シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第92話】貸し出し権⑱(サニー編)




 「いや〜……、疲れたなぁ」

 時刻は午後11時30分。みんなが寝静まったとみて、死体ごっこよろしく、今独り露天の桶風呂を出て、広い浴槽に仰向けで浮いている。

 思えば朝から濃厚な1日だったよなぁ。起きて、アリスさんにおめかししてもらって、サニーさんたちの服に目を奪われ、汽車で朝メシ奪われ、岩石崩れ片付けるついでに姉さんに魔法使わせてみたり……。

 午後はしょうもないチンピラがやられにきて、タダ飯食わせてもらって、旅館で遊んで……。ちなみにビリヤードは魔法アリでやった時に、ステラさんが最初の最初の打ち出しで全てのターゲットを落とすという事件を起こした為に、魔法無しで楽しむことになった。ステラさんは一体どこまで緻密な演算をしたのだろうか。ちなみに魔法無しでのプレーでは、ゾラさんが最下位だった。敗因としては本人曰く、胸が邪魔だった。

 ビリヤードの後は普通に卓球を楽しんだ。万が一魔法を使っていたら、それはただの○ニスの王子様になってしまうのが見えきっていた。スネイクだの波動球だのドライブBだの……。

 カラオケ(アカペラ)大会も盛り上がった。各々自分の好きなこの世界の曲があるようで、みんなこぞって歌いたがった。中でもサニーさんは別格だった。しっとり歌う系の姉さんとは違って、声量とキレとで観客(大広間の入り口付近で聞き耳を立てていた仲居さんたち)を圧倒していた。アップテンポでアゲアゲってかんじだった。

 夕食は湖でとれた魚が煮付けにされたり、刺身として出てきたりと和食テイストで固められていた。川の臭いがしない鯉みたいな感じの魚だったけど、こっちでは名前なんていうんだろな……。

 「とまぁこんな感じですよねー」

 (誰に語りかけているのですか?)

 (あーいや、ナビ子は気にしなくていいんだ。こっちの話)

 (そうですか……。にしてもすごい格好ですね)

 (風呂だし裸なのは当然じゃね?)

 (下を丸出しにしてプカプカしてるのは普通と言えるのでしょうか……)

 (どうせ人なんか来ないんだしいいじゃんか)

 (…………)

 (ナビ子もさすがに気にするか?)

 (ただの1人のナビゲーターとして申し上げるのであればなんにも気になりませんが、今後人間になるかもしれないナビ子として言えば少々恥ずかしいというか、刺激が強いかなと思います)

 (そかそか)

 (……、隠さないんですね)

 (誰も来ないもん。それにたまにはこうして浮力に身を任せるのもいいもんだぞ。余計な力が入らない分疲れが取れそう)

 「あら、ショーくん……」

 「あら、マリーさん……? ……ッ!!!」

 (だから言ったのに……)

 (お前今のはわざとだろ!)

 「す、すみません……。お見苦しい物を……」

 「いいのいいの。お客様は寛ぐのが仕事なんだから」

 「この時間ってマリーさんや仲居さんたちも入るんですか?」

 「皆さんはもう先に入ってもらってます。これでも女将やってるんだから、一番先にお風呂に入るわけにはいかないもの」

 なんやかんや会話を続けているが、フツーに裸の付き合いである。当然水着で入ってくることなんか無く、ましてや俺がこの時間に入ってるなんて思いもしなかっただろうし。

 あ。出る時どうしたらいいんだろ。桶風呂にタオルがかかっとりますやんそう言えば。マリーさんも一糸まとわずの姿だったけど、女性はまぁ上手いこと湯けむりが隠してくれるように出来ているからな、世界は。

 「なるほど……」

 「ちょっと〜、折角お話してるんだから顔くらいこっち向けてちょうだいな」

 「いや、でも……」

 「いーのいーの、こっちが気にしないって言ってるんだから」

 「こっちが気にするんですけど!?」

 「だってねぇ……。あなたのお母さんは15の成人迎えてすぐ結婚してエリーゼちゃんを産んで、今や3児の母。それに比べてわたしは今の今までなんもナシ。なんかいちいち細かいことなんか気にならなくなるわよ……」

 裸を見る見ないって、細かくないと思うんだけど……。少なくとも思春期のぬか漬けみたいな俺にとっては超巨大案件だ。幕府の次期将軍決めるくらいの大事おおごと

 「マリーさん美人なのに……」

 「あら、じゃあショーくんが成人したらお嫁にしてくれるかしら?」

 (ちょぉっとまったぁぁぁああ!!)

 夜中に脳内で響き渡る女性の絶叫。それはもうホラーだった。

 「どうしたの黙っちゃって」

 「なんか不味いことになりそうで……」

 「え?」

 「人が来ますね、おそらく」

 「え? えっ!?」

 ガラッと露天と中を繋ぐ扉が開かれ、声の主であるサニーさん(タオル装備)が突如として、烈火のごとく乱入してきた。

 「いないと思ったらこんなたわわなお姉さんと裸で隠さずに並んでお風呂入ってるなんてどういう事なの!? バカなの!?」

 エラい剣幕で蔑まれる。罵倒される。なんだろう、ちょっと嬉しいと感じてしまう自分の存在を否定出来ない。

 「お風呂行きたいなら声掛けてよ! てか、掛けなさいよ!!」

 時間帯もあるから声そのものはそんなに大きくない。それでも圧もあるし勢いもある。凄い話術だ。俺が面接官なら即採用に印鑑を押していると思う。

 「わたしはお邪魔だったかしら……。ならそろそろ出ようかしらね。あとは若いふたりで楽しんでちょーだい……はぁ……」

 「出たら見えちゃうじゃないですか!? タオルはどうしたんです??」

 「ショーくんがいるなんて思わなかったから、入ってすぐの洗面用具置き場に置いて来ちゃったのよ」

 「え」

 「もしかして持って来てくれちゃった?」

 要するに、サニーさんは勢いよくこっちまで来たものの、水着を持ってくるのを忘れてそのまま入って来、すぐ側にあったタオル(マリーさんが持ってきたヤツ)を片手にこっちまで来たと。

 詰みやん……。


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