シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第100話】帰郷④




 「こ、これは……」

 「見るなっ!」

 ネコだ。というより女豹だ。女豹コス。胸元の開いたヒョウ柄のバニースーツ、お尻からは尻尾も生えている。両手にはモコモコの肉球グローブ。スラリとした脚には網タイツだ。やべーよどストライクだよ。

 ……、女豹に肉球グローブっているかな?

 「鼻血出そう……」

 出そうというより出た。

 「お姉ちゃんまでえっちになった……」

 「わたし自らなったわけじゃないぞ!?」

 「エリーゼ、やっぱりわたしの娘だけあって似合うわね〜」

 「お母様! これがネコだと言うのですか!?」

 「母さんよくこんなの思い付いたね?」

 「若い時に賭博場に行ったことがあって、そこで働いてる女の子がそれに近い格好をしてたのを、文化祭の時に思い出したのよ」

 なるほど。文化祭で俺らがやったメイド喫茶のせいか。で、カジノのうさ耳バニースーツを思い浮かべて……、か。

 「でもさ、母さんは、『幼女』って言われるくらいには見た目が幼かったんでしょ? よく賭博場なんか入れたね?」

 「多分普通の幼女なら門前払いでしょうけど、『紅蓮の幼女』はそれなりに名が知れてたのよ。最強可愛い魔法少女ってね」

 「そういうこと……」

 「お兄ちゃん。お兄ちゃんはこういうえっちな服装ってどう思うの?」

 「おいおいローズ。えっちな服装とか言うんじゃないよ。着てる姉さんが可哀想じゃないか」

 「こっちをチラチラ見ながら言っても説得力が無いぞ?」

 「お姉ちゃん、その尻尾って自分で動かせるの?」

 「ん? ああこれか。んしょ。案外動かせるぞ? 尻尾なんて今まで無かったから不思議な感覚だな」

 「ふーん」

 スッとローズが尻尾を撫でる。

 「ひゃっ」

 「どうしたのお姉ちゃん?」

 「大丈夫だ、何でもない」

 ローズがこっちを見てくる。ので、俺は頷いた。もう一度やれと。

 「ぎゅ」

 「はうぅっ!」

 「エリーゼったらお昼からなんて声を上げてるのかしら……」

 「いやんっ、そのっ……」

 姉さんが弁明しようとするも、ローズが尻尾を弄るので会話にならずに姉さんはただ耐えるのみ。恥ずかしさとその尻尾から伝わる電気信号によって、姉さんの顔は紅潮し、息は乱れていた。かつて庭で鬼ごっこをしていた健全な姉妹は何処へ行ってしまったのだろうか。今はまさにエローゼとエローズの2人によるキャットファイトの最中である。

 「まぁ、ただただエロいですよねーはい」

 この2人の今のシーンをおかずに白いご飯が何杯でもイケてしまいそうな気がする。……でもやっぱ、見てる方に集中し過ぎて箸進まなくなっちゃうかな? テレビと一緒だな。

 「いいよぉ〜お姉ちゃん。いいよぉ〜」

 ローズに変なスイッチが入っているようだ。Sっ気が元からあるような我が妹だが、今のは何かの監督やカメラマンのようなリアクションだ。

 「やんっ、やめ……ろぉ……」

 姉さんが力無くか弱い抵抗をするが、それはこういう時には加虐心を煽る起爆剤にしかならないのだと俺はこの日学んだ。



______。



 「何でも言う事聞くから、助けてくれっ」

 その一言でキャットファイトは幕引きになった。とりあえず俺がローズを抑えて、その間に母さんが魔法を解く。笑って姉妹のやり取りを傍観していた母さんはどんな気持ちでいたのだろうか。

 助けてくれと言われたから助けてあげたのに、姉さんの口からは感謝の言葉が無く、むしろ助けるのが遅いだの、そもそもこっちを見るなだの、酷い言い様だった。謝ってくれ、とお願いの権利を使ってしまおうかと思ったくらいだ。

 「で、わたしは何をしたらいい?」

 「その言い方の時点でなんか頼み辛いんだよね……。別に今何かしてほしいってわけじゃないから、時が来たらよろしく頼もうかな」

 「そのまま忘れてくれても構わないんだがな」

 「姉さんとデート行きたいって言っても?」

 「……」

 「「「(あ、考えてる……)」」」

 母さんもローズも俺と同じことを思っただろう。姉さんがそれくらい見事な思案顔になったから。

 「それはそのあれだ、別に特別お願いされなくてもショーが望むならいつでも……」

 「エリーゼはショーにゾッコンなのね〜」

 「お兄ちゃん? お姉ちゃんばっかズルいよ!?」

 「いや、別にゾッコンとかそういうのじゃなくてですね……」

 「ローズも一緒に行くか?」

 「ショー? そこは"一緒に"じゃなくて"2人で"っていうのがオンナ心をくすぐるものなのよ? ねぇローズ」

 「そ、そうだよっ。それにデートっていうのは2人きりなのが普通なんでしょ?」

 「そりゃそうだけど……」

 そこは家族だしある意味割り切った関係というか……。

 「まぁじゃ、そのうち行こうぜ?」

 「はいっ!」

 「わたしも忘れるなよ?」

 「はひっ!」

 「ふふ。ホント仲良いんだから……。妬けちゃうわね〜」

 「母さんも行く?」

 「そうやって女の子を落とすのかしら?」

 そんなモテ男みたいなことは俺には出来ませんて……。

 「さ、お昼はササッと済ませて、みんなで夜の買出しに行きましょ?」

 「頑張れよショー」

 「へ?」

 「お兄ちゃんが荷物持ち!」

 「あっ、ですよね……」

 こんなオチでもいいもんね! 自己強化魔法で腕力馬鹿になってやるんだからっ。


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