シスコンと姉妹と異世界と。
【第117話】討伐遠征⑦
「……教えて欲しいこと、すか?」
「うん」
なんだろう? そういやさすがにマント脱いだんだな。各部屋のクローゼットの中に置いてあるであろう浴衣を着ていた。
「これ……」
シャロンさんがスッとテーブルの上を指さす。その先にはポットと、ティーバッグが詰められた透明な小瓶と湯呑みが置かれていた。
「淹れ方がわからないの」
「あぁ。ティーバッグは初めてなんすね」
「ええっ!?」
急にシャロンさんが距離をとってカーテンに隠れた。なんだろ、怪訝そうな顔して。虫でもいたのかな?
「えっ?」
「……、いつ気付いたの?」
「まぁパッと見ですかね」
さすがに前世での経験とは言えないしな。
「もしかして……透けてた?」
「がっつりスケスケでした」
瓶だし。
「……ショーくんは、そういうのは苦手なの?」
ポットの中に水を作り出し、加熱する。さすがにこの位のコントロールは序の口だから、すぐにお湯が沸いた。湯呑みにティーバッグを入れお湯を足す。
「お手軽だしイイと思いますけど、出来ればそのままがいいっすかねぇ……」
急須にお茶っ葉で淹れるのが一番だよなぁ、お茶は。
「そのまま!? 結構ショーくん攻めるのね……」
「えっ、なんか言いました?」
「ううん、こっちの話だから」
「ならいいっすけど……」
なんか違和感が残るんだよな。なんかうまく噛み合ってないっていうか……。
「そしたら……、わたしも淹れてみるわね」
シャロンさんが空中に水を発生させポットに入れる。
「結構、ここからの景色もいいものね」
「ギリギリ紅葉も残ってますしね」
「はい、出来たわ。ちゃんと出来てるか味見てもらえる?」
外を観てるうちにもう出来上がったらしい。
「ズズッ……、うん、美味しいです」
「そう、良かった。そしたら、わたしは少し部屋で休むわね。お茶の淹れ方も分かったことだし」
「はい。お疲れ様です」
「じゃ、またね〜」
シャロンさんが手を振りながら部屋を出てった。
「ふう……」
お茶飲みながら一息つくと、緊張が解けるっていうか脱力感が襲うよね。なんもしたくなくなって寝ちゃいたくなる感じ。あっでもマズイ。フィーナさん待たせてるんだった……。
「ふわぁ……。俺も寝ちまう前に浴衣に着替えて行っちまうか」
______部屋移動。
コンコン、とノックをする。
「どうぞー」
するとすぐに中から返事があった。
「失礼致します」
「そんなかしこまらないでいいですよ。この部屋には私たちだけなんですから」
フィーナさんの部屋に入ると、フィーナさんは奥の椅子に腰掛けていた。
「そうです……、そうっすか?」
まだ帽子かぶってるんだ。やっぱり何かあるのかな。鬼の角とか生えてて、そっからマナをガンガン吸収してパワーアップするとかな……。
「どうですか、任務の方は?」
「まだ任務らしいことしてないんでなんとも。慰安旅行みたいじゃないですか、今のところ……」
「ふふ。まぁ、それもそうかもしれませんね」
「明日、明後日辺りに、その魔物が出たとしても僕らは大してやる事無いっすよね?」
「今のところは無いはずですけど、状況次第では支援に回ったりはすることになると思います……多分」
「どうせなら実戦経験積みたいもんですけどね……」
「ショーくんはお父さんに似たのかも知れませんね。あの方もよくそんなことを言っておられますから。事務仕事から解放されて任務に出るとホントに生き生きとしてますからね」
「父さんが事務仕事なぁ……、って、どうせならフィーナさんも固くならないでくださいよ」
「『俺より頭のいいやつは沢山いるのになんで俺がやらなくてはならないんだっ!』っていつもボヤいてます……ボヤいてるよ」
フィーナさんも言い直したけど、普通にまだ固さが残っている。まだまだ距離があるかなぁ。
「と、そんなことより。ショーくんには私の秘密を聞かせなければいけませ、いけないんだったね。秘密を握られて脅されて夜な夜な迫られてしまうんですね……」
「フィーナさんどうしました?? いきなりフルスイングでファールかましてますけど」
「へ?」
「あいや、いきなり妄想が爆発してたからちょっとついていけなくなっちゃって」
「ごめんごめん。ショーくんモテモテだったからつい」
「そんな、モテないですって」
モーリスのやつじゃないんだから……。
「じゃあ、私の後ろに立っていただけます?」
「? ……はい」
「じゃあ、外していいよ?」
「失礼します……」
宝箱を開けるように帽子を外す。
「んっ……」
「わーお……」
すると、お耳がピョンと飛び出てきた。うさちゃんみたいな感じでピンと立っている。
「どう……でしょうか?」
「これ……父さん達には?」
「はい。隊長にだけは知らせてあります。獣人族と言うんですが……ショーくんはご存じありましたか?」
「噂は耳にしてましたが、実際生で見たのは初めてですね。……みょーん」
「ぴゃあっ!? なななな、急に触らないでください引っ張らないでくださいっ! 耳弱いんですっ」
耳を抑えて完全ガードしたフィーナさんが、飛び上がりながら後ずさる。
「でも可愛くていいじゃないですか、獣耳」
「気持ち悪くないの……?」
「だってこんなもふもふで……」
耳へと手を伸ばすと、フィーナさんは逃げずにいてくれた。
「撫でてたら気持ちいいですし」
「うぅ……。私の方が歳上なんですよ……」
歳下に頭を撫でられているという状況が恥ずかしいらしい。顔が真っ赤だ。若干プルプルと震えているが、決して怒りによるところではないと信じたい。出来れば、耳がくすぐったくて我慢している、くらいの可愛い理由でいてほしい。
「ふぅ」
「ひぃぃっ!?」
「遊びすぎちゃいまし……た……」
「えっ、ショーくん!? ちょっと!?」
急に全身の力が抜け落ち、魂が抜かれたように俺はその場に崩れ落ちてしまい、意識を失ってしまった。
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