シスコンと姉妹と異世界と。
【第95話】ショーとの任務②
「すみませんサニーさん。護衛任せてもらったのに……」
第一声はそれだった。先に謝られてしまった。謝らせてしまった。
「アンタらは……、ホントにクソだ。生きる価値もねぇ掃き溜めだ。許せねぇよなぁクソ共」
「おいおい、誰だこの糞ガキ!? 人様をクソクソ言いやがってよ。オメーみたいなちびっ子が英雄気取りかぁ、あん?」
「コイツ、この女と一緒に来てたやつじゃねーか!? なんで生きてやがる? 毒を盛ったハズじゃなかったのかよ!?」
「黙れよ愚図。6対1で未だに手を出して来ないってんだから舐められたもんだ。……、マジで最悪の気分だ。自分の情けなさもお前らのカス虫加減も許せねぇ。喋ってねえとキレて飛んじまいそうだぞコラ。ついでに言えば毒なんか効かねーよ。あの程度のモン勝手に身体が治るわ」
そんなやり取りが続いた。本当にショーくんは怒ってた。寒気がするくらいの質感のマナがショーくんから漏れ出してるのが感じられて……。ちょっと怖いくらいだった。
「まぁでも少し回った分寝ちまったけどな……。そのへんはホントにすいませんサニーさん。そんな姿にさせちまって。お詫びは1000倍返しでもなんでもしますから。だからもう少しだけ待ってて下さい」
そう言って、拘束を手早く解いていきながら、わたしを励ますように笑ってくれた。
「うん。うんッ……!!」
「感動の再会は済んだか? どうせなら最期の別れの言葉も伝えておいた方がいいんじゃねぇのかァ!?」
そう言ってリーダー格の男が銃を構える。ショーくんはそれでも微動だにせずに正面を見据えていた。
「止めといた方がいい。そんなものをこんな所でぶっ放せば痛い目見るのは自分だぞ?」
「生意気なガキめ。ビビってんだろ!? 三つ指立てて土下座して、俺ら全員の靴でも舐めたら考えてやらんでもないがなぁ!? ハハハハッ!!」
「死ねよ、カス共がッ」
「止めて!!」
ショーくんが一言発した所で引き金が引かれた。反響した銃声に耳が片方やられてしまったように思える。もしかしたらこれが命取りになるかもしれないと思って後悔した。
「なッ!? ぐっ、ぎゃぁぁぁああ!!」
撃たれたのは間違いなくショーくんなのに、痛がっているのは撃った本人の方だった。見れば左足から血が流れていた。
「こっからはサニーさんは目を閉じてた方がいいかもひれむせん」
あ、噛んだ。そんなことを思えるくらいに思考に余裕が出てきていた。ショーくんが助けに来てくれたのがこんなにも嬉しく心強いなんて思わなかった。
「目を閉じてた方がいいかもしれません。本気でやるんで」
「大丈夫。どっちかって言ったら、そんなまじまじと見られると恥ずかしいから、ショーくんに目を閉じてほしいんだけど」
「そんな冗談が言えるならイイっすけどねっ」
リーダー格が撃たれたことに驚き思考が止まっていた部下達が復活し、こちらへ銃が向けられたと見るやショーくんが素早くわたしを抱えて距離をとって、そこを弾丸が残像を殺すように通過していった。
「43キロくらいっすかね」
「撃たれて死んじゃえばよかったのに」
「姉さんより軽いっすよ」
「うるさいうるさいッ!」
「当たっちゃいました?」
「…………」
「ガキ共がどこまでも舐めやがって……。ぶち殺してやるッ!!」
そんなリーダー格の言葉を合図に、手下達がいっせいにショーくんに襲い掛かった。と思ったらショーくんが消えていたの。
「なっ!?」
ショーくんは気付けば自ら敵に囲まれるように、下っ端1人の後ろに立っていた。そして肩に裏拳を入れた。
「ガラ空きだバカ」
ただの軽い裏拳にしか見えなかったのに、その男の人は物凄い勢いで壁にめり込むようにふっ飛ばされてしまった。しかも肩は完全に骨が砕けているように見えたし、他の骨も多分激しく損傷してるように思えた。そんな衝撃的な一瞬の出来事に一同沈黙。
「こんなモンか?」
「後ろだバーカァ!!!」
「危ない!!」
背後からショーくんの後頭部に向けて男の拳が炸裂した。すると触れた瞬間に男の腕がひしゃげ、弾け飛んだ。そこからはもう凄かった、ほんと。他の連中もショーくんに発砲したり殴りかかったりしたけど、全部反射してしまったようだった。沈黙。
「ハァ、ハァ……、そこまでだぜ糞ガキ……」
「ッ!! テメェどこまでも……」
「卑怯なんて言ってくれるなよ? こっちは悪党なんだから、これは当然だろう? それに、こっちの損害は5人出てんだ。文句は無えよなァ?」
わたしは男に片腕で手首を捕まれ宙吊りにされた。そこにナイフを突き立てられた。そう、人質にされた。圧倒されてたとはいえ油断してしまった自分を呪った。
「もうあと数分で異変に気付いた部下達がここに来る。黙ってそこでコイツの恥ずかしい所を見てな。おっと動くなよ? 動けばこのナイフはこの女の背中に突き刺さることになるぜぇ?」
「ショーくん!! わたしのことは気にしないでコイツを」
「黙ってろよこのクソアマァ!!」
胸の下着を引きちぎられてわたしは上半身裸になった。
「おほっ。ガキのくせにイイ身体してんじゃ」
男の声が急に途切れたと思ったら身体が床に落ちた。その拍子に床に手を突くと生暖かいものに触れた。血だった。
男は下半身だけで立っており、上半身は無くなっていた。男の目の前にはショーくんが拳を突き出して立っていた。回らない頭を回すと、ショーくんが男を殴って上半身を消し飛ばしたのだという結論に至った。信じられない話だけど。
後で聞いてみたら、ベクなんたらがどうこうって言ってたけど、座学に関してはわたしは苦手だからよく分かんなかったんだよね。
「すいません。耐えきれなくなって……俺、俺ッ」
ショーくんはわたしの拘束を解きながら、泣いていた。当然、自分が人を殺した、命を奪ったことによるものだとすぐに分かった。
「でも、わたしを助けようとしてくれたんでしょ? 助けてくれたんでしょ? 誰がなんと言おうとわたしはショーくん、あなたに命を、心を救われたの」
「でも、でもッ」
「いずれ学校を卒業するにあたって、『殺し』の経験は不可欠とされているの。守るために全霊を尽くし、その十字架をずっと背負う覚悟が無ければ騎士なんて出来ないから。騎士は戦争の道具にもなりうる。最前線で人と命のやり取りをしなければならないんだから」
「…………」
「ショーくん。こっち……、向いて?」
「…………ん!?」
わたしはショーくんを抱きしめながらキスをした。
「助けに来てくれて、ありがとう。誰がなんと言おうと、誰が責めようと、今度はわたしがあなたの盾になる。だから泣かないで胸を張って?」
「はいッ、はい……ッッ!!」
その後もショーくんはしばらくわたしの胸の中で泣いてた。可愛いな、なんて思えるくらい冷静になると、わたしは自分がどんな姿でいるかを思い出してしまった。上半身裸でパンツだけ。ショーくんが泣き止んですぐ、損傷の激しくない小さい下っ端の服を失敬して身につけた。
それで少ししたら、衛兵部隊が到着したの。話によれば、目をつけていた悪党の集団が急に動いたので、とっちめて話を聞いてみたらここで……という事だったみたい。そんなこんなで事件は終わりへ向かいましたとさ……。
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