シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第174話】父と迷子なチビっ子と③

 



 買い物終了後、アリスさんが逃げるように帰ろうとした。
 ので、とりあえず腕を掴んで捕まえた。
 手を離すと走って逃げようとして、それをまた捕まえて、と何度か繰り返した。
 結局何故か、俺が手首を掴まれる形になっていた。

「申し訳ないんですけど、アリスさんにふらふら付いてきただけなんで、置いてけぼり喰らうと寮に帰れません。ってどうしたんですか、急に紐なんか出して」

「首輪もあるよ?」

「アリスさんがそれ付けてグイグイ先導してくれるわけっすね。さっすが先輩!」

「なんでわたしなのよ!?」

「だって男がやるより、かわいい女の子がやった方がいいじゃないですか。俺がやったって誰一人として救われないっすよ。その点アリスさんがやれば少なくとも、俺は救われます」

 社会的にも、目の保養としても。
 寮界隈での俺はそこそこ名の知れた生徒なのだ。自分で言うのもなんだが。
 身内による暴食の被害に遭った飲食店に出向き、頭を下げバイトしまくったからだ。
 そう考えたらさっきの『下着だけは勘弁』てのだけでも、十二分に話題を提供してしまったような……。

「肉球と猫耳付けたアリスさん……、想像するだけで最高じゃないですかね?」

 ちゃんと語尾にも『にゃん』を付けてもらって……。
 やべえな。

「嫌よ! そんな恥ずかしいこと人前で出来るわけないじゃない!?」

「おやおや、人の前じゃなけりゃいいんですかィ? だとしたら次の二月、俺の誕生日にお願いしちゃおうかな……」

「……、どうしてもって言うなら考えてあげるわよ。その代わり、わたしの誕生日の時も何かお願い聞いてもらうからね?」

「どんとこいですよ! あ、できる範囲でお願いしますね? それにアリスさんの誕生日まだ聞いてないし……」

「ぴったしクリスマスイヴよ」

「もう目と鼻の先じゃないっすか。しかも今月末が姉さんで、来月末がアリスさんになるんだ……。俺、生きて年越せるのかな……」

「どういう意味だオイ」

 任務こなしつつ、月イチでムチャぶり喰らうことになると思うと、そりゃ不安になりますよ……。

「いやあ……、ほら帰りましょう。よっ」

「ちょ、ちょっと!?」

「お気に召しませんでした? お姫様抱っこは。結構頑張ってるんですけど……」

「頑張ってるとか言うな! わたしが重いみたいじゃん!」

「じゃあ、降ろしますね……」

「あっ……」

「とりあえず行きましょう。俺も行かないとですしね」

「……、んっ」

「あ、手が寒いですもんね。繋いでいきますか」

「いちいち言わなくていいの!」

「そんなプリプリしなくても……、どうしたんですか? さっきから妙なテンションですけど……更年」

 更年期、と言い切る前にものすごい力で腕を引っ張られ、

「ッ!?」

 俺はアリスさんの胸へと顔からダイブさせられた。
 更には耳も塞がれたようだ。

「………………………………」

 何かを言われたようだが、おっぱいの感触によって集中力を奪われた(リソースを割かれた)現状では、魔法による聴覚強化もままならなかった。

「寮に帰るまでは、デートなんだから」

「……」

 頭を抱えられているために口が動かせず、何度もコクコクと頷いて返事。

「分かったならよし。早く行こ」

 緊張で寮に帰るまで、トークの調子が上がらず終いだった。





 アリスさんを別館の寮へと送ろうとしたが、いつの間にか俺たち三兄妹の住んでる寮に越してきていたようで、結局最後まで一緒に帰ることになったのだった。
 ちなみに言えば、サニーさんと同室らしい。

「ふう……。ただいまー」

 部屋の鍵を開けて中へ。
 ところがどっこい誰もいない。

「姉さんはいるかと思ったけど」

 ローズはまぁ、その辺買い食い散歩しとるやろ……。

「ん? 書き置き? えっと……」

『今夜はわたしがなにか作ろうと思うので買い物に行ってくる。遊びに行くにしても、夕飯を食べれるようにしておくこと』

 だってさ。
 ローズ食べに行っちゃってるじゃん、多分。
 ま、あいつの場合は底なしだから関係ねえか。
 ただし。
 姉さんの手料理……、若干の不安はつきまとう。
 春前までの姉さんの腕前はお世辞にも良いとは言えず、心の中で『暗黒物質ダークマター製造機メーカー』と呼んでいた。
 最近何故かローズも姉さんも、手料理を振る舞ってくれることが増えた。お返しとして俺もナビ子の力を借りて作るのだが、それがウケたのだろうか?

『遅くても八時には帰ります。ショー』

 これでいっか。
 姉さんの書き置きに書き加えた。
 本格的な仕立て屋みたいなの初めてだから、所要時間とかも分からんし。
 この時間なら何かあっても平気だろう。今五時十五分だし。
 ……、ところで。

「スーツ屋って何で行けばいいんだ?」

 なんかラフな格好で入るのは気が引ける。
 ミノルさんの話通りならタダで作ってもらえるわけだし……。
 などと数分悩んだ挙句、制服に決めた。
 制服ならある程度採寸されて作られてるし、向こうのスタッフさんもやりやすいはずだ。
 着て帰ってきてよかったな。
 日によっては学校に置きっぱにして、クリーニングサービスの世話になってるし。

「うし、行くか。ナビ子、フェリ、召喚!」

「はーい、お待ちどうさまですー」

 シンプルにドアからエロいお姉さんが入ってきた。
 漂うデリバリー感にただただ感服した。




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