シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第99話】帰郷③



 「目を覚ますと、目の前は花畑に覆われ、川のせせらぎが微かに響いてきているのであった……」

 「あらあら、ショーは臨死体験してたみたいねぇ」

 「おかえりなさい、エロ兄ちゃん」

 「ただいま……」

 手にまだあの感触が残っている。まさに身体が憶えていると言った感じで……。思わず手をグーパーグーパーしてしまった。

 「まだ、眠り足りないか?」

 姉さんが眉間にシワを寄せ、握りこぶしを作る。

 「いえ、結構ですはい……」

 「お母さんなら、いつでも受け止めてあげるわよ?」

 「えっ……!?」

 「何を嬉しそうな顔してるんだお前は!?」

 「いやだって」

 「だってじゃな」

 「お兄ちゃんがどうしてもって言うなら、わたしも受け止めてあげてもいいかも……」

 「ローズも! わたしの台詞を遮ってまでそんなこと言うんじゃない!!」

 「持たざる者の嘆き、ですな……」

 「なっ!?」

 「ぐへっ!!」

 黙らせる為だけに水下みぞおちへの掌底は勘弁願いたい所なんだが……。最近威力強くなってきてないかな? 最終的にはベクトル変換シールドでも張っておかなきゃ即死したりしてな……。

 「もう、エリーゼったらそんな事でぷんぷんしてちゃ、女としてダメよ?」

 「うっ……。ショー、その、すまなかった……」

 「姉さん可愛いんだから、素直になればモテるのに……」

 まぁ学校であのモテっぷり(主に同棲から)を見てるから、そこに落ち着きというか、お淑やかさというか、レディ的な要素が加われば向かうところ敵無しに思える。

 「別にわたしは他人からモテようなどと思っているわけでは無い! ショーはわたしにモテてほしいのか……?」

 「まぁそりゃ……。自慢の姉がモテてるのは弟としても鼻が高いっていうか……。でも、姉さんが他の人の所に行っちゃうってのもちょっと……」

 「ちょっと……?」

 「嬉しくないっていうか面白くないって言うのが本音のような気がしないでもないような……」

 「ふふっ、そうかそうか」

 どうやら高得点の回答だったらしい。連続のブラックアウトオチは免れたようだった。

 「でさ、ローズの件も無事円満解決したわけだけど」

 「胸、触られた」

 折角俺が円満というフレーズを強調したのに、その意図を踏み躙るようにローズが口を挟む。まぁ当然っちゃ当然だけど。

 「でさ、ローズの件も無事円満解決したわけだけど」

 「そこで無視する!?」

 「俺が不利になる状況が目に見えてるから、出来れば触れずにそっとしておきたかったです」

 「本音丸出しじゃないか……」

 「どーする? 帰るの?」

 「あらあら、ショーは帰りたいのかしら?」

 「いやどうせならゆっくり、母さんの超激ウマ手料理を食べて行きたいんだけど……」

 「外泊許可を……」

 「貰い忘れてしまって……」

 「それなら、わたしが連絡してあ・げ・る」

 「「「???」」」

 え?

 母さんが席を立ち棚の引き出しを開けて何かを取り出した。サイズはほぼスマホくらいの透明なガラスのようなものだった。

 「これは共鳴晶といって、ひとつの魔法をかけた水晶を幾つかに分けてあるもので、特性として文字通り元が同じもの同士で共鳴するっていうのがあるの。マナを流し込んだ状態でこの共鳴晶に話しかければ、声の振動が別の水晶に伝わって会話が出来たりするの。持っている者同士、急に共鳴晶が割れたら身の危険があった、とか分かるっていうのも便利な点ね」

 まぁ、要するにワ○ピースに出てきたビブ○カードの通話ができるバージョンみたいに思っておけばいいってことかな?

 「元の水晶の質によって、マナの伝導率が大きく異なるから声がハッキリ聞こえるものとそうでないものとかなり差があるの。その差が値段に直結するのが難儀なところね」

 電話帳の追加の出来ないケータイか。あ、でも自分が持っているやつの欠片とかを渡せば出来ちゃうのか。

 「もしもーし、リーヴァ? 今日うちの子供たち、寮じゃなくて我が家に泊まるから諸々宜しくね〜」

 一方的に話すだけ話して切り上げてしまった。リーヴァ先生、喋らずに出番終わってしまうなんて可哀想。まぁ、母さん相手だったし残念でしたとしか言いようがない。

 「ハイこれで完了〜」

 「じゃあゆっくりしていけるんだぁなぁ〜」

 「どしたの、お兄ちゃんそんな脱力して」

 「いや、いろいろリアクションに疲れたのよ、今日は」

 「む。どうしたショー、なんでこっちを見る?」

 「……、姉さんはネコにならんの?」

 「何でそんなことを気にする?」

 「姉さんのネコ姿も見てみたいんだけど……」

 「ショーの願い、わたしの魔法で叶えてあげようかしら?」

 「え、母さん出来るの?」

 「変装の一種は得意よ。何せわたしネコになるんですもの」

 「そう言われりゃそうだった」

 「待ってください、わたしはやるとは……」

 「あらあら、エリーゼちゃんはわたしに可愛い姿を見せてはくれないのね? このままじゃきっと彼氏が出来ても子供が出来てもその顔を見せてはくれないわ……」

 「そんな事はありません! わかりました、なりますから!」

 「チョロイな〜」

 俺も姉さんの可愛いネコ姿見てみたいからな。

 「お兄ちゃん、心の声が出てる」

 「本音と建前間違えただけだから気にするな」

 「本音は本音だったのね……」

 「じゃあいくわよ〜。萌え萌えネコちゃんのエリーゼちゃんの登場でーす!!」

 母さんが指をくるっと回すと姉さんの服が光ってそのシルエットを変貌させていく。

 「こ、これは……」



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