シスコンと姉妹と異世界と。
【第182話】父と迷子なチビッ子と⑪
フェリによる転移魔法。辿り着いた先は大人のホテルの一室。
取り敢えずベッドに未だ夢の中のユイを降ろし、周りを見渡す。
ガラス張りのシャワールーム、キングサイズのベッド。天井からぶら下がる二つの手枷、無造作に置いてある鞭、三角木馬……。
結構ハイレベルなお部屋に通されたものだ。
「……フェリ」
「私が混雑してるかもしれないから普通の宿は厳しいかも、って言ったら、ご主人様が『雨風凌げて夜暖かい寝床が確保出来ればいい』って言いました」
「……言ったけどもッ!!」
……これはダメだろ。
幼女ラブホに連れ込むとかもう犯罪だろ。
「逮捕も勾留も、裁判も無いままに実刑でしょうかね」
「お前が言うんじゃねえよ!?」
フィーナさんと関わりのある人間なんだろ? 捕まったらフィーナさんに蔑みの目を向けられて……。うん、辛いな。
「取り敢えず、買ってきたもん食べるかな……」
備え付けのソファに座り、テーブルに貰ってきたサンドイッチを並べる。……さすがにテレビは無かった。
「ご主人様、お茶をご用意しますね」
「おぅ、頼むわ」
手馴れた手つきでお茶を煎れるフェリ。さながら主婦のようだ。本当に最近は率先して家事をやるようになった。ローズと寮の部屋のミニキッチンで一緒に料理を作ったりしている。
食堂の厨房を間借り出来ないのが最近の悩みらしい。誰もいないのに食材がバラされていくのはホラーだし、姿を表したところで完全にフェリは部外者だし、ってな理由でお預けになっているそう。
「お待たせしました」
「いただきます。あっち……」
「ふーふー、しましょうか?」
「いや、いい」
「けち」
フェリは最近どこで覚えたのか、こういう小さい点稼ぎを試みてくる。ちょっと嬉しくなるようなものが多いが、流されたらズブズブいきそうだから……。
「んー、メシ食う前に風呂済ませようかな。あー、ちょっと可哀想だけど、なんだったらユイを起こしてやってくれ。起きてすぐにメシ食うのはしんどいかもしれないからさ。お茶でも飲ませてやればシャキッと冴えるっしょ」
「はい。かしこまりました」
「でもせっかくだし、一緒に入るか? 背中流してくれてもいいんだぞ?」
「はい、って、うええぇぇぇぇぇ!??」
「は、ばか、声が大きい!」
声のボリュームを下げつつ、語感は強めつつフェリを叱った。
「だ、だって、ご主人様の方から私を求めるなどまたと無い絶好機……。いや、でも心の準備が……」
今にも消え入りそうな声で呟くフェリ。自分から仕掛けておいてこの狼狽え様なのだから不思議だ。そこが、実に面白い。
「冗談だよ、冗談。ユイのこと頼むな」
「なっ!? もう……」
ってか、風呂がガラス張りになってるわけだけど、脱衣所みたいなスペース無いのか。まぁ、場所が場所だし服なんていらないよね、ってことだろうか。適当にソファにでも置いとけ、みたいな。
「まいっか。ちょっとフェリ適当な方向いてて。全部脱ぐから」
「ええ!?!」
慌ててフェリは手で両目を覆う。なんか、若干の隙間があるような気がするが、そこはもう諦めよう。
ササっと服を脱ぎ終え、タオルを腰に巻いて風呂のドアを潜った。
「おお? この世界でこんなしっかりしたシャワーのホテルって珍しいな」
頭上に固定されているタイプのシャワーが目の前に。
アリスさんとこの宿は別だが、この世界平均レベルの宿での風呂は浴槽一つに、水風呂のような大きな水桶一つ。そこから各自で汲んで、魔法が使えるなら温めて浴びることが出来るくらいのもの。
ラブホのくせに生意気だ。
蛇口を捻ると、本当に丁度いい温度のお湯が頭上から身体をすすいでゆく。
温度調整用のひねりは無いが、コレなら文句一つ出ないだろう。地下か何処かで徹底管理がなされているのだろうし。それも物好きな魔法士の手で。
湯気で曇る視界の中、シャワーが肌を打つ心地よい音だけが響いていた。
___一方その頃のフェリ。
「ユイちゃーん、起きてくださーい」
耳元で囁いてみるが、ユイちゃんの規則正しい寝息が止まることは無かった。
「ご飯ですよ〜」
肩を揺すってみるが、反応は芳しくない。
「よくお眠りになっているのですね。……家族が居たらこんな感じなのかなぁ。ご主人様との子供……。いやいや! そんな、はしたないぞフェリ……」
溜まってるのかな私……。でも、封じられる以前もそんなにヤってたわけじゃないんだけどなぁ。やっぱりご主人様から貰う魔力の依存性が強いのかも。
「……う?」
ふと、目が開いた。
「あ、おはよ、ユイちゃん」
「フェリ……お姉ちゃん、おはよ……」
「お茶煎れてあるから、よかったら飲んで。眠気覚ましになると思うから」
「ありがとー……」
まだユイちゃんは頭が回っていないようで、なんとも言えない返事を繰り返している。
「あれ? お兄ちゃんは?」
「お風呂に入っていますよ。ほら音が聞こえるで……」
「あ、いた……」
目線の先、捉えたのは透明な壁に覆われた浴室。
その壁は一切曇ることなく、中の様子を鮮明に映し出していた。
そう、一人の少年のあられもない姿を。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
58
-
-
314
-
-
1978
-
-
59
-
-
3
-
-
337
-
-
1168
-
-
0
-
-
4503
コメント