シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第97話】帰郷




 11月のとある土曜日。俺は姉と妹と我が家へ向かっていた。10月頭までは残暑がどうこう言われていたが、さすがにもう冬の装いといったところ。

 姉さんはマフラー装備だし、ローズは手袋にフード付きのローブを羽織っている完全武装。ローズがローブを纏うと魔女感が凄い強まる。あ、ローロー五月蝿くてすみません。

 「夏休み中顔だして以来、3ヶ月ぶりくらいになるのか……。お母様は元気にしているだろうか……」

 「あの母さんなら大丈夫でしょ。それよりも今は家にいてくれることを切に願うよ」

 「そうだな……」

 「ローズ、そこまで防寒対策しなくてもいいんじゃねーの? 冬将軍迎え撃つのまだまだ早いよ? せっかく可愛いんだからさらけ出しちゃえよ」

 「やだ! 絶対ムリ! 恥ずかしすぎるもんっ!!」

 「いやいや、本当に可愛かったって。ねぇ、姉さん?」

 「ああ……。とても愛くるしくて堪らなかったな……。なんというか、ずっと触っていたくなるような……」

 「もう、お姉ちゃんまで!!」

 ローズが何をそんなに恥ずかしがっているのか、それは朝イチにこんな出来事があったからだ。



______。



 特に何の変哲もない普通の土曜日。意識が中途半端に覚醒した俺は、自分の上になんの重さも感じないことで、アリスさんの襲撃が無かったことを悟る。寝ぼけまなこで隣を見やると、もふもふしたぬいぐるみのような物を発見。それを抱き枕にして二度寝を敢行した。

 二度寝から覚めたとき、腕の中に包まれてるのに押し返されるような柔らかさと温もりが伝わってきて閃く。これはぬいぐるみではなくローズだったと。11歳の妹であるローズのおっぱいを鷲掴みにしていたのだと。

 その衝撃と背徳感によって急激に血の気が引いた。いっそクラっといってしまえた方がラクだっただろうが、目の前の事実に目を背けることが出来なかった。

 ……ローズの頭から、ネコ耳が生えていたのである。

 とりあえず胸から離した手を頭に持っていって撫でてみる。もふもふの正体はこれだったんだな〜と実感。ネコ耳だけど特に獣臭がする訳でもなく、普通に普段のシャンプーが香るだけだ。

 とりあえず姉さんを起こすことにした。状況が掴めなさ過ぎる。何故ローズがネコ耳なのか見当もつかない。

 「姉さん、朝だにゃ〜」

 土曜日の姉さんは比較的始動がゆっくりである。普段しっかりと早起きだが土曜日は週の疲れが出るのかそんな感じだ。長いブロンドの髪を束ねずに寝るから、貞子みたいになってどっちが顔か分からないことがあるのが怖い。

 決して胸が無いからどっちが背中なのか分からないと言っている訳では無いのでそこは注意していただきたい。

 「んんぁ……、おはようにゃー?」

 完全に寝ぼけててよく分かってないながらも、俺の口調を真似て返してくれた。姉さんも案外ネコの格好イケるんじゃないかな……。

 「にゃー。ショー、なでなでしてほしいにゃー」

 「よしよし、お姉ちゃんは可愛いね〜」

 「お兄ちゃん、わたしも撫でてー?」

 ……なんてな。一瞬の妄想トリップから帰還してみると、姉さんも俺の頭越しにネコ耳をもふもふなでなでしていた。

 「ショーはいつの間にぬいぐるみの趣味が芽生えていたのか?」

 「あ、いや……そういう事じゃないんだよね」

 身体を起こして、ローズの身体を反転させこちら側へと向ける。

 「こういうこと」

 「なんと……。こういう髪留めもあるのだな。可愛いじゃないか」

 「髪留めじゃなくてガチのやつっぽいんだけど……」

 「そんなわけ……、いや、境目が無いな……」

 「どうしたらいいのかね、コレ?」

 「わたしにもさっぱり……。と、とりあえずローズを起こすとしよう。話はそれからだ」

 とりあえずローズを起こして一通り驚いてもらって、状況を整理することにした。

 「なんか、そのネコ耳について知ってるか?」

 「さっぱり分かんない」

 「どっちの耳が機能してんだ? 人間のとネコのと現状二種類ついてるけど……」

 「特に聴こえる音の大きさとか変わんないから、人間の耳なんじゃない? あ、でも遠くっていうか、小さい物音もなんとなーく感じるかも」

 ローズはネコ耳をパタパタ上げたり下げたり、開いたり閉じたりと案外器用に新しい体の一部を操っていた。だが、俺の関心はもう一つ別のところにあった。

 「ちょっと後ろ向いてもらっていいか?」

 「こう?」

 ローズが後ろを向くと、やはり定番というか尻尾が生えている。それをツーっと指差しでなぞってみる。

 「んにゃぁ!?」

 「あははは、やっぱりそうなるのか〜」

 「いま、何したの!?」

 「姉さんも触ってみ?」

 「あ、あぁ……」

 姉さんが触りたそうにウズウズしてたので、そのポジションを譲ってあげることにした。

 「凄い……本物……なんだな」

 「うぅ……、あっ……、んっ……、お姉ちゃん……」

 よくあるネコ耳、獣耳娘に必ずと言っていいほど付属される尻尾。そのほぼ全てが尻尾が敏感で弱いという定説は今回も覆らなかったようだった。この確認がしたかった。

 「そんな反応をされると、もうちょっとしたくなってしまうな……」

 「あぁ、ダメ……」

 「ストップストップ。なんかこれ以上はマズそうだから、ね? 見てるこっちがなんかおかしくなりそうだよ。てかよく見ると手も肉球っぽくなってるんだな……」

 「残念……。で、これって治るものなのか?」

 「ローズもなんか昨日謎の液体を誰かに飲まされたとかないんだよな?」

 「なにそれ……。うん、特になんもなかったよ」

 「じゃあとりあえず母さんに聞きに行こうか……」

 「そうするとしようか。久しぶりに我が家へ帰るのも悪くないしな」

 「わたし、この格好で外出たくないよ?」

 「大丈夫だって。どうせ地域によりゃあ、ローズと同じようなネコ耳生やしたエルーン族がいるんだろうし」

 「確かに実在するらしいが……、よく知っているな」

 「なんとなーくね」

 こういう異世界転移の魔法ファンタジー的な世界では、ネコ耳のエルーンとか角のドラフとかがいるのがお決まりのやつだし。あとは耳の長くて長寿のエルフ族とかかな? まぁ実際にまだ見たことは無いんだけども。

 「とりあえず隠さなくっちゃ……」

 「わざわざ隠すのか? 勿体なくねぇ?」

 「恥ずかしいんだってば! こんな耳で外を出歩いたら一躍変な注目浴びるんだよ? そんなのやだもんっ!」



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