シスコンと姉妹と異世界と。
【第80話】貸し出し権⑥(サニー編)
「すー、はー」
駅について汽車から降りる。深呼吸をしてみればやはり若干硫黄の匂いが鼻腔を突く。
「うん、箱根で間違いないな……」
「ご子息ーーーッ!!!」
う
神奈川県の箱根を思い浮かべていると、そんな声がホームに響いた。どこかしら良家のおぼっちゃんでも一緒の汽車に乗っていたのだろうか。
「何かしら?」
「アレは……」
「……誰だ?」
姉さんには心当たりがあるらしかった。俺には全く無し。ローズにも無さそうだった。サニーさんたちも勿論知らないといったご様子。
「お待ちしておりましたご子息」
「あのー、人違いですよね?」
なんで俺に駆け寄って来たの?
「いえいえ、君はかの『黄金獅子』アレクサンダー・ヴァッハウの息子のショー・ヴァッハウだろう? 覚えてはいまいか、僕のことを」
「……」
「ショーくん、お知り合い?」
「いや、うーん……どこかで……父さん繋がりでしょ……。文化祭のときに一緒に来てたりとかしました?」
「惜しいな。確かに僕もアレックスさんに同行させてもらったが、ショーくんとは会えずじまいだったんだ」
「じゃあ思い出せないです」
「簡単に諦めてくれるなよ……。ほら、もう1人の少年と一緒に強盗に襲われた店主さんを助けてくれただろう?」
「ああ、あの時の……」
「そういうこと。これでも僕は分隊長なんだから。改めてレオンだ。よろしく頼む」
「「「よろしくお願いします」」」
みんなでとりあえずお辞儀をした。
「で、何かあってここまで来てるんですよね?」
「そう! ローズちゃん察しがいいね」
なんか掴めないテンションの人だな……。やりづらい。
「お父さんから何かあったら、息子たちがいるから使ってやってくれ、って言われててね」
なんで箱根に来てること知ってるんだか。GPSでも埋め込まれてるのかな俺の身体ってば。
「で、何があったんでしょうか?」
「詳しくは移動しながら話すよ。君たちの荷物は僕が全部持つから、その分走ってくれるかい?」
「了解しました!」
姉さん返事の威勢が良過ぎるでしょうに……。やっぱり騎士に憧れというかそういうのがあるんだなぁ。俺としては走るのはあまりオススメしたくなかった。
平たく言えば姉さんには胸がなく、他の5人の女子には胸があったからだ。揺れると痛いっていう人もたまにいるらしいし。……俺の目の保養にはなるかもしれないけど。
結局姉さんは自力で走り、あとのメンバーは魔法による補助を使ってレオンさんについて行っていた。
「結局どういうことなんです?」
「さっき話してた、今日君たちが日帰り温泉を楽しむ予定の宿の近くで土砂崩れが起きていてね。それの復旧作業を少しばかり手伝って欲しいってわけさ」
「なんで僕らが名指しになるんですか?」
「そりゃその宿がデュボワ商会の息が掛かってて、そこにそのご令嬢がいるとなれば、ねぇ?」
「利用客名簿から割り出したってわけね……。パパもなんというか余計な事を……」
「おいおい、仮にも騎士学校生なんだから、余計とか本音をぶちまけてくれるなよ……」
「あ、つい……」
まぁ、面倒ではあるけど……魔法でなんとかしてくださいってことなのかな。で、この報酬で温泉代と電車賃を持ちますよ、ってことなんだろうなぁ。さすが商売で成功した人だよ……。
「さて、ココだ」
「うわぁ……土砂崩れっていうか岩石崩れって感じだねー☆」
「これは骨が折れそうだね……」
「頑張りましょう!」
「脳筋エリーゼは無理しない方がいいかもよ〜?」
「のーきん?」
「脳まで筋肉、ってことじゃない?」
「うわ、こらローズ! ホントのこと言うんじゃねーよ!!」
「何がホントのことか!?」
「したら僕は一旦温泉宿の方に荷物置くのと、ご令嬢到着の連絡をせないかんから席を外すことになるのであとはよろしく」
重労働は御免だと言わんばかりに、そそくさとレオンさんは山を駆けて行ってしまった。
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