二人は、その後ろをついていくのだった。

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