シスコンと姉妹と異世界と。
【第118話】討伐遠征⑧
「ショーくんは寝たかしら……」
シャロンが再びショーの部屋を訪れるために自分の部屋を出る。
「にしたって……」
なんで下着のことがバレたのだろう、とシャロンは首を傾げていた。全身を黒いマントで移動中は基本的に身体全体を覆っていたし、濡れることも無かった……はずだった。なので、原因が分からなかった。
シャロンは大きな任務の時には必ずTバックを身に付けていた。初めて店で目にした時には、さすがにその表面積の小ささに引いたものだった。ただやはり、その出会いは強い印象を残していて、買うに至ってしまったのだった。
実際に履いてみると、その感覚はシャロンにとって衝撃的で新鮮なものだった。動く時のちょっとした煩わしさが無く、適度な緊張感もあり、技のキレが上がったようにも感じたのだった。また、大人の下着を付けていることによって、気持ちが大きくなったようにも思えた。
そのため、シャロンは勝負下着(Tバック)を身に付けることで、ゲンを担ぐようになったのだった。
そんなことをショーが知っているはずもなく(実際にはただの聞き違いによる勘違いなのだが)、ショーへの疑念は深まるばかりだった。
「だから、一服盛ったことも許してくれるよね……」
シャロンはショーが窓の外に気を取られているうちに、暗器として持ち歩いている睡眠薬を微量、湯呑みに投入していたのだった。
「……、あれ?」
ショーの部屋のドアを開けて中を覗いたが、ものけのからであった。
「まぁいっか……」
シャロンは諦めて部屋へ戻ることにしたのだった。諦めの良さというか潔さは、シャロンの美点の一つなのだった。
______一方その頃。
「ん……」
「ショーくん、目が覚めましたか」
「あれ、俺なんで……」
「急に倒れてしまったので……。お疲れでした?」
「俺も何が何だか。疲れてたんですかね……? って、すいませんベッド使わせてもらっちゃって……」
「別に気にしませんよ」
そう言いながらフィーナさんが微笑む。獣耳シスターってカテゴリは新しいのではないか、なんて事を考えてしまった。
「よっ……」
とりあえず布団から出て窓際の椅子に座る。後で女性が使う布団にずっと寝てるのはやっぱり気が引けるところはある。
「寝てなくても平気ですか?」
「はい、よく分かんないけど、寝たからかスッキリしてますからね」
「元気なんですね」
「そう言えば、その耳って自由に動かせるんですか?」
「うん。ほらっ」
シャロンさんが耳を閉じたり開いたりしてくれる。それなら……
「右上げて」
「んっ」
「左上げて」
「んっ」
「右下げて」
「っ」
「右上げないで左下げない」
「あっ」
「引っかかったー」
「って、何させるの!? あたしの耳で遊ばないでよっ」
「やっと本音出ましたね!」
「あっ……」
ようやく堅苦しい感じが取れた。
「も、もう!! 折角我慢してたのにっ」
「歳下相手なんだから、そんな肩肘張らなくたっていいじゃないですか」
「それ大佐にも言われたよ……」
「うぇっ!? フィーナさんって実は父さんより歳上なんですか!?」
「そっちじゃないよ! 肩肘張るなって方!!」
「あぁ。……良かったぁ」
ちょっと怒った感じになると、フィーナさんの耳がピンとなるんだなぁ。面白い……。
「もう、ショーくんってば大人をからかって……」
「すんません」
「ほんとにもう……」
口調では腹を立てたような感じだが、反面その表情は穏やかでどこか嬉しそうにも映った。
「で、あたしの秘密を教えたんだから、ショーくんもなにか秘密を教えてよっ」
「いや、俺には秘密なんて……」
大きなもの抱えてますけど……。実は女でした、くらいの驚きは与えられるであろう、実は死人です! 異世界から来ました! というふたつの秘密があります……。
「無いのー?」
頬杖を付きながら口を尖らせるフィーナさん。もう今は取り繕うことをやめたらしい。
「そんな特に思いつかないですけど……」
「じゃあさ、好きな子誰よ?」
「へ?」
「好きな子だあれ?」
「あ、いや……」
「あれだけ女の子に囲まれてたら、気になる子とか出来てもいいんじゃないの? ほら、サニーちゃんとかアリスちゃんはショーくんに気がありそうじゃない?」
「うぇぇ? そんなことないっすよ……俺なんて」
自分が弄られるのはあんまし慣れてないから防戦一方になってしまう。この話題も何かと苦しいものがある。
「またまたぁ。でも他の子も可愛いしね。ローズちゃんとか、ちっちゃいのに大きくて……」
「人の妹のこと、そんな風に思ってたんすか!? 確かにちっちゃくて大きいっすけどっ」
「まぁでもショーくんまだ成人してないし、焦って今から選ぶ必要も無いのかあ。じゃ、あたしも候補に入れてもらおっかなー」
「えぇ!? どうしたんですか急に!?」
「だって、これ見られちゃったしぃ……」
フィーナさんが耳を指さしながら言う。見られた、というよりは同意の上でだったように思うが……。
「だから責任取ってもらわないと……ねぇ?」
「ねえ? って言われましても困りますよ……ん?」
「どうしたの? 急に立ち上がって足音消しながら立ち上がって」
「しっ。フィーナさんは帽子を」
「う、うん……」
真面目な顔で伝えるとフィーナさんは言うことを聞いてくれた。何かの気配を感じた俺は、ドアを勢いよく引いた。
「「「うわぁ!?」」」
「痛って!!」
ヴィオラさん、シャロンさん以外の四人がなだれ込んできた。俺が痛がったのは、ドアの隙間に足の指を挟んだからだ。
「姉さんたち何してんのさ……」
「あははは……」
姉さんの乾いた笑いがしんとした部屋に広がった。
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