シスコンと姉妹と異世界と。
【第177話】父と迷子なチビッ子と⑥
「一応聴いておくけど、なんで、どうやって入り口壊した?」
「ざっくり言えばですね。俺が隣の仕立て屋に用があったんですけど、ちょっとここのお店が気になって。入ろうか悩んでたら後ろからユイに呼び掛けられて。突撃されて壊しました」
「ちょっと何言ってるかわからない。呼び掛けられて突撃ってなんだ? 通り魔か?」
「妹なんです」
にまー、っと偽妹が笑う。
「偶然見掛けたから、嬉しくなっちゃって本気で走っちゃって。そしたらちょっと魔法で無意識に加速しちゃったみたいで……」
てへへ……、と頬を書きながらそう語るユイ。
「いやほんとに、巨人の掌でドーン! ってやられたみたいだったんだからな? 次からは手加減してくれよ?」
「次とかまた壊す気か?」
ルナさんのツッコミはもっともだった。
お返しに元凶の耳を摘んでやる。
「ひう!?」
「オマエ、実の妹にエロいことするのはどうかと思うし……」
「いや、今のは違くないですか!? ていうか、いつまでグローブ付けてるんですか……」
「オマエ、これがなんだか分かるのか?」
「ルナさんが好んで使う、人を殴り殺すための武器ですよね?」
「最初の一人になってみるか? ん?」
なんたる威圧感。拳をパンパン合わせるの止めて欲しい。
「ていうか、扉は直しますね。……よっこらしょ。ちょっとユイ、ここ押さえてて」
「はーい」
呼ばれてユイがトトトッと付いてきた。動きがまだまだ子どもで可愛い。
「『リペアー』」
「おお! お兄ちゃんさすが! やっぱり凄いね!!」
手放しに喜ばれると少し照れ臭い。……今、やっぱりって言った?
何かしら俺のこと知ってる感じ……なんだよな。
じゃなきゃ出会い頭にぶっ飛ばされなかっただろうし。
「はー、本当に直しやがったし。しかもさっきより綺麗になってるし。まさにサラブレッドだし……」
「さらぶれっと?」
ルナさんにユイが問いかける。
「あー、まぁ、家族揃って大したもんだ、ってことだよ」
ユイが養子だと信じてしまったルナさんは、言葉を選びながら慎重に答えたようだった。
「良かったな、褒められたぞユイ」
頭をポンポンと撫でてやると、それはまぁ嬉しそうに微笑んだ。この辺りのリアクションはローズと通ずるものがある。
「ま、近いうちにもう一度ゆっくり顔見せに来なよ。ショー、お前とは積もる話もありそうだしな」
やっぱり、ルナさんはこちら側の人間で間違い無さそうだ。そういう意味での積もる話、ということなのだろう。
「はい! ……ところで、どうしてルナさんはここに? バイトですか?」
「バイトじゃないし。店長だし」
「……ココ、実家ですか?」
「違うし。授業の一環って言えばいいのかな? わたしがなりたいのは騎士でも魔法士でもなく、魔工技師なのさ。で、それをヴィオラのやつに相談したら、『ここの店舗を貸すから目指せ売上百万円!』ってなって。他の単位は全て取ってるから、百万売れたら晴れて卒業ってわけ」
魔工技師。俺の中のイメージで言ったら、魔法でものづくりする人。ポーション作ったり、魔法の補助道具だったり、罠の類だったり……。
なるほど。それで、
「『店内全品一点につき一万円』って貼り紙してあるんすね」
ただの暴挙というかなんというか。
アリスさんやマリーさんが見たらなんて言うかな……。
「百個売れたら終了じゃん。賢いっしょ?」
「画期的ですね!!」
どうかと思うし。
ただ、黄色い声援を送る少女が。
ちょっと、ユイの将来が不安になった。
思わず再び、隣に立つユイの頭を撫でる。
驚いたのかちょっと声が出たユイと、ジト目のルナさん。
無論、俺はノーコメントでいくスタンス。
一個一万円に対しても、ジト目に対しても。
「でも、商品が無いですよね?」
棚そのものはあるが、そこには何も陳列されていない。
されていれば扉を破壊した際に、衝撃で落下したりするものだが、それもなかったわけだし。
「商品開発は終わってて、今は他所の業者に梱包だったりを任せている最中なのさ」
「何作ったんですか?」
「実戦向きなものじゃないし。まぁ生活の足しになるようなものかな。来週にでも納品されるから見に来てよ」
「ユイも一緒に来るか?」
「うーん……、出来たらそうしたいですけど……。ルナさん、火曜日くらいには納品されますか?」
「急がせればなんとかなるんじゃないかな? まぁ客の頼みだし、聞いてやるし」
十歳児を一万円均一ショップの客に認定しやがった。強いわこの人。商魂逞し過ぎて引く。
「一応、俺からもリクエストしたいんですけど……」
「なんだし」
「最近乾燥してきたせいか、洗い物とかすると手肌が荒れるんで、そこんとこケアできるハンドクリームみたいなのがあると嬉しいです」
「女子かオマエは」
バイトし過ぎなだけです。ホント。
「まあいいし。わたしでもサクっと狩れる魔物から、適当になんか作ってみるから」
あ、原材料って魔物なのね。
すんごい気持ち悪い見た目の魔物の体液とか使うのかな……。
掘り下げて聞くのは止めておこう。
「ま、たしかに承ったから。来週の火曜、待ってるよ」
そんなこんなで、俺とユイはミカヅキ魔道具店をあとにし、とりあえず店の向かい側にあった喫茶店へと入った。
「い、いらっしゃいませ! お二人様でいらっしゃいますか? はい、それではこちらへどうぞ」
どこか緊張した面持ちで若い店員さんに迎えられ、喫茶店には珍しく個室に通された。
「こちらが当店の品々でございます。ただ今お水をお持ちしますので少々お待ちください」
とメニューを差し出していそいそと退室していく店員。
なんか挙動不審というか……。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでもないわ。ていうか、何時まで俺のこと『お兄ちゃん』って呼び続けるんだよ?」
「だって……」
うつむき加減なユイはそこで言葉を区切り、数十秒して意を決したように上を向いた。
「お兄ちゃんは、生き別れた本当のお兄ちゃんだから!!」
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