シスコンと姉妹と異世界と。
【第56話】メイドの仕事②
「エリーゼ様、にゃ〜ん」
「?」
「ほら、エリーゼ。クラリスに続いて」
「こんなこと言えるか!」
「お姉ちゃん、折角なんだから」
「でも……!!」
「俺も姉さんの可愛いとこみたいな〜」
「(……チェックメイトね)」
「お前たちがそんなに言うなら……」
「それではご一緒に〜、にゃーん」
「にゃ、にゃーん……」
「まだ照れがありますねぇ」
「慣れるわけがないだろう……こんなの」
「にゃんにゃん、にゃ〜んにゃん」
「にゃーんにゃん、にゃにゃ〜ん」
……なんか会話が始まったぞ。意思の疎通も出来てないだろうから、果たして会話というのが正しいのかはわからんけど。姉さん、ヤケおこしたのかな?
「にゃんにゃ、にゃにゃにゃ」
「にゃんにゃん、にゃにゃ…………は」
「エリーゼ、乗り気ね」
「お姉ちゃん可愛い……」
「……」
なんて声かければいいのか見当もつかない。何言っても俺が痛い思いしそうな気がしてならないから。
「……じゃあ、次はローズちゃんね」
「さっきみたいなのはちょっと……」
「学校で使うのにちょっと良さげなのは、これからやるやつよ」
「傷を抉るような……」
「…………」
姉さん流石に黙りっぱなし。
「美味しくなぁれ〜、美味しくなぁれ〜、萌え萌えきゅん♡」
「きゅん……」
「美味しくなる魔法の呪文です♪」
「これをやればいいんですか?」
「これならお客様に周りの目のある中で恥ずかしい思いもさせないで済むしね〜」
「執事の場合はどうすればいいんですか?」
「執事は……わからないや〜。お嬢様っつって『キラッ』と微笑んでれば、喜んでもらえるでしょ〜」
「マジすか……」
「商売って、そんなもんよ?」
「勉強になります!」
「お兄ちゃん、それでいいの!?」
「まぁ、男が『萌え萌えきゅん♡』してもな?」
「まぁ、それは確かに……」
「さ、早く食べましょ。冷めては元も子もないからね。美味しく食べてこその料理なんだから」
______。
食事を済ませた俺たち4人はとりあえず、することもないので部屋に戻ってきていたのであった。
「美味しかったね〜お姉ちゃん」
「ああ、味は。確かに最高だったかもな。カレーなんてのは初めて食べたしな」
姉さんが色々とあったせいで乱れていた浴衣を直しながらカレーについて述べる。風呂上がりの俺やローズ、アリスさんもみんなラフに浴衣である。……実際、向こうで食べてたものと遜色ない味でカレーには驚かされた。
「お姉ちゃんってば、味見って言いながらあんなに食べちゃうんだもん。結局もう一品追加することになっちゃったし……」
「なんか姉さんカレー似合ってたよな〜。食いっぷりがなぁ」
「うぅ……。あんなに美味しいものはホントに久しぶりだったから、つい……」
「まあ、そんなにうちの料理が気に入ってもらえたなら良かったわ。そうそう、食材とかの仕入れとかも手伝わさせてもらうから、気軽に言ってね? あっでも、ケチャップの作り方は企業秘密だから、容器に詰めたものを渡すことになるけど、そこは勘弁ね。ちゃんとお絵描きの練習出来るくらいに用意するからさ」
「でも平気なのか? いくらなんでもそんなに……」
「大丈夫だよ。それに、国営の学園の支援を自発的にしているとなれば、うちの商会の株も上がるしね〜」
「たしかに、それで得られる利益は大きいかもしれないですね」
「ショーくんよく分かってるじゃ〜ん」
「まぁ商売上手なんだろうな、と思いまして」
「ま、それもあるでしょうけど、わたしとしては2人に悔いなく文化祭を楽しんでほしいからね」
「ほんとにほんとに、ありがとうございます……」
「まだちょっと寝るには早いし、どうしようか?」
「なにーショーくん? おねーさんと何がしたいのかな〜」
「あ、いや、特に深い意味があったわけでは無くてですね……」
「んんっ。わたしはとりあえず風呂に行ってくるが、皆は結局どうする?」
「まぁこれといって遊べるものがあるわけでもないもんなぁ〜」
「あっ、そういえば地下にたっきゅうがあったから、それみんなでやってみようか!」
______。
そんなこんなで結局4人で卓球をすることになった。動くことは分かっていたので、卓球してから風呂に入る方がいいと姉さんを説得し成功した。
さすがにラケットのラバーは無かったが、球はしっかりとあの黄色いアレで作られていた。にしてもこの世界の技術レベルってどうなってるんだかなぁ。
元日本人の技術者がこっちに来てて、魔法による補助でそれを再現してる所があるとしたら、それは最早未来の代物になってしまうんじゃないか?
ローズが入学試験の時に使ったあのビーム魔法を、誰でも引き金を引くだけで打ち出せる銃とか……ロマンだよな。
いつかは学校を出たらこの世界を見て回ってみたいな。みんなと一緒に。
「さーて、とりあえずこの木の板で球を互いに打ち返していくんだけど、1回跳ねてから打ち返すのはいいんだけど、2回目跳ねる前に相手陣地に返さないと相手の得点になっちゃうの。ここまで平気?」
「大丈夫だ、問題ない」
「だいじょぶ!」
「はい、平気です」
「最初の打ち出しは自分の陣地で1回跳ねさせてから、相手陣地に入れるんだよね、こんなふうに」
「……なるほど」
「……できるかな」
「うん、大丈夫そうだ」
にしても鮮やかなサーブですこと。結構やり込んでるんだろうなぁ。帰宅部だった俺じゃ勝てなさそう……。人並みには出来ると思うけど。
「じゃ、さっそくやってみよっか! 11点先取ね〜」
「2対2でやるとしてどうする?」
「3回やって全員と組めるようにすればいいんじゃない?」
「じゃあ最初は俺と姉さんが組んでやろっか」
「わ、わたしが伴侶でいいのか!? なんという……」
「伴侶ってのはちょっと違うような……。でも、ま、よろしく」
「じゃあわたしはローズちゃんとね。よろしくぅ」
「はい! やってやります!」
すげえ気合入ってるな。どした急に? しかも卓球なんてローズは初めてだったろうに……。まぁ慣れればソツなくこなしちゃうんだろうし、負かすなら先手必勝だな。
と、思ったんだけど……。
「ほらほら、どーしたのお兄ちゃん!」
「集中しないとあっという間に負けるわよー!」
とまぁこんな感じで五分五分に持ち込まれてるわけで。得点も文字通り互いに5点ずつである。俺は気付いてしまったのだ。眼前で繰り広げられる攻防に。
一挙手一投足、その度に揺れるわ跳ねるわのオンパレード。重力だったり遠心力だったりで見えそうになりながらも、不思議な力が働いているのか見えない。見えた、と思ったらアリスとローズが交差して見えなくなったり……。
そんなこんなわけで、俺は全く集中できなかった。
だから、俺が3戦全敗することは戦前から神によって定められた必然出会ったのだろう。浴衣を着た時点で。
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